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改正風営法は誰がつくった? スカウトバック禁止に批判、国会に残る地下化の警告

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改正風営法
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「法改正したんだから、ちゃんと摘発してくれよ。警察は何をやっているんだ」

9月11日、FRIDAYデジタルが公開した記事で、全国に店舗を展開する大手風俗グループの幹部がこうこぼしている。女性を搾取する仕組みを断ち切るための法改正だったはずが、現場からは、かえって違法なスカウト集団への依存を深めているという訴えが出ているのだ。

 

問題になっているのは、性風俗店が働き手を紹介された対価として支払う「スカウトバック」。2025年6月28日に施行された改正風営法の主要部分には、一定の性風俗店による、この紹介料の支払いを禁止する規定が盛り込まれた。紹介によって利益を得る仕組みに、店舗側から歯止めをかけようとしたのである。

ところがFRIDAYによると、従来のスカウト会社が紹介を取りやめる一方、法律を無視する「匿名・流動型犯罪グループ」、いわゆるトクリュウとの取引が続いているという。働き手を確保したい店舗は違法な仲介を断ち切れず、「顧問料」名目で追加の支払いまで要求される例もある。規制から退いた者の代わりに、規制を意に介さない者が入り込む。報道が描くのは、そんな皮肉な構図だ。

同記事には、紹介料の相場が女性の月間売上高の15%程度から20%近くに上がったとの証言もある。ただし、これは「ここ数年」の変化についての説明であり、改正後だけの値上がりを示すものではない。それでも、禁止したはずの取引が残り、犯罪集団に利益が渡っているという指摘は、簡単には聞き流せない。

 

宇佐美典也氏、くりした善行氏、Z李氏が批判する「規制した後」の現実

この問題に厳しい言葉を向けているのが、元経済産業省官僚で評論家の宇佐美典也氏だ。

宇佐美氏の批判は、需要が存在する現実を置き去りにした規制のあり方に向かう。政治的な正しさを優先して禁止しても、取引そのものがなくなるわけではない。表に出ていた取引が裏社会に移れば、犯罪集団へ資金を流し込むことになるという見方だ。当事者の実情を十分に踏まえない規制という点で「AV新法」をめぐる問題とも重ね、「もうこういうのやめろ」と訴えている。

東京都議会議員を務めたくりした善行氏も、法改正による地下化とトクリュウの収入への影響を問題視する。政治側が「『やりましたアピール』を急ぎ、机上の理論で徒に混乱を生んだ」と批判し、表立って語られにくい業界だからこそ、当事者を交えた多角的な検討が必要だったとする。法律を成立させたことと、それによって現場が良くなったことは別だという指摘である。

 

インフルエンサーのZ李氏の言葉は、さらに手厳しい。「素人の浅知恵の法改正はことごとく大失敗する」と評し、受け皿や出口を用意せずに締め付ければ、問題は水面下に潜り、かえって複雑になると指摘する。規制をかけた先で、人や金がどこへ動くのか。その行き先を考えなければ、守ろうとした人を、より危うい場所へ追いやりかねないという批判だ。

3人が問うているのは、法律の看板の立派さではなく、その先で起きることだ。悪質なスカウトを排除するつもりが、そうした集団への依存を強めているのなら、制度の設計も運用も問い直さなければならない。

では、いったい誰が、この規制を決めたのか。政治家か、警察庁か、それとも有識者なのか。公開資料をたどると、規制に至った経緯とともに、「誰も副作用を考えなかった」では片付かない議論が見えてくる。

 

舞台は2024年夏の警察庁 山田洋氏ら5人の検討会

時計を2024年7月31日に戻そう。午前9時、警察庁の第7・8会議室で、第1回「悪質ホストクラブ対策検討会」が開かれた。檜垣重臣・生活安全局長のあいさつに続き、一橋大学名誉教授の山田洋氏が座長に選ばれている。

有識者委員は山田氏を含む5人。弁護士・専修大学法科大学院教授の大島義則氏、早稲田大学大学院法務研究科教授の北川佳世子氏、弁護士の大村恵実氏、全国社交飲食業生活衛生同業組合連合会専務理事の伊藤素近氏が名を連ねた。いずれも当時の肩書だ。内閣府男女共同参画局、消費者庁、法務省、文部科学省、厚生労働省の担当部署も、オブザーバーとして参加していた。

会議は、役所と学者だけで完結していたわけではない。初回にはレスキュー・ハブ、ぱっぷす、歌舞伎町商店街振興組合から説明を受け、8月30日の第2回には青母連と歌舞伎町商店街振興組合、厚生労働省から話を聞いている。支援団体や繁華街にかかわる団体の声を聴く過程は、確かにあった。

出発点には、深刻な被害があった。ホストへの恋愛感情などにつけ込まれて高額の注文を重ね、多額の借金を負わされた女性が、返済のために売春や性風俗店での仕事に追い込まれる。検討会の報告書は、こうした問題を整理し、借金を負わせる段階と、それを取り立てる段階の両方で規制を考える方向を示している。

女性が働けば返済の原資が生まれ、紹介した側にも金が入る。その連鎖を断とうとすれば、ホストの営業行為だけでなく、スカウトと性風俗店の取引も見逃せない。議論がスカウトバックに向かったのは、そのためだった。

 

検討会にもあった「実効性の問題はあるが」という留保

ここで、誤解されやすい点がある。性風俗への職業紹介が、今回の改正で初めて規制されたわけではない。警察庁は、性風俗などの有害な業務を紹介する行為は職業安定法で禁止されていると説明している。「トクリュウではない従来のスカウト会社」だから、紹介行為も適法だったという話ではないのだ。

今回の改正は、紹介する側への従来の規制に加え、紹介料を支払う店舗側にも禁止規定を設けたものだ。金を受け取る側だけでなく、払う側からも取引を断つ。その発想自体には、狙いがあった。

ただし、検討会でも、禁止すればすんなり解決するとは考えられていなかった。2024年9月26日の第3回会合には、紹介料の支払いを禁止する条項について、「実効性の問題はあるが、おそらく可能なのではないか」とする意見が残っている。法律に書けることと、現場で効くことの間に隔たりがあると、ここでも意識されていた。

 

同じ会合では、職業安定法をめぐる議論の中で、紹介料を支払う側への規制が人材確保や他の業態に及ぼす影響を確認すべきだとの意見も出ていた。もっとも、議事要旨には個々の発言者名が付されていない。誰が禁止案を主導し、誰が影響を懸念したのかまでは、この資料から特定できない。

検討会は計5回開かれ、12月16日に報告書を取りまとめた。最後の会合にも、法改正だけでは不十分であり、規制の強化と被害者の救済体制の充実を並行して進める必要があるとの意見が記されている。少なくとも公開記録は、「規制さえすればよい」という単純な議論ではなかったことを示している。

その後、警察庁による法制化の検討を経て、政府は2025年3月7日に改正案を国会へ提出する。特定の議員が単独で持ち込んだ議員立法ではなく、内閣が提出した法案だった。

伊東信久氏は「アンダーグラウンド」を警告していた

 

国会審議を追うと、現在の批判と重なる懸念が、さらに明確な言葉になっている。

2025年5月16日、大岡敏孝氏が委員長を務める衆議院内閣委員会。日本維新の会の伊東信久氏は、性風俗産業で働かざるを得ない若年女性や経済的困窮者が、「よりアンダーグラウンドに追いやられていくのではないか」と警告した。スカウトバック禁止によって、さらに非合法な領域へ流れる懸念を示し、労働環境の悪化を防ぐ対策を政府に尋ねている。

答えたのは、坂井学・国家公安委員長(当時)だった。性風俗店における環境について、関係省庁と連携し、状況の変化を見ながら対応するという趣旨の答弁だ。ただ、このやり取りで、地下化をどう把握し、いつまでに検証するのかという具体策までは示されていない。

ここが、この法律の経緯を読むうえで見逃せない。地下化の懸念は、成立後に初めて持ち出された話ではなかった。守ろうとした女性が、かえって見えにくい場所へ追いやられるのではないか。その問いは、法案を審議している最中に政府へ向けられていたのである。

取引が減ることと、取引が見えなくなることは違う。後者であれば、被害が起きても気付きにくくなり、助けを求めることまで難しくなりかねない。だからこそ、いま確かめるべきなのは、政府が当時の懸念をどう受け止め、施行後の調査や対策につなげたかだ。

 

緒方林太郎氏が賛成に回った理由 全会一致の前にあったやり取り

同じ日の質疑の終盤、緒方林太郎氏も、規制に抜け道が残るとして一定期間後の見直しを求めた。坂井氏は、施行後の状況を追い、手口や社会情勢の変化に合わせて法規制を「機敏に見直す」と答弁。緒方氏は、その回答を確認したうえで賛成すると表明している。

法案は同日の衆議院内閣委員会で可決され、5月20日の衆議院本会議で成立した。参議院は先に4月9日の本会議で可決しており、両院の本会議はいずれも全会一致だった。

だが、全会一致という結果だけを見て、全員が何の疑問もなく賛成したと受け取るのは違う。少なくとも、問題点を挙げ、見直しへの答弁を確認して賛成に回った議員がいた。「成立させたら終わり」ではないことは、採決の直前にも念を押されていたわけだ。

誰がこの法律をつくったのかという問いに、1人の名前を挙げて答えることはできない。有識者の検討会が方向を示し、警察庁が制度を詰め、政府が提出し、国会が成立させた。その途中には、実効性への留保も、地下化への警告もあった。

となれば、問うべき責任も変わってくる。懸念を思い付かなかった責任ではなく、指摘された懸念を、その後どう扱ったのかという責任だ。

 

「誰が悪い」で終わらせず、女性を守る制度に直せるか

FRIDAYの記事は、業界関係者の証言を伝えたものだ。それだけで、法改正によって全国の犯罪収益がどれだけ増減したか、地下化がどの程度進んだかまでは断定できない。一方で、現場から出た訴えを、規制された業界の不満として片付けてよいわけでもない。

まず必要なのは、禁止した取引が本当に減ったのか、それとも見えにくくなっただけなのかを調べることだ。摘発件数だけでなく、紹介料の支払い、犯罪集団による脅迫、女性の働く条件や相談のしやすさがどう変わったかを、当事者や支援団体、店舗側から継続して聞く。その結果を公表しなければ、規制の設計に問題があるのか、取り締まりが追い付かないのか、支援が不足しているのかも切り分けられない。

 

女性たちの希望も、一括りにはできない。業界を離れたい人には、住まいや当面の生活費、債務の問題を含めた支援が必要になる。一方、働き続ける人にも、暴力や強要を受けず、不利益を恐れずに相談できる環境が求められる。支援の入口を、仕事を辞める決断ができた人だけに狭めるべきではない。

店舗が違法な仲介に依存しないための道筋も、検討の対象になる。人材募集や職業紹介について、現行法で認められることを具体的に整理し、それでも解消できない問題があるなら制度の見直しを議論する。締め付けるだけでなく、違法な取引から離れるために何が必要かを考えるべきだ。

もちろん、改正法の全てを否定する必要はない。今回の改正には、客の判断を著しく妨げる営業行為や、威迫・誘惑によって売春などを要求する行為への規制も含まれる。スカウトバック禁止の副作用を点検することと、女性を守るための措置を投げ捨てることは別である。

 

全会一致で成立させた法律なら、その後の検証と改善にも超党派で取り組めるはずだ。国会に残っている警告を、今度こそ具体的な対策につなげたい。

法律をつくった人を探して責めるだけでは、現場は変わらない。つくった人たちが当事者の声を聞き、必要なところを直す。その先に、女性の安全が改善し、犯罪集団へ渡る利益が減ったと確かめられる状況をつくることこそ、この法改正が目指したはずの成果である。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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