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ホルムズ海峡は開く、だが疑問は残る トランプ氏のイラン合意は本当に勝利なのか

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ホルムズ海峡
DALLーEで作成

米国とイランの戦闘終結に向けた合意が明らかになった。トランプ大統領は「イランとの合意が成立した」と発表し、ホルムズ海峡は再開へ向かう。米国による海上封鎖も解除される見通しだ。原油市場はひとまず胸をなで下ろしたが、最大の争点だった核問題は60日間の協議に持ち越された。戦闘は止まるかもしれない。だが、あれほど世界を揺さぶったこの戦争は、結局何を残したのか。

 

 

ホルムズ海峡再開へ 市場は安堵しても、戦争の傷は消えない

ペルシャ湾へ向かう海に、再びタンカーが戻る。ホルムズ海峡の再開は、世界のエネルギー市場にとって大きな意味を持つ。ロイターによると、合意には米国によるイラン港湾封鎖の解除、ホルムズ海峡の商業船舶への再開が含まれており、報道後、原油価格は大きく下落した。わずかな緊張緩和で市場がこれほど揺れるのは、この細い海峡が世界経済の喉元を押さえているからだ。

日本にとっても、遠い中東の話では済まない。ホルムズ海峡が詰まれば、ガソリン価格、電気料金、物流費、食品価格にまで影響が及ぶ。遠い海で起きた軍事衝突が、時間差で家庭の請求書に表れる。だからこそ、今回の合意は物価高に苦しむ生活者にとっても大きな材料になる。

ただ、市場の安堵と現地の現実は別物だ。原油価格が下がったからといって、破壊された街が戻るわけではない。失われた命が戻るわけでもない。市場は数字で反応し、投資家はチャートを眺める。しかし、戦争の現場にいた人々にとって、停戦は終わりではなく、ようやく瓦礫の前に立つ時間が始まるということでもある。

しかも、合意はまだ完全に固まったわけではない。正式署名は6月19日にスイスで行われる予定で、全文の公表もこれからだ。トランプ氏は成果を誇り、イラン側も自国の勝利として語る。だが、双方が同じ合意を同じ意味で受け止めているとは限らない。和平という言葉は耳にやさしい。だが中東では、その言葉が数日で崩れた例を、世界は何度も見てきた。

 

核問題は先送り トランプ氏は何を得たのか

今回の合意で最も引っかかるのは、戦争の中心にあったはずの核問題が決着していない点だ。トランプ氏はこれまで、イランの核開発を強く批判してきた。オバマ政権時代の核合意を不十分だと切り捨て、より厳しい条件を求めた。その延長線上に今回の軍事的圧力があったのだとすれば、核問題を60日間の協議へ持ち越した事実は重い。

もちろん、戦闘停止そのものを軽く見るべきではない。銃声が止まるなら、それだけで救われる命がある。だが、戦争の理由として語られてきた問題が先送りされるなら、トランプ氏が得たものは何だったのかという疑問は消えない。イランはホルムズ海峡をめぐる交渉カードを握り、制裁緩和や資産凍結解除への道筋も得たとみられる。一方の米国は、海峡再開という成果を手にしたものの、核問題の結論は後日に回した。

これを外交の勝利と呼ぶには、まだ早い。原油市場を混乱させ、戦費を積み上げ、人的犠牲まで出した末に、最も重い宿題を次のテーブルへ滑らせたようにも見える。トランプ氏は派手な言葉で合意を飾るだろう。だが、派手な発表ほど、あとから中身を測られる。60日後に核協議が行き詰まれば、今回の合意は戦争を終わらせた証明ではなく、次の危機まで時間を買っただけの紙切れだったと言われかねない。

 

イスラエルとレバノン情勢 火種はまだ消えていない

米国とイランが合意したからといって、中東全体の火が消えるわけではない。合意では、レバノンを含む戦線での軍事作戦停止にも触れられている。しかし、イスラエルは米国とイランの合意当事者ではない。イスラエルがレバノンの親イラン組織ヒズボラへの攻撃を続ければ、イラン側が反発し、停戦の枠組みはすぐにきしむ。

中東では、会議室で交わされた言葉より、一発のミサイルの方が現実を動かしてしまうことがある。署名欄に名前が並んでも、現場の軍事判断がそれを一瞬で壊す。レバノン、シリア、イラク、ペルシャ湾周辺で偶発的な衝突が起きれば、ホルムズ海峡の安定も長くは続かない。

だから、19日の署名式だけで一件落着と見るのは危うい。署名欄に名前が並んでも、イスラエルがレバノンへの攻撃を続ければ、合意の空気はすぐに冷え込む。イランが地域の親イラン勢力を抑えきれなければ、衝突は別の場所で火を噴く。さらに、制裁解除をめぐる不満が米国やイランの国内強硬派を刺激すれば、せっかく整えた文書はたちまち政治の駆け引きにのみ込まれる。合意が長持ちするかどうかは、きれいに並んだ文言ではなく、各国が自分たちに都合の悪い場面でどこまで踏みとどまれるかにかかっている。

 

日本への影響 安心するにはまだ早い

日本では、ホルムズ海峡再開によってガソリン価格や電気代の上昇が落ち着くのではないかという期待も出てくるだろう。たしかに、中東からのエネルギー供給が安定すれば、日本経済にとっては大きい。企業の仕入れや物流にも、ひとまず安心感が広がる。

それでも、生活者がすぐに負担減を実感できるとは限らない。原油価格、為替、在庫、補助金、企業の価格転嫁は複雑に絡み合っている。市場が下がっても、店頭価格が下がるまでには時間がかかる。逆に、60日間の協議が不調に終われば、原油価格は再び跳ねる可能性がある。合意のニュースに少し安堵するのは自然だが、何もかも元通りになると考えるのは早すぎる。

日本政府に必要なのは、歓迎の言葉を並べることではない。中東に頼り切ったエネルギー調達をどう改めるのか、原油価格が再び跳ねたときに家計や中小企業をどう守るのか、そこまで踏み込まなければ、今回の危機から何も学んでいないことになる。ホルムズ海峡が開いたから安心、という発想はあまりに薄い。一度あの海が塞がれば、遠い戦争はすぐに日本のガソリン代、電気代、食品価格に姿を変える。中東の火種は、思っている以上に私たちの台所に近い。

 

この合意は和平か、それとも次の危機までの休憩か

トランプ氏は今回の合意を、自らの交渉力の勝利として語るだろう。イラン側も、米国を譲歩させたと説明するはずだ。双方が勝利を語れる合意は、一見するとよくできた外交に見える。だが見方を変えれば、双方が核心をぼかしたまま持ち帰れる合意でもある。

戦闘が止まれば、今夜を生き延びる人がいる。ホルムズ海峡に船が戻り、原油価格が下がれば、世界経済もひとまず息をつくだろうが、それでこの戦争の後始末が終わるわけではない。核問題は60日間の協議に持ち越され、イスラエルとレバノンをめぐる緊張もくすぶり続け、制裁解除をめぐる不満も消えていない。和平という言葉を掲げるには、あまりに未処理の問題が多く、今回の合意は戦争を終わらせたというより、次に爆ぜるまでの時間を買っただけに見える。

戦争を始めるとき、政治家は大義を語る。終わらせるときには成果を語る。だが、その間に失われた命、上がった物価、壊れた暮らしの前で、政治家の言葉だけがやけに軽く響く。ホルムズ海峡に船が戻っても、この戦争は何だったのかという疑問は消えない。むしろ、静かになった海の上で、その疑問だけがいつまでも浮かび続ける。

 

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ライター:

Webライター。きれいごとだけでは済まない現実を、少し距離を置いて綴っています。

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