
「ESGって何?」「どんなことを行えばいいの?」
ESGについてこんな悩みを抱えていませんか?
ESGは、企業のビジネスモデルの持続可能性を高めるためには、必要不可欠な課題です。
しかし、具体的な指標がないためにどんなことから始めていいのか分からず、二の足を踏んでいる方も多いかと思います。
そこで今回は、ESGの概要や取り組むべき理由、実際の中小企業のESGへの取り組み例をご紹介します。
ESGへの取り組みを行いたいけど、内容がよく分からず始められていないという方は、ぜひ参考にしていただけたらと思います。

ESGとは?
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のそれぞれの頭文字を合わせた言葉です。
この3つの要素は、企業が長期的に成長するために必要とされる3つの視点でもあります。また、投資家にとっては、投資を行う際の判断材料として考慮するよう求められているものでもあります。
これまでは企業の売上や利益などをもとに、投資家にとってどれだけ利益があるのかが投資の主な判断基準でした。しかし、ESGが提唱されるようになった現在では、売上や利益だけでなく、財務諸表から見えにくい企業のESG問題への取り組みも投資の判断基準です。
ちなみに、このESG問題は、2006年に当時国連事務総長であったコフィー・アナン氏が、PRI(責任投資原則)を提唱する際に、機関投資家に対して投資の意思決定プロセスにESGを組み込むように紹介した言葉です。
ESGとSDGsとの違いは?
ESGと聞くと、SDGsとの違いに困惑してしまう方もいるかもしれません。
または、同じものとして考えられているかもしれません。しかし厳密には、ESGとSDGsは全く同じものではありません。
SDGsは、持続可能な地球を実現するために、国際連合によって定められた2030年までに達成すべき17の目標を指します。一方でESGは、環境・社会・ガバナンスの観点を事業に取り入れ、持続可能な社会を目指す考え方です。
つまり、ESGはSDGsの目標を達成するために必要な、企業としての取り組みということになります。
ESGへの取り組みが求められる理由

現在では、ESG投資・ESG経営など「ESG」という言葉をよく耳にします。
ではESGはなぜそれほどまでに重要なのでしょうか?
ここではESGへの取り組みが求められる理由についてお伝えします。
ESGは、現代のビジネスにおいて、企業価値を高めるために必要不可欠な要素です。
実際に、上場企業を中心にESGへの取り組みが盛んに行われるようになってきています。
理由としては、2006年よりPRI(責任投資原則)提唱の中で、当時の国連事務総長であるコフィー・アナン氏が投資家に対して、ESGの観点を投資の判断基準として取り入れるように求めたことにあります。
つまり、ESG問題(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが、企業価値を判断する基準となり、投資を受けられるかの一つの指針となったということです。
また、SDGsの出現もESGへの取り組みを加速させています。
2015年に発表されたSDGsは、現在のビジネスにおける世界共通の話題です。
そんなSDGsが世界の主流となっている現代では、企業の良し悪しを判断するうえで、企業の自然や社会への影響は、切っても切り離せない関係になっていると言っても過言ではありません。
どんなに社会に役立つ素晴らしい事業だとしても、その結果、自然環境を破壊するような取り組みは、現代のビジネスでは企業価値は低いと判断されてしまいます。
ESGを意識し取り組むことで、自社のサステナビリティの向上につながるとともに、外部へ自社のサステナビリティをアピールすることにつながります。
ESGへの取り組みを行うメリット・デメリット
では、企業のESGへの取り組みには、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
ここでは、メリット・デメリットそれぞれについてお伝えします。
メリット
まずはメリットです。メリットとしては、以下のことが挙げられます
◆ 企業価値の向上
◆ 資金調達を行いやすくなる
◆ 企業のリスク管理につながる
◆ 離職率の低下につながる
企業価値の向上
ESGへの取り組みは、そのまま企業価値の判断材料となります。
なぜなら、現在の社会は、事業を通して地球が持続可能な世界になることに高い価値が置かれているからです。
これまでは、快適な世の中にするために多少の自然の犠牲は良いとされてきましたが、その価値観はESGやSDGsという指標や目標が提唱されて以降、大きく変わりました。
注意点としては、「SDGsウォッシュ」と呼ばれるような、見せかけの取り組みを行わないことです。SDGsウォッシュとは、実態が伴っていないのに、あたかもSDGsへの取り組みを行なっているかのように見せかける行為です。
モラル的に問題があることはもちろん、ステークホルダーへ実態がバレた際には大きなイメージダウンにもつながりかねません。
資金調達を行いやすくなる
資金調達においてもESG経営を行うことで大きなメリットが得られます。
理由としては、ESG投資という言葉が存在するように、投資家や銀行においては、投資をするかどうかの判断材料として企業のESG問題への取り組みも含めるように求められているからです。
例えば、ESG投資の対象となる項目としては、以下のような取り組みが挙げられます。
◆ 自社オフィスまたは工場において、再生可能エネルギーへの切り替えを行っている
◆ 梱包資材に生分解性のあるバイオプラスチックを使用している
◆ FSC認証(※)を受けた木材や間伐材を使用している
◆ 社外取締役を配置するなど、第三者の立場で監督できる企業体制を構築している
※FSC認証:森林や動植物、人権など環境や社会に対して持続可能な森林管理が求められた際に付与される認証
上記は一例ではありますが、このような取り組みを実施し、取り組み内容や結果などについて外部へ情報開示することで、ESG投資を受けやすくなります。
企業のリスク管理につながる
ESGのG(ガバメント)においては、企業が今後も持続的に発展していくために、経営の健全性の確保が求められます。
例えば、独立した社外取締役会を設け、第三者の視点で監督できる仕組みを取り入れたり、情報開示を行い企業の透明性を確保するなど。
このような対策を行うことで、不正が起こりにくい、または、不正が起こることを未然に防げる体制を整えることができ、自社のリスク管理につながります。
離職率の低下につながる
また、離職率の低下につながることもメリットの一つです。
ESGへの取り組みを自社全体に浸透させることができれば、従業員一人一人が人権や労働環境問題に目を向けるようになり、社内から働きやすい職場づくりのアクションが起こりやすくなります。
その結果、離職率の低下を期待できますし、離職率が下がれば余分な採用活動も行う必要がなくなり採用コストの削減にもつながります。
デメリット
次は、デメリットについてです。デメリットについては、以下の2点が挙げられます。
◆ 明確に何をすれば良いのか分かりにくい
◆ すぐには結果が出ない
明確に何をすれば良いのか分かりにくい
ESG経営を行う上での難点としては、明確な指標がないことではないでしょうか。
資金調達のために、ESG問題への取り組みを行おうとしても、一体何から始めれば良いのか分からない人が多いかと思います。
もし、見切り発車で取り組みを開始してしまえば、ただコストだけがかかり企業に見合った取り組みにもつながらないリスクもあります。
まず何をしたら良いのか分からないという場合は、自社の関わる環境問題や社会問題・人権問題などの洗い出しから行なってみると良いでしょう。
すぐには結果が出ない
ESGは、短期間で結果を得られることではありません。
そのため、実際の効果が感じられず、本当に正しい取り組みなのか判断がしづらい傾向にあります。
また、社内での関わりの中では、意見の対立が起こることも考えられます。
ESGへの取り組みを行わないとどうなる?

では、ESGへの取り組みを行わない場合、企業としてはどのような状況となってしまうのでしょうか?考えられることとしては、以下のことが挙げられます。
1)上場企業との取引ができなくなる
2)銀行や投資家からの融資が受けられなくなる
3)優秀な人材を確保することが難しくなる
では、一つずつ見ていきましょう。
1)上場企業との取引ができなくなる
一つ目は、上場企業との取引ができなくなる恐れがあります。
なぜなら、現在では、上場企業が取引先に対して、ESGの対応を求めるようになっているからです。
例えば、東芝では、調達取引先企業に対して、持続可能な調達を行うよう求めています。
実際に、2022年3月に改訂された「東芝グループの調達方針」では、以下のことを取引先選定の条件として明示しています。
「法令・社会規範の遵守、人権・労働安全衛生への配慮、環境への配慮に賛同、実行いただけること」(参照元:東芝)
その他にも、株式会社ヤオコーでは、サプライチェーンを巻き込み、フードロスの削減に向けた取り組みを実施。
具体的には、鮮度基準をすべてのカテゴリで「3分の1ルール」から「2分の1ルール」へと変更することで、卸売業者からスーパーへの納入期限を伸ばし、フードロスの削減を実現しました。
3分の1ルールとは、食品の賞味期限のうち3分の1が経過するまでに、食品を小売店へ納入しなければならないというルールです。
例えば、賞味期限が6ヶ月の食品の場合は、製造から2ヶ月を経過するまでに小売店へ納入する必要があります。
もし、納入までに2ヶ月を過ぎてしまった場合は、3ヶ月以上も賞味期限が残っている食品でもメーカーへ返品しなければならず、無駄なフードロスと返品に係る余計なコストが発生していました。
しかし、2分の1ルールへと変更し納入期限を伸ばすことで、フードロスの削減と、食品の返品に係る手間・イレギュラー対応の削減に成功しました。

このように、現在では上場企業において、サプライチェーンを巻き込んだESGへの取り組みが増えてきており、取引先に対するESGへの対応を求めるケースが多くなっています。
そのため、上場企業との取引を希望するなら、求められるESGへの取り組みに対応できる企業体制を整えておかなければなりません。
2)銀行や投資家からの融資が受けられなくなる
銀行や機関投資家からの融資が受けられなくなることも、ESG経営を行わない場合のリスクです。
現在では、ESG投資が主流となり、企業の売上や収益に加え、ESG問題への取り組みが行われているかが投資の判断基準となっています。
また、ESGは、企業の持続可能性のためには必要不可欠な項目です。
そのため、ESGへの取り組みが行われていない企業は、企業価値を低く見られてしまい、融資を受けられなくなる恐れがあります。
3)優秀な人材を確保するのが難しくなる
現在では、自然や社会への貢献に対してモチベーションの高い人たちが増えています。
実際に、上場企業の採用説明会での内容には、必ずと言っていいほどESGに対する取り組みに対する説明が盛り込まれています。
そのため、採用説明会において自社のESG問題への取り組みを公開できない、もしくは、自然や環境へ悪影響を与えるビジネスモデルである場合、人材確保はとても難しくなります。
ESGそれぞれの項目で対応が求められること
では、ここからは、ESGそれぞれの項目において求められる対応についてお伝えします。
ここでは、数ある対応の中から、特に押さえておきたい項目について解説していますので、何から始めたらいいのか分からないという場合の参考にしていただけたらと思います。
E:環境
環境面では、以下の項目への対応が挙げられます。
◆ 気候変動対策
◆ 温室効果ガス排出量の削減
◆ 再生可能エネルギーの活用
◆ 廃棄物対策
中でも温室効果ガス排出量の削減や、削減への取り組みを外部の機関や人が判断できるよう可視化することが求められています。
脱炭素化社会の実現に向けて世界的な動きが見られる現在では、企業価値の向上や機関投資家へのアピールを含め、CO2排出量を可視化することが求められます。
ただ実行している取り組みについて情報開示するだけでは、説得力に欠けてしまいますし、外部の人たちの立場からしても企業の対応について把握することが難しくなります。
可視化するためには、定量的に測定・算出を行って「報告書」という形でまとめ外部へ情報開示する必要があります。
S:社会
社会面では、以下の項目への対応が挙げられます。
◆ 労働者の権利保護
◆ ダイバーシティの確保
◆ サプライチェーンの人権リスク管理
◆ 強制労働の撲滅
◆ ステークホルダーエンゲージメントへの取り組み
このS(社会)の項目に対して、正しい取り組みを行うためには、ステークホルダーエンゲージメントの取り組みを行う必要があります。
ステークホルダーエンゲージメントとは、環境省が提供する資料に以下のように記載されています。
”「ステークホルダーエンゲージメントとは、事業者がステークホルダーのことをよく理解し、ステークホルダーとその関心事を、事業活動と意思決定プロセスに組み込む組織的な試みであり、事業者が単独で実施する場合やステークホルダーと協働して実施する場合など、非常に多様な行動体系を意味しています」”
(引用元:環境省)
つまり、ステークホルダーエンゲージメントに取り組むことで、自社のステークホルダーの意見や関心事について理解でき、どのような対策・施策を取り入れるべきかを正しく判断できるようになるということです。
では、具体的にどのようなことを行えば良いのでしょうか?具体的には、以下の取り組みを参考にしてください。
◆ 事業活動に関わるすべてのステークホルダー
(顧客・株主/投資家・サプライヤー・従業員・地域コミュニティなど)を洗い出す
◆ 各ステークホルダーに適した窓口・担当部門を設置する
◆ いただいた意見を自社の経営にフィードバックする
例えば、総合厨房機器メーカー「ホシザキ」では、以下の5項目において情報の整理と取り組み内容の策定を行なっています。
◆ ステークホルダー
◆ ステークホルダーとの関係
◆ ステークホルダーの主な関心事
◆ 主な対話チャネル
◆ 担当窓口
(参照元:HOSHIZAKI)
自社のステークホルダーについても、ぜひ、情報を整理し対応を考えて、ステークホルダーの意見を自社経営にフィードバックできる体制を整えましょう。
G:ガバナンス
次は、ガバナンスについてです。ガバナンスについては、以下の項目への対応が挙げられます。
◆ 情報開示の透明性
◆ 長期的な経営戦略の策定
◆ コンプライアンス(法令遵守)
◆ BCP/BCMの策定
ガバナンスの取り組みにおいては、サステナブル認証の取得に向けた取り組みがおすすめです。
メリットとしては、以下の2点が挙げられます。
1. ガバナンスの基準が明確になる
2. 取得認証に向けた取り組みを行う中で企業体制を整えられる
また、サステナブル認証を取得することができれば、第三者機関からの正式な評価を受けた証拠にもなり、外部へ情報開示する際の説得力が高まります。
現在では、様々な環境や人権など様々な項目に対するサステナブル認証がありますが、ガバナンスを行う上でおすすめなのがB Corp認証です。B Corp認証は、SDGsやESG経営などを実践面から支援する認証制度として知られています。
B Corp認証の概要や取得手順などについては、以下の記事に記載していますので、参考にしてください。
また昨今において、ガバナンスの面では、災害やコロナのような感染症など緊急事態が発生した場合における事業の持続可能性も重要視されつつあり、企業の信頼獲得に大きな影響を与えるようになってきました。
そのため、緊急事態が起こった際のリスクマネジメント体制を整えておくことが大切です。
そこで実行すべきなのが、BCMとBCPの策定。
BCMとは、Business Continuity Managemantの略で「事業継続マネジメント」と訳します。
一方で、BCPは、Business Continuity Planの略で「事業継続計画」と訳します。
よく混同されがちな2つの事柄ですが、以下のような違いがあります。
- BCM:事業継続計画の策定、導入、運用、見直し、継続的な改善
- BCP:BCMをもとに、緊急事態発生時の具体的な計画の策定と実施
つまり、BCPは緊急事態における「具体的な計画」を指し、BCMはBCPを活用して、緊急事態発生時でも自社の事業が継続、もしくは、素早い復旧を果たせるよう運用していくことです。
BCM/BCPを策定し、緊急事態でも持続可能な事業基盤を整えておくことで、企業の信頼性を高められます。

ESGへの取り組み方の参考に!中小企業の取り組み事例をご紹介
では、実際の企業ではどのようなESG問題に対する取り組みが行われているのでしょうか?
ここでは、ESGへの取り組み事例として中小企業2社の取り組みをご紹介します。
株式会社大川印刷

株式会社大川印刷は、従業員40名(令和4年3月時点)の企業です。
HPには「環境印刷で刷ろうぜ」と大々的に表示されているように、ESGへの取り組みとして「環境印刷」というものを展開しています。
環境印刷とは、大気汚染や人体被害の原因となる揮発性有機化合物を含まない「ノンVOCインキ(石油系有機溶剤0%)」を使用した印刷や、FSC認証を取得したエコ用紙の使用。
配送には環境負荷の少ない電気自動車やディーゼル車を使用したり、納品における容器を段ボールから使い回しのしやすいプラスチックコンテナに変えるなど、印刷から納品まで環境に配慮した取り組みを実施しています。
その結果、再生可能エネルギー100%を実現したり、その他にジャパンSDGsアワード・環境大臣表彰など数々の賞を受賞しています。
(参照元:株式会社大川印刷)
株式会社mog

女性のキャリア支援サービスを提供している株式会社mog。ワーキングママに特化したキャリア支援やボランティア活動・カウンセリングなどを通して、女性のキャリア形成や転職をサポートしています。
株式会社mogのサービスの一つで、ワーキングママの可能性を広げるサービス「ママノバ」は、2022年10月にサービスを開始してからわずか1ヶ月で会員数430人を達成しています。
ママノバを利用してカウンセリングを受けたり仕事体験を受けた利用者からは、「転職をせずに他の会社での仕事が体験できるママラボは、とても魅力的でした」という声。
一方で、ワーキングママを受け入れた企業側からも、「人材チャネルが一つ増えました」と高評価の声が上がっています。
(参照元:株式会社mog)(参照元:PR TIMES)
まとめ
この記事では、ESGの概要や取り組むべき理由・メリットを解説。併せて中小企業の取り組み事例についてもご紹介しました。
この記事が、これからESGへの取り組みを始めていきたい方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
また、cokiではサステナビリティ推進室立ち上げ支援からESGデータブックの作成までESG対応のサポートをしております。
ESGなどのサステナビリティ対応について課題を持っている、または話を聞きたいという方は下記の問い合わせボタンよりお問合せください。