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メッシの退場要求から乱闘、表彰式の背中まで アルゼンチンがW杯決勝で失ったもの

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W杯決勝
DALLーEで作成

スペインに敗れたことより、敗れたあとの姿が強く残った。メッシは相手選手の退場を主審に求め、終了の笛が鳴るとアルゼンチンの選手たちはスペイン側と激しく衝突し、表彰式では優勝トロフィーを掲げる王者に背を向けたまま会場を去った。連覇を逃した悔しさが、試合終盤から乱闘、表彰式、取材拒否へと流れ込み、世界王者だったチームの最後を濁らせた。

 

 

メッシが一瞬の動きに求めたレッドカード

サッカーW杯北中米大会の決勝は7月19日、米ニューヨークで行われ、スペインが延長戦の末にアルゼンチンを1―0で下した。4大会ぶり2度目の優勝を決めたスペインに対し、連覇を狙ったアルゼンチンは得点を奪えないまま試合終盤を迎え、後半アディショナルタイムには退場者を出して10人となった。その直後、主審への抗議で両国の選手が入り乱れるなか、メッシはスペインDFマルク・ククレジャと激しく言葉を交わした。ククレジャが一瞬だけ右手で口元を覆うと、メッシはすぐに手を挙げ、主審へレッドカードを求めた。

メッシが持ち出したのは、今大会から採用された通称「ヴィニシウス法」である。口論や対立の場面で手やユニホームを使って口元を隠し、相手に何かを言う行為を退場の対象とする新ルールで、差別的な発言や侮辱を口の動きから確認できなくなる問題を防ぐ狙いがある。今大会では実際に同様の行為で退場者も出ており、メッシの要求に根拠がなかったわけではない。ただ、ククレジャの手は口元に一瞬触れただけにも見え、主審は発言を隠す意図があったとは認めなかった。レッドカードは示されず、メッシの訴えは退けられた。

この場面が批判されたのは、ルールを主審に伝えたからではない。激しい接触を受けても立ち上がり、ボールで相手を黙らせてきたメッシが、相手の手が口元に触れた瞬間を拾い上げ、退場に持ち込もうとした姿に、勝利への執念より追い詰められた焦りがにじんだからだ。海外の元代表選手からは「悲しい」「赤ちゃんのようだ」と厳しい言葉が向けられた。主将がルールの適用を求めること自体は珍しくない。だが、アルゼンチンが数的不利となった直後に、相手も一人減らそうと食い下がる姿は、試合を自分たちの力で動かす余裕を失ったメッシの苦しさを映していた。

 

終了の笛とともにあふれ出した苛立ち

試合が終わると、押し込められていた感情が一気に噴き出した。スペインの選手たちが優勝を喜ぶ横で、アルゼンチン側は相手選手と激しく揉み合い、腹部を殴ったように見える行為や、喉元をつかみ、止めに入った選手まで引き倒す荒々しい場面が続いた。試合中なら、球際の激しさや挑発への反応として理解される接触もある。しかし、勝敗が決まったあとに相手の体へ拳や手を向ければ、闘争心では済まされない。悔しさをこらえきれず、優勝を喜ぶ相手へぶつけた時点で、アルゼンチンの強さを支えてきた熱量は見苦しい暴発へ変わった。

このチームは、技術だけで世界の頂点に立ったわけではない。相手にひるまず、感情をむき出しにしてボールを奪い、仲間のためなら一歩も引かない激しさが、2022年大会の優勝を引き寄せた。メッシを守るために全員が走り、相手に飲み込まれそうな場面では誰かが前へ出る。その結束が王者を生んだ。だが、勝利へ向かう激しさと、敗北したあとに相手へ襲いかかることは同じではない。前者はアルゼンチンの武器だが、後者は負けを受け入れられない苛立ちでしかない。あの乱闘で傷ついたのはスペインの選手だけではなく、4年間かけて築いてきた世界王者としての姿だった。

 

表彰式でスペインに向けられた背中

後味の悪さは、表彰式にも続いた。先に準優勝メダルを受け取ったアルゼンチンの選手たちは、スペインの選手たちへのメダル授与が終わり、W杯トロフィーが壇上へ運ばれると、自国サポーターの前を歩きながら退場用トンネルへ向かった。スペインが紙吹雪の中で優勝を祝うその瞬間、メッシを先頭にしたアルゼンチンの選手たちは、壇上へ背中を向けていた。サポーターへあいさつし、そのまま退出しただけだったとしても、直前に乱闘を起こしたチームの背中が、穏やかな別れとして受け取られるはずはない。優勝したスペインを見届けず、祝福の輪から逃げるように立ち去った姿は、海外で「敬意がない」「負け方を知らない」と批判された。

背を向けた一場面だけなら、移動の途中を切り取られたとも説明できる。しかし、メッシの退場要求から始まり、終了後の乱闘、表彰式での退出、取材エリアで誰一人として足を止めなかった対応までが続けば、偶然の角度では片づけられない。アルゼンチンは最後まで、敗者としてその場に立つことを避けたように映った。勝者に敬意を示すことは、笑顔で拍手を送り続けることではない。悔しさに顔をゆがめながらでも、相手がトロフィーを掲げる瞬間を見届けるだけでいい。自分たちを倒したチームの勝利を認めることまで含めて、決勝は終わる。アルゼンチンは、その最後の数分に耐えられなかった。

 

メッシの偉業より残った最後の数十分

メッシは大会後、自身のSNSで敗戦の痛みを語り、スペインの優勝を祝福した。W杯6大会連続出場を果たし、今大会でも8得点2アシストを記録した功績は変わらない。39歳でアルゼンチンを再び決勝へ導いた事実も、一度の抗議で消えるものではない。それでも、腕章を巻くメッシには、自分の感情だけでなく、チーム全体の熱を抑える役割があった。相手の退場を求めたことが、その後の乱闘を直接引き起こしたわけではない。だが、最も冷静であるべき主将まで目の前の一瞬にすがり、仲間が終了後に暴れ、最後は揃ってスペインに背を向けた。その流れの中で見れば、メッシもまた敗北を受け止めきれなかったアルゼンチンの一人だった。

勝ったときに胸を張るのは難しくない。紙吹雪を浴び、国旗をまとい、トロフィーを掲げれば、誰もが英雄になれる。王者の品格が見えるのは、相手の歓声が耳を刺し、自分たちの時代が終わったかもしれない現実を突きつけられたときだ。決勝まで勝ち上がり、延長戦まで戦ったアルゼンチンは十分に強かった。だが、退場要求、乱闘、表彰式の背中まで重なれば、その強さよりも負け際の悪さが残る。連覇だけでなく、敗れてもなお拍手を受ける機会まで、アルゼンチンは最後の数十分で自ら手放した。

 

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ライター:

Webライター。きれいごとだけでは済まない現実を、少し距離を置いて綴っています。

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