
3人の子どもを育てながら約3年8か月の育休中にFP1級や応用情報技術者試験など複数資格を取得した女性の投稿がSNSで炎上。称賛と批判が分かれた理由や、「制度利用」と「発信」の違い、育休制度を支える社会との関係について考察する。
3人の子育てと資格取得を両立 「理想の育休」「バイタリティすごすぎ」と称賛の声
1歳・2歳・3歳の3人の子どもを育てながら、約3年8か月の産前産後休業・育児休業を取得した女性の投稿が、SNSで大きな話題となっている。
女性は育休終了にあたり、Xで次のように振り返った。
「本日をもって、3年8ヶ月に渡る最初で最後の産育休が終了!子ども3人産んで3人自宅保育して、ミシンと編み物習得してずっと憧れてたピアノ習い始めて、Python取ってFP1級取ってiパス取って統検2級取って基本情報応用情報取って、下の親知らず2本抜いて超しんどかった大手術終えて、家族みんなでたくさんおでかけして念願の沖縄北海道旅行もできて、毎年ラルクのライブ参戦して春には名古屋で嵐と最後のお別れをして、締め日の今日はtimelesz横アリ!さいっっこうに充実した3年8ヶ月だった!両家遠方、夫婦共フル出社、旦那は忙しくて平日戦力外だけど、時短駆使しつつワーママ1年生がんばるゾ~!!!!」
育休期間中に取得した資格として、
・Python関連資格(種類は不明)
・FP1級
・ITパスポート
・統計検定2級
・基本情報技術者試験
・応用情報技術者試験
などを挙げたほか、ピアノ教室に通い、ミシンや編み物も習得したという。
FP1級は合格率15%前後の難関資格、他の資格も相当量の勉強が必要で、子育てをしながらの努力がうかがえる。
投稿は瞬く間に拡散され、
「バイタリティがすごすぎる」
「育休を最高に有効活用している」
「低年齢児を3人も子育てしながらここまで努力できる人は尊敬する」
と称賛する声が相次いだ。
しかし、その一方で「育休中の過ごし方」ではなく、「その発信の仕方」を巡って大きな議論へ発展している。
炎上した理由は「資格取得」ではなく、「伝え方」だった
SNSを見渡すと、多くの人が資格取得や育児そのものを否定しているわけではないことが分かる。
むしろ、「3人を自宅保育しながら資格まで取ったのは純粋にすごい」という前提に立つ人が少なくない。
それでも炎上したのは、「育休を満喫した」という印象を与える投稿だったからではないか、という分析が目立つ。
例えば、
「私も産育休をもらってる側だから何も言えないし、この人のバイタリティはすごいと思う。でも、こうやって見ると、この期間お金払われてるの本当謎だよな(笑)。習い事できる暇あるなら働けよ、って思われても仕方ないんじゃない?」
という意見も投稿・拡散された。
もちろん、育児休業給付金は法律に基づく制度であり、取得できる人が利用すること自体は何ら問題ない。
しかし、制度への理解や価値観は人それぞれであり、「満喫していた」という印象を受けた人が一定数いたことも事実だった。
共感を集めたのは「制度利用」と「発信」は別という指摘
今回、多くの共感を集めたのは次のような意見だった。
「産休育休に関わらず、受けられる制度は利用していい。ただ、たくさんの人に支えられているという感謝を忘れて『うまくやってます!』と発信すると反感を買う。」
さらに、
「私も連続育休の人のフォローで仕事が増えた。制度を使うことには何も思わない。でも、その人が『最高でした!』と発信していたら正直モヤモヤする。」
という声も少なくなかった。
つまり、批判の矛先は「育休制度」そのものではなく、「制度を利用したことの伝え方」に向いていたのである。
「復帰後転職予定」発信がさらに議論を加速させた
議論をさらに大きくしたのが、この女性が取得した資格を生かして転職を検討していると受け止められている点だ。
SNSでは、
「3年8か月支えてくれた会社への恩返しは無いのか」
「福利厚生だけ利用して転職するの?」
といった批判も見られた。
一方で、
「福利厚生が充実した会社に就職する努力をした結果」
「転職も本人の自由」
「制度を利用したら転職してはいけないというルールはない」
という反論も多い。
実際、法律上も育休取得後の転職は禁止されておらず、キャリア選択は個人の自由だ。
それでも、「感情」の部分では割り切れない人が一定数存在することも、今回の炎上から見えてきた。
匿名掲示板では勤務先や家族まで特定される事態に
議論が過熱する中、匿名掲示板では女性本人だけでなく、勤務先・学歴・職歴・配偶者の勤務先や経歴などを特定しようとする動きまで広がっているという。
しかし、制度利用への賛否とは別に、個人情報を掘り起こしたり、私生活まで暴こうとしたりする行為は明らかに行き過ぎだろう。
SNSでは一つの投稿が大きく拡散されると、本来の論点から離れた個人攻撃へ発展してしまうケースも少なくない。
育休制度は「社会全体」で支える仕組み
今回の議論を見ていると、「育休は休みではない」という2020年の小泉進次郎環境大臣(当時)の言葉を思い出す人も多いだろう。
実際、3人の幼い子どもを自宅で育てる生活は決して楽なものではない。
その上で資格取得や趣味まで両立した行動力は、素直に評価されるべき努力と言える。
一方で、育休制度は本人だけの力で成り立っているものでもない。
職場で業務を引き継ぐ同僚、制度を整備する企業、給付金を支える社会保険制度、自治体、そして家族など、多くの支えがあって初めて実現する制度である。
だからこそ、「私はここまでやり切った」という達成感だけが前面に出ると、その裏側で支えてきた人たちの存在を思い浮かべる人ほど、複雑な感情を抱いてしまうのかもしれない。
SNSでは伝え方の他に「何を言わないか」も大切なのかもしれない
今回の投稿から伝わる努力や行動力は、本当に素晴らしい。「自分は頑張った」と胸を張ってよい成果だろう。
一方で、人間関係は「何を言うか」だけでなく、「何を言わないか」によって成り立つ部分もある。
自分にとっては達成報告でも、制度を支えてきた同僚や、利用できなかった人には違った景色に映ることもある。
だからこそ、自分の成功を語るときほど、支えてくれた人への感謝を添えたり、あえて語らない部分を残したりすることも、一つの品性なのかもしれない。
努力を隠す必要はない。ただ、「何を言うか」以上に「何を言わないか」を選ぶことが、結果として自分自身を守ることにもつながるのではないだろうか。



