
栃木県鹿沼市の葬儀会社「おおの」で、社内の金銭詐取に関与したとして懲戒解雇された男性(当時51)が自死した訴訟で、同社に約8284万円の賠償を命じた宇都宮地裁判決が確定した。会社側は東京高裁の控訴審でも男性を「詐欺の犯人」と主張したが、判決予定日の前日に控訴を取り下げた。
2026年7月12日、47NEWSの記事がYahoo!ニュースのトピックスで取り上げられ、事件の経緯がXで再び拡散した。会社から遺族への謝罪がないことにも批判が相次いでいる。
社内の架空請求騒動、「犯人」は別にいた
下野新聞や弁護士JPニュースが報じた判決内容によると、同社では2017年ごろから、別の従業員が葬儀で余った引き物を葬家から買い取ったように装い、会社事務員から買取費用を受け取る金銭詐取を続けていた。
男性はギフト部の責任者として引き物の管理を担当していた。当時の代表取締役は、金銭を詐取していた従業員に、男性へ引き物を渡したように見せる引取書を作成させ、男性本人にも「税務署がサインがないと困る」などと説明して署名を求めたとされる。
2019年4月24日、代表取締役は警察から要請されていなかったにもかかわらず、男性に警察署への出頭を指示。男性が取り調べで関与を否定すると、警察署の駐車場で怒鳴りつけ、翌25日に口頭で懲戒解雇を通告した。
同年8月21日、男性が死亡しているのが見つかった。
時間外労働の事実と一審判決
男性は2019年1月下旬から4月にかけて、月100時間前後の時間外労働をしていた。
2025年11月13日の宇都宮地裁判決は、男性がいわれのない犯罪嫌疑をかけられて一方的に懲戒解雇され、極めて強い心理的負荷を受けたことでうつ病を発症したと判断。男性が金銭詐取に関与したと認める証拠はないとし、業務や懲戒解雇と自死との因果関係を認め、妻と3人の子に計約8284万円を支払うよう同社に命じた。
会社側は控訴審でも「犯人」と主張、判決前日に取り下げ
会社側は判決を不服として控訴し、控訴審でも再び男性が詐欺の犯人だと主張した。しかし2026年5月27日に東京高裁で予定されていた判決の前日、控訴を取り下げ、男性を無実と認めた一審判決がそのまま確定した(5月26日付)。
弁護士JPニュースによると、会社側代理人は、一審判決が同社の主張と乖離しており、最後まで争うことも検討したと説明。その一方で、男性が亡くなっていること、解決までさらに時間を要する見込みであること、控訴審判決の報道に対する反響への対応が困難であることを控訴取り下げの理由に挙げた。
6月18日、男性の妻と3人の子、代理人弁護士が東京都内で記者会見を開いた。長男は、会社から謝罪がないとして「裁判は勝ったけどむなしさしかない」と涙ぐんだ。
会社側提出の映像、音声消去と3カ所のカットを遺族側が指摘
弁護士JPニュースによると、代理人の松森美穂弁護士は会見で、訴訟前の手続きにおいて会社側が提出した、男性が引取書に署名する場面のCDは音声が消され、映像も3カ所がカットされていたと説明した。
遺族側の親族が音声を復元したところ、当時の代表取締役が「特別なことは何もない」「日にちだけ入れておいてもらえる」などと説明し、男性に署名を求めるやり取りが確認されたという。宇都宮地裁は、男性が代表取締役に言われるまま引取書へ記載したにすぎないと判断し、金銭詐取への関与を認めなかった。
男性が遺したメモには「葬儀はしないでください」「会社に言いたいことはいっぱいあるけど面倒くさい」と記されていた。
賠償金は支払い済み、会見時点で謝罪なし
約8284万円の賠償金は6月12日、保険会社を通じて支払われた。6月18日の会見時点で会社からの謝罪はなく、訴訟費用も未払いだったという。原告側によると、男性を懲戒解雇した当時の代表取締役はすでに退任している。
株式会社おおのの公式サイトでは、7月13日時点で本件に関する説明や謝罪文は確認できない。最新のお知らせとして掲載されているのは、7月の営業日に関する案内などとなっている。



