
スマートフォンの利用規約を、中身を読まないまま同意していないか。北九州市で若者の自立を支えるNPO法人支エールが、行政書士と手を組み、若者を契約トラブルから守る「予防教育講座」を開く。
社会に出る前に、自分を守る知識と、頼れる大人との接点を渡すことを狙う。
「読まずに同意」が招くリスク
同法人によると、デジタル社会では、内容を十分に確かめないまま利用規約に同意する行為が日常になっている。その先には、自立の足元をすくいかねない深刻な契約トラブルが潜む。とりわけ、身近に相談できる大人が少ない環境にいる若者は、問題を一人で抱え込みやすい。講座は、そうした若者を対象に、トラブルを未然に防ぐ知識と、困ったときに頼れる大人との接点をつくることを目指す。
スマートフォン一つで、さまざまなサービスの契約が完結する時代になった。手軽さの裏側で、何に同意したのかを正しく理解しないまま進んでしまう場面も増えている。大人でも読み飛ばしがちな長い規約を、社会に出たばかりの若者が一人で読み解くのは容易ではない。確かめないまま押した一つの「同意」が、後になって重い負担としてのしかかることもある。だからこそ、契約に向き合う前の心構えを伝えることに意味がある。
なぜ講師に行政書士なのか
講師に行政書士を選んだことにも、理由がある。同法人によると、弁護士がトラブルの起きた後の対応のプロであるのに対し、行政書士は「トラブル予防のプロ」だという。狙いは、難しい法律用語を覚えさせることではない。知識を頭の片隅に置いておくことで、怪しい勧誘を受けたときに一度立ち止まって考えられる判断力を育てる。あわせて、日常の些細な悩みを相談できる大人の選択肢を増やすことも重視するという。
トラブルが起きてから専門家に駆け込むのではなく、その手前で立ち止まれるようにする。講座が目指すのは、知識を丸暗記させることというより、危ういと感じ取る感覚を身につけてもらうことだ。困ったときに相談できる相手がいるという安心感も、その大切な一部となる。専門家を身近な存在として知っておくこと自体が、いざというときの支えになる。
契約の落とし穴と断る力
講座は三つの柱で構成される。一つ目は、同意する前の確認ポイントだ。規約のどこに危険が潜むのか、必ず確かめるべき箇所を伝える。二つ目は、住まいと生活にまつわる契約。アパートを退去するときのトラブルや、クレジットカード・ローンの仕組みを学ぶ。三つ目が、「断る力」と「相談する力」である。契約してしまった後の対処法や、相談できる窓口を知っておくことを促す。講座は2026年9月に北九州市内の児童養護施設で開く予定で、施設で暮らす若者や卒園した若者が対象となる。参加費は無料だ。いずれも、社会に出た直後につまずきやすい場面を具体的に想定した内容になっている。
自己責任で終わらせないために
支エールの田中義人代表理事は「新生活や自立に向かう若者たちに『自己責任』を押し付けるのはあまりにも酷です」と語る。社会に出る前に、自分を守る知識と、些細なことでも話せる相談先を渡すことが大人の責任だという考えだ。
「予防教育と日常の繋がりがあれば防げるトラブルがたくさんある」。田中代表理事はそう述べ、住まいの支援に加え、若者が社会的に孤立するのを防ぐ取り組みを進める方針を示した。契約の知識を伝えることと、日常的に頼れる関係をつくることを、両輪として据える考えだ。
身近に頼れる大人が少ない若者にとって、契約の失敗は生活の立て直しを難しくしかねない。施設を離れた後は、そばに相談相手がいないまま、住まいや通信、金融などの契約を自分で結ばなければならない場面が続く。小さなつまずきが大きな痛手になる前に支える。そこに予防教育の意味がある。
2026年4月に設立されたばかりの支エールにとって、この講座は活動の出発点の一つとなる。知識と人とのつながりという二つの備えが、若者の自立をどこまで支えられるかが問われる。



