
環境意識の高まりに応じるだけでなく、素材そのものが持つ背景や風合いに独自の価値を見出す企業が増えている。クイーポが展開するブランドが、役目を終えた漁網をバッグへと転換する新たな挑戦を開始した。
海洋ごみの課題を解決するクイーポの新シリーズ
旅の相棒を選ぶとき、私たちは何を基準にしているだろうか。軽さや収納力といった機能性はもちろん重要だが、その鞄が作られた背景にまで心が動くような出会いは、そう多くない。
環境に配慮したものづくりを続けるブランドのgentenが発表した新シリーズのトラブッコは、まさにそんな現代の旅人に向けた提案である。驚くべきは、その主たる原材料が、役目を終えて行き場を失った廃棄漁網であるという点だ。
海水の塩分を含むため焼却処分が難しく、放置すれば海洋ごみの原因になってしまう厄介者。そんな課題を抱える素材を美しい鞄へと転換する試みが、全国の店舗やオンラインショップで静かに幕を開けた。
異素材の掛け合わせが生む他社と一線を画す風合い

単に環境に優しい素材を使うだけであれば、今の時代、珍しいことではない。しかし、この取り組みが他社と一線を画すのは、環境配慮と「上質な情緒」を極めて高い次元で融合させている点にある。
一般的にナイロン素材といえば、どこか冷たくテカテカとした印象を抱きがちである。ところが、このトラブッコを手に取ると、驚くほど温かみのある風合いが伝わってくる。その秘密は、再生ナイロンにオーガニックコットンを掛け合わせるという独自の素材開発にある。
さらに、付属の革には時間とともにツヤが増すタンニン鞣しを採用し、生地にはあえて波の揺らぎを思わせるシワ加工を施した。シワになってもなお格好いい。そう思わせる意匠性とタフな機能美は、模倣の困難な独自性と言える。
創業時から受け継がれる自然との循環を目指す哲学
なぜ、これほどまでに手間暇をかけたものづくりが可能なのか。その答えは、同社が1999年のブランド創設時から頑なに守り続けてきた哲学にある。
人間も自然の一部であるという原点に立ち返り、環境に配慮し、限りある資源を大切にしながら、長く愛着の持てるものを作る。提示された3つの基本理念は、ブームとしてのサステナビリティではなく、企業の血肉として息づいている。
処理の難しい廃棄漁網という難題を目の前にしたとき、彼らはそれを単なる環境保護の義務として捉えなかった。自らの哲学を具現化するためのキャンバスとして捉えたからこそ、この美しい循環の仕組みが生まれたのである。
社会課題の解決を自社の強みへ昇華させるビジネスの本質
このクイーポの姿勢から、現代のビジネスパーソンが学ぶべき教訓は極めて多い。
多くの企業が環境対応をコストや義務として捉えがちな中、同社は社会課題の解決を、自らの最大の強みであるクラフトマンシップへと見事に昇華させている。顧客がこのバッグを選ぶ理由は、環境に良いからという大義名分だけではない。製品そのものが持つ美しさと、ストーリーに魅了されるからである。
義務を付加価値へと転換し、顧客の所有欲を刺激する持続可能なビジネスモデル。これからの市場で真に支持される企業の本質が、この新しい鞄には詰まっている。



