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竹中功が塀の中で教えることと、「自分ごと」にすべきSDGs

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
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竹中功さん

多方面で活躍する方に、SDGsに関する取り組みや思い、未来に向けて今私たちがやるべきことなどを語っていただく連載企画「わたしとSDGs」。

今回登場いただくのは、元吉本興業専務、現在は作家業のほか、コンサルタント活動や、刑務所での釈放前改善指導など、幅広い分野で活動される竹中功さん。

竹中さんはなぜ、塀の中で受刑者たちに「リスクマネジメント」を教え続けるのか。そして竹中さんが考える「自分ごと」にすべきSDGsの考え方を紐解きます。

謝罪のプロが教えるのは「コミュニケーション」

改善指導を行なった笠松刑務所での一枚(画像提供:竹中功さん)

現在は刑務所での釈放前の改善指導もなさっているとのことですが、そこに行き着いた経緯を教えてください。

竹中

元々は吉本興業に対して秋田刑務所から「受刑者に文化芸能芸術に触れてもらう一貫」で芸人を呼んでほしいと言う「慰問」を頼まれたのが始まりやったんです。

地方に住んでいる芸人(住みます芸人)を連れて、秋田刑務所に向かったんです。

そこで僕も話してくださいということになって……何を話そうかなと悩んだんですが、「秋田刑務所って、聞くところによると受刑者同士の喧嘩が多いんですよ」と刑務官が話していたのを思いだして。

「みなさんは、喧嘩するのが得意なんやって!?。でもね、男なら出所してから『兄貴』って慕われるような人になってくださいよ。

塀の中で喧嘩したことを自慢しちゃいけない。憧れられ頼られる『漢(おとこ)』になってください」って話したら、その日から半年か1年間くらい秋田刑務所では喧嘩がなくなったそうなんです。

それが噂で広まって、今度は山形刑務所から「秋田でしたような話を、出所する前の受刑者向けのプログラムにしてほしい」って言われて。そこから刑務所での指導が始まったのです。

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改善指導を行なった山形刑務所での一枚(画像提供:竹中功さん)

竹中さんと言えば、吉本興業時代の記者会見での敏腕っぷりから「謝罪のプロ」とまで呼ばれていたイメージがあります。指導内容もつい「謝罪」なのかと思ってしまうのですが……?

竹中

僕の「謝罪のプロ」っていう印象と、釈放前改善指導っていう響きが重なると、どうしても受刑者に「ごめんなさい」って言わせる指導をしてるように聞こえるでしょ? そうじゃないんです。

私が教えているのは「コミュニケーション」。謝罪の仕方じゃないのです。ある意味謝ったかどうかは別として、懲役を済ませ、出所するわけですから、次のステージをどう生きるかを一緒に考えています。

刑務所って、基本的に「問われたことしか答えない」という決まりがあります。

刑務官との私語なんてもってのほか。休憩時間などの自由時間もありますが、自発的に質問をする場面はそんなにないんですよね。

長い間塀の中で暮らしている受刑者さんは、言葉を選ばんとすれば「時代にズレてる」。彼らは会話のキャッチボールが不得意なんです。

そこで僕は繰り返し、雑談をするんです。

そうすると、最初は「どこへ行きたいんですか?」「○○へ行きたい」、「何が好きなんですか?」「○○が好き」などしか返ってこなかった受刑者たちから、「○○へ行きたい。その訳は、自分の母が好きな場所で……」「○○が好きな理由はですね…」と、自発的に雑談を含んで話をしてくれるようになる。

コミュニケーションって、そういうもんでしょ。ただ聞かれたことだけに答えるだけじゃ、それは雑談じゃない。コミュニケーションのベースこそが雑談。それをキャッチボールするんです。

そういった成長がやりがいにもつながっているのでしょうか?

竹中

悪く言うと、毎回おもしろいんですよ。正直最初は怖かったですよ。僕がメインで通っている刑務所は長期滞在の人がほとんどで、凶悪犯罪で収監されている方も多いのです。

僕が前に立って指導をしていても、なにか乱暴な事が起こるかもしれないなんて考えたりね。

でも、ここは刑務所だから。刑務所の中で、今日現在そんな怖いことをする人はおらんでしょ。それも出所直前の人たちが対象だし。と考え自分を納得させておりました。今では笑い話です。

むしろ、外にいる人たちは高級車に乗ったり、化粧をしたり……人から見られる自分を「演出」できる。でも刑務所ではそんなことができない。女性だって当たり前ですが、みんなスッピンですよ。

つくづく「おんなじ人間やな」って思います。どこかで何かの分岐点があっただけで、彼らと僕は同じスタートラインにいたわけですから。

あとね、やっぱり僕は「やり直している人」を送り出せるのは、いいなと思う。

やり直し、ですか。

竹中

そう。現在、刑務所から釈放された人の半分弱は再犯すると言われているんです。

その数字だけ見ると「半分も再犯するんか」と思うかもしれないけれど、裏を返せば「半分は社会復帰している」んです。やり直しができるのは前提。僕はそれを吉本で学びました。

吉本って、だいたいの新人の芸人はまずNSCっていう養成所から始まるのが殆です。そこで残る人、消える人、デビューしても売れなかったから、漫才辞めて……放送作家になる人もいる。

「芸人がダメだ」ってなっても違う道を模索して「やり直せる」空気が吉本にはあるんです。

一発芸で売れたけど、すぐにブームが去ってしまい表舞台から消えても、何年も踏ん張ればまた復活できる人もいます。「やり直す」気力ですね。

でも今の社会はどうですか。さっきの再犯の話もそうですけど、塀の中に戻ってくる人ばかり注目されて、社会復帰している人のことは取り上げられない。

そうじゃなくて、「やり直している」人たちにもっと目を向ける必要があると思います。

謝罪する前段階が問題。謝罪のプロがだからわかるリスクマネジメントの重要性

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吉本興業での「謝罪のプロ」が必要と感じたのは「リスクマネジメント」だった

社会復帰をしている元受刑者が「やり直せる環境」を再考していく必要がありそうですね。

竹中

環境を考えるのは塀の中にいる人ではなく、外にいる人間の仕事。

じゃあ彼らにはなにを教えるべきかと言ったら、リスクマネジメントなんですよ。危機管理能力を備えずに釈放されても、リスクに対する対策ができないから、刑務所に戻って来てしまうんです。

だから僕は一般企業や団体研修で「リスクってなんだと思う? 15分で50個書き出してみてよ」って彼らに付箋を渡す。

彼らは「情報漏洩する」とか「工場爆発する」とか、「経理部長が金もって逃げる」とか、いろんなリスクを書き出してくれるんです。

とある福祉法人で「名前を聞き間違える」っていうリスクを出していたことがあって、詳しく聞いたことがあるんです。

彼は介護施設の送迎の担当だったそうなんですが、要介護者の名前を聞き間違ってしまったら、送り届ける施設も違うし、リハビリ内容も違う。

挙げ句に薬を間違って投薬したら、最悪死に至る場合だってある。
それを聞いた後に、「じゃあそれを防ぐためになにをすればいいか」と聞くんです。

すると都度名前を聞く、名札を何度も確認する……。小さなことだけど、リスクを認識してそれを防いでいくことがリスクマネジメントです。

竹中さんは「謝罪のプロ」ですが、その前段階でことを防ぐということにつながりそうです。

竹中

そういうことです。「謝るために記者会見を切り盛りする方法」はよくよく知っていますけど、なんで謝らなきゃいけないのか、何について誰に詫びるのかが最重要なんです。

吉本時代でいうなら、芸人たちがリスクを冒してしまって不祥事を起こしたところの問題があり、謝罪時の振る舞いを評論するものではなく、原因を探求し再発を防止することなんです。

日本社会は「謝る」ということに敏感です。スーツを着て、髪を整えて、深々と頭を下げる……腰を曲げる角度は何度で何秒間とか…。

違う違う、リスクを認識して、それを防ぐ方法を身につけておけばいいんです。受刑者たちだって、そうしていれば刑務所に戻ってこないはずなんよね。

みんなSDGsを「自分ごと」にできていない

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刑務所の中で「フードロス」という言葉が受刑者から出たことがあるという

刑務所の中では、「SDGs」という考え方は浸透しているのでしょうか?

竹中

ないことはないです。SDGsのことを刑務所で話すと、受刑者から「フードロス」という言葉があがってくることがありました。「家庭から出るフードロスって、すごく多いんですよね」と。

今はだいぶゆるくなったけれど、昔は刑務所で食べ残しってご法度な時代がありました。だから、家庭で食べ残しがそれほどまでに多く発生している状況に対し、彼は許せなかったんでしょうね。

そういう意味ではよく勉強している人もいるということです。

社会がそんな風になっていることを意識していて、自ら気づいた人ってすごいですよ。きっと彼は塀の外に出ても、そのことを意識して生きていくはずだから。

自ら気づかない人も多くいる、ということですね。

竹中

そらそうですよね、ほとんどの人は与えられた作業は真面目にこなしていますが、その他の活動などは体操や読書時間を除くと自発的には動いてないのですよ。

「17の国際目標」だなんて言われても、それ全部を覚えてすべて完璧に実践している人なんていない。そもそもそれを覚えるのが目的でもないし。

SDGsはこれです、と大きく出すぎてしまった結果「よくわからない」となるし、自分ごとにできないんですよ。「できることだけやればいい」っていう説明が足りないんだと思う。

世界基準での話はスケールが大きすぎて何から手を付ければいいのかわからない、ということでしょうか。

竹中

そうそう、実際に日本でも、大企業は株主やお客様の目があるからとりあえず取り組んでいるけれど、中小企業で取り組んでいるのは1割もないって言いますしね。

自分ごとにするためにはどうすればよいか。それはね、道徳ですよ。「水を大切にしましょう」「フードロスをなくしましょう」……それってもう道徳ですよ。

「赤信号なら止まりましょう」「挨拶しましょう」と一緒。でも「水を大切に、ゴミを出さないように」は浸透してないですよね。自分ごとじゃないから。

僕は、教育の現場、特に小学校とかの道徳の現場にSDGsを落とし込んで、その人の身になって寄り添えるようになったらSDGsの正解やと思います。

そう聞くと「とても当たり前のことなのに自分ごとではない」自分に気づかされます。

竹中

日本企業でも実践している企業さんはあるとして、大企業がただ「フードロスを減らしましょう」と掲げているのと、クルマメーカーが「事故を無くしましょう」と掲げているのって、後者のほうが自分ごとよね。

自分ごとにするかしないかの認識がズレていると思うんです。SDGsは2030年までに達成すべき目標ってなってますけど、じゃあ2031年になったとたんやらなくていいのかといったらそうではないですよね。

他人事すぎて、当たり前のことに対して「SDGs」という冠を付けてしまっている。今は数年後の自分を想像できないほどに社会が変わっていっているでしょ。だからみんなゆとりがないのかなって思いますね。

ゆとりがない、とは?

竹中

お取引のある会社さんのなかに、ゴミなどの収集の運営をしている会社さんがあるんですよ。

彼らは街中に出されたゴミを一生懸命ゴミ収集車に積んでいく。そのために道路に一時停車していると「邪魔だ」と後続車にクラクションを鳴らされることがあるらしいんです。

後続の車の言い分もわかる、急いでいたのかもしれないですけど。でもゴミ収集車がなかったら、街中ゴミだらけやで。そこにちょっと心のゆとりがあったら、お互い譲り合えると思うんですよね。

SDGsって、究極は相手をおもんぱかる力なのかもしれない。ゆとりがあればその力は人間だれしも備えているはずなのに、今できていない。

すべての事象を自分ごとにすることで、この問題って解決できるんじゃないかなって思うんですよ。

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ライター:

フリーの編集・ライター。青山学院大学進学と同時に上京し、在学中より紙媒体を中心にライター / 記者として活動。フリー→WEB→2021年7月から再度フリー。現在は働き方や企業広報などがメイン。 https://twitter.com/kmiycan

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