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株式会社サザビーリーグ エストネーションカンパニー

http://www.sazaby-league.co.jp/

東京都渋谷区千駄ヶ谷2-11-1

エストネーションが地域の幼稚園から学んだもの

ステークホルダーVOICE 地域社会
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地域への社会貢献活動を通して、会社がどう変わるのか。有名セレクトショップ兼ブランドを展開するエストネーションの運営会社の体験に迫る。

エストネーションがサステナビリティに取組むきっかけ

昨年、六本木ヒルズ店が20周年を迎えるなど、お洒落なブランドとして有名なエストネーション。都心で働く男女に向けた、ライフスタイルを提案するブランドであり、「Drawing a color of life~ファッションで心を動かす」という理念を掲げている。

ESTNATIONのWEBサイトより

エストネーションのサステナビリティの取組みは、2019年3月8日の国際女性デーの時期に始まった。背景には、アパレル企業としての危機意識があった。

そもそも、アパレル産業は世界2位の環境汚染産業と国連貿易開発会議(UNCTAD)に指摘されている業界。

2017年にはイギリス高級ブランドが、ブランド保護のために衣料品やアクセサリー、香水などを日本円換算で数十億円相当の売れ残り商品を破壊・処分していたことが社会問題化していた。グローバル潮流がいずれ日本にも波及してくることは誰の目にも明らかだった。

同じ時期、エストネーションのサスティナビリティ開発推進室兼ディレクターの室長 竹山賢さんは当時店舗マネージャーをしながら、衣類だけでなくハンガーやビニールなどお店を運営するにはかかせないアイテムが大量廃棄されることを心苦しく思っていた。

サスティナビリティ開発推進室兼ディレクター室長 竹山賢さん

竹山さん
「エストネーションでは、以前よりリサイクルを一部で実施してきました。しかし、世界中で消費者のサステナビリティ意識の高まりが顕在化していることや国内でもSDGsが広く知られるにつれ、当社もリサイクルの質をあげる必要性を切に感じていました」

そこで竹山さんは会社に提案し、サスティナビリティ開発推進室が立ち上がる。幾つかの活動目標を掲げたうちの一つが、2030年までにリサイクル率80%をめざす「リサイクル80」だった。

資源化できるものは全て資源化するという心意気で、エストネーションのアイテムに始まり、企業活動で利用される消耗品もどうすれば資源化できるか、見直しの対象とした。

背景紙の写真(提供:エストネーション)

一人の社員からの発案が地域との関わりに

その取組みが始まったある日のこと、ECを担当していた和島さんが竹山さんに背景紙について相談したのが、今回の地域との取組みのきっかけとなった。

ECスタッフの和島渚さん

衣類などのアイテムをECサイトに掲載する際、カメラマンは見栄えの良い写真を撮る必要がある。そのため、アイテムの背景には無地の背景紙が使われるのが通例だ。1回の撮影で5~6m使用していくとロール状の背景紙は撮影後に余る部分が出てくる。

エストネーションでは、背景紙は従来からミックスペーパーとしてリサイクルしていたのだが、和島さんの相談は、これをもっと有効な使い方はできないかという内容だった。

名案はある日突然思い浮かんだ。

エストネーションの入居する千駄ヶ谷ビル

竹山さんが、オフィスから最寄りの千駄ヶ谷駅までの通勤路を歩いていたとき、閃きが舞い降りた。千駄ヶ谷駅からエストネーションの本社への通勤路には、将棋の聖地として有名な鳩森八幡神社がある。

キャプション 鳩森神社。夏にはお祭りが(撮影:加藤俊)

神社には鳩森八幡幼稚園が併設されている。同幼稚園は、茶道の先生を招いて茶道のお稽古を園児に提供したり、近隣の警察署や消防署を見学するなど教育に熱心な幼稚園。

背景紙が誰の役になるか、誰に喜んでいただけるかを考えたときに、この幼稚園児たちが思い浮かんだそうだ。それで、

竹山さん
「千駄ヶ谷で商売している以上、社会に還元できるところがどこかを考えたときに、一番近い幼稚園である鳩森八幡幼稚園さんにお声掛けした」

鳩森八幡幼稚園

ただ、一方的な押しつけの善意にならないか懸念があった。

竹山さん
「企業の取組みで『寄贈』というと、押し付けというか、本当に必要とされているのか、そこが不安でした。届けたスタッフたちから「喜んでいただいた」とフィードバックをもらい、ほっとしました」。

幼稚園児たちの果てなきインスピレーションに驚愕

実際に園児たちが背景紙でお絵描きしたのは9月14日のことだった。その日、竹山さんは幼稚園からのメールを開いて、心が震えたという。

メールには、園児たちが背景紙をキャンバスとして、お絵描きを自由に楽しむ様子の写真が複数枚添付されていた。

「素直に、すごく感動したというか、エネルギーをもらえたのです。キャンバスの四方八方、いろんな角度から園児たちが、縦横関係なく自由に書いている姿を見て、何かこの子たちの創造性を育むものに自分たちが寄与できているのかもって考えたら、ものすごく元気をいただけたのです」

さらに嬉しいのは園児たちから「次のお絵描きはいつできるの?」という声があがっていることを知ったこと。

幼稚園の岡田先生は言う。

突然の取材に笑顔で応じてくださった岡田先生

岡田先生
「お絵描きは大好評でした。複数の園児たちが、またお絵描きしたい、と。私は今度またやろうねとお話ししている。お友達と一緒に一つの大きなキャンバスを使えることで、お友達同士の合作で絵を描けるところが喜んでくれた理由だと思う。エストネーションさん、貴重な機会をいただき、ありがとうございました」

想定以上に幼稚園に喜んでもらえたことや園児たちの作品のほとばしるインスピレーションを受けて、背景紙のほかにも有効活用してもらえるものがあるのではないかと考え、店舗の統廃合によって使わなくなった事務文具やサンプル生地、ボタンなどを寄贈しはじめる。

その度に幼稚園は、応えてくれた。

サンプル生地をつかった作品。ほかにも、ボタンをマラカスの楽器にしたりもしていたようだ

竹山さんは幼稚園のXを常日頃見ているのだが、寄贈したアイテムを思いも及ばない形で有効活用してくれる様がわかる投稿に驚嘆しきりとなる。

幼稚園の先生たちと園児たちの想像力は底知れない。

竹山さん
「さすがにこれはちょっとご迷惑ですかねっていうようなものも園児たちが思いもよらない作品に仕上げてくれる。いやはや、反省しています。私は園児たちの想像力を軽く見てしまっていました」

企業と地域社会とのこうした社会貢献の取組みは一方通行で終わってしまっては、単なるCSRのままであり、もったいない。

人的資本が言われる時代の企業が気を配るべきは、取組みを通して社員たちが何を感じ、どう変わったかを記録し開示することだ。

小さな社会貢献を多様なステークホルダーに広げる

年が明けて、竹山さんは、園児たちが書き上げたキャンバスを多くの人に見てもらいたくなり、オフィスのエントランスに飾ることにした。そこには、社員だけではなく、エストネーションに関わる取引先などの多様なステークホルダーにも目にしてほしい意図がある。

エントランスに掲げられたキャンバス

竹山さん
「この絵を媒介にしてコミュニケーションが生まれるという拡がりが生まれたら。そういう媒介のツールになるエネルギーに溢れていますし、実際にそうなったらいいなと思います」

竹山さんにとって嬉しかったのは、本試みを社内メールで配信したところ、自社スタッフだけでなくサザビーリーグに連なるグループの他の事業会社の人たちからもたくさんの「いいね」や「サステナビリティ対応を考えるよいきっかけになりました」とコメントが送られてきたこと。実際に足を運んで、作品を観に来てくれたことである。

エストネーション六本木ヒルズ店の社員からは、自分の子供を通わせている幼稚園にも提案したいと言われたそうで、実際に広がりを見せそうである。

広報の沓間由美子さん(旗艦店推進室室長・販売促進部部長兼務)は今回の取組みの意義をこう語る。

沓間さん
「嬉しいのは、エストネーションの一スタッフがあげた声が実際に形になって、地域社会のお役に立てたこと。今回を機に、他のスタッフも思いついたことを竹山さんに投げてみたくなる流れができたと思います」

発案者であるECスタッフの和島さんも、「園児たちの純粋な表現力と創造力のある絵を見た時、本当に感動しました!私の些細な言葉が素敵なアクションにつながり、サステナビリティが身近なところから始まることを実感しました」と今回の取組みの喜びを語る。

企業のサステナビリティ対応は難しい時代に入っている。

ウォッシュが問題視される時代だからこそ、何をすればいいのか難しいという難題。そのなかで、一人の社員の純粋な思いから発した行動は、社内でも多くの共感を得て、想定以上の反応や拡がりを見せていった。

「社会貢献の原点を垣間見た気がします」と竹山さんは語った。

取材後のメールで竹山さんは以下のように連絡をくれた。

竹山さん
「サステナビリティはルールメイクが現在進行形で進んでおり、その情報にアンテナをはり対応していくことは、とても大切なことだと理解します。ただ難しい議論がされる中で、こういう本質的な取組みは、自然と広がりを見せていく。みんなの中の、昔から育まれていた『もったいない』精神が原動力になるのでしょうね。小さな活動ですが、誰かの笑顔につながればきっとそれはずっと続いていくのでしょうね」

地域社会との交流というと、何をしていいのかわからないという声をよく聞くが、社会のお役に立てるチャンスは身近な所に落ちている。小さな活動も工夫一つで社内のエンゲージメントを高める機会にもなる。

その好事例を千駄ヶ谷で見つけた。

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ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。運営企業として累計10,000社超の、取材実積・メディア制作を経て、サステナブルな企業がステークホルダーを重視した経営を行っていることに気付く。100年以上続く長寿企業複数社の社内報・ステークホルダー取材を通じ、ポスト株主資本主義時代の経営ビジョンに開眼する。環境教育系社団法人の広報業務支援も行う。またライフワークで社会的養護の自立を応援するヒーロー『くつべらマン』の2代目として活動。 コーポレートサイト https://www.sacco.co.jp/

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