
玩具販売大手「トイザらス」が日本での店舗運営から撤退する方向となり、「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が国内事業を取得する見通しだと報じられた。だが、日本の玩具市場は縮小どころか過去最高を更新している。おもちゃは売れているのに、なぜトイザらスは苦戦したのか。
約150店舗を展開、トイザらスは日本撤退へ
共同通信によると、トイザらスは日本での店舗運営から撤退する方向で、PPIHが国内事業を取得する見通しだ。国内では「トイザらス」「ベビーザらス」を合わせて約150店舗を展開し、買収額は100億円規模になる可能性も報じられている。ただし、現時点で買収が正式決定したわけではない。日本トイザらスは9月30日時点で「現時点で決定している事項はございません」と説明しており、店舗や従業員、ブランドの扱いは今後の焦点になる。
トイザらスが日本に進出したのは1991年。当時の店には、今の玩具売り場とは違う特別感があった。天井近くまで続く棚に、自転車、ぬいぐるみ、ゲーム、プラモデル、海外玩具まで大量の商品が並ぶ。誕生日やクリスマス前に家族で出かけ、店内を歩くだけで「何を買ってもらえるんだろう」と気持ちが高ぶった人も多いだろう。欲しいものを買うだけではなく、そこへ行くこと自体がイベントだった。
だから今回の撤退報道を見て、「少子化でおもちゃが売れなくなったのか」と考える人もいるかもしれない。ところが、実際の数字は逆だ。
少子化なのに玩具市場は過去最高
日本玩具協会によると、2025年度の国内玩具市場は前年度比6.3%増の1兆1664億円。現在の方式で統計を取り始めた2001年度以降で過去最高となり、2021年度から5年連続で最高額を更新している。
子どもの数は減っている。それでも市場が拡大している理由のひとつが「キダルト」だ。「Kid」と「Adult」を組み合わせた言葉で、フィギュアやぬいぐるみ、トレーディングカードなどを自分のために買う大人を指す。ハピネットの調査では、国内のキダルト人口は約535万人、年間市場規模は約780億円と推計されている。
子どもの頃に買えなかったものを大人になって手に入れる。好きなアニメやゲームのキャラクターを集める。推し活の一環で限定商品を買う。おもちゃは「親が子どもに買うもの」から、大人自身がお金を使う商品へと広がった。
実際、カードゲームやトレーディングカード市場は2024年度に約3000億円まで拡大し、フィギュアやキャラクター商品、カプセルトイも存在感を増している。少子化なのに玩具市場が伸びる背景には、こうした買い手の変化がある。
おもちゃは売れている。それでもトイザらスでは売れなかった
ここで重要なのは、「玩具市場が伸びること」と「トイザらスの売上が伸びること」は同じではないという点だ。
いまは、トレーディングカードなら専門店やコンビニ、フィギュアなら専門ショップ、キャラクター商品なら公式ストアがある。ゲームや玩具は家電量販店でも買え、Amazonや楽天市場なら価格や在庫を比較しながら注文できる。カプセルトイも駅やショッピングモールに専門店が増えた。
かつてのトイザらスには、「とりあえず行けば何か面白いものが見つかる」という強さがあった。今は、欲しい商品を先にスマートフォンで調べ、その商品を最も買いやすい店へ行く。あるいは、そのままネットで注文する。
日本トイザらスの業績にも、この変化は表れている。官報決算データベースによると、2025年12月期の売上高は約752億円。2023年12月期の約885億円から、2年間で130億円以上減った。2025年12月期は約37億5900万円の純損失となっている。
つまり、「おもちゃが売れなくなったから苦しくなった」のではない。おもちゃは売れている。ただ、その売上がネット通販、専門店、家電量販店、キャラクターショップなどへ分散したのである。
なぜ買い手がドン・キホーテなのか
そこで気になるのが、買収先としてPPIHの名前が挙がったことだ。一見すると、玩具専門店のトイザらスとディスカウントストアのドン・キホーテは遠い存在に見える。しかし、現在の玩具市場とは意外に相性がいい。
ドン・キホーテでは、キャラクターグッズやフィギュア、コレクター向け商品が増えている。客層も子どもだけではなく、若者、大人、訪日外国人まで幅広い。これは、玩具市場を押し上げているキダルトやインバウンド需要と重なる。
さらに、ドンキには「予定していなかった商品まで買ってしまう」売り場の力がある。狭い通路を歩きながら掘り出し物を見つける感覚は、かつてトイザらスで巨大な棚の間を歩きながら「こんなおもちゃもあるんだ」と発見した感覚にも通じる。
買収が実現すれば、トイザらスが持つ商品調達力や店舗網と、ドンキが持つ若者、大人、訪日客への販売力をどう組み合わせるのかが注目される。
消えつつあるのは「おもちゃ」ではなく、あの買い方
今回の撤退報道を、少子化だけで説明することはできない。子どもは減ったが、キダルトと呼ばれる大人が玩具を買い、カードやフィギュア、キャラクター商品にお金を使うようになった。その結果、国内玩具市場は過去最高まで膨らんだ。
変わったのは、おもちゃを買う人と、買う場所だ。
1991年の日本進出から35年。大きな店へ行き、何があるか分からないまま売り場を歩く。そこで欲しいものを見つける。その時間そのものが楽しかったトイザらスは、スマートフォンで商品を検索し、専門店やネット通販を使い分ける時代の中で、少しずつ役割を変えてきた。
今回失われようとしているのは、おもちゃそのものではない。
「トイザらスへ行くこと自体が楽しみだった」という、ひとつの買い物体験なのかもしれない。
今後、買収が正式に決まれば、約150店舗がどのような形で残るのかが焦点になる。トイザらスの看板が続くのか、それともドン・キホーテとの融合で新しい玩具売り場へ変わるのか。子どもの頃に感じたあのワクワクが、次の時代にどう残るのかにも注目したい。



