
植物の力を活かした商品づくりにおいて、自然の恵みを余すことなく使い切るという思想はどこまで具現化できるのか。自然派化粧品ブランドを運営する株式会社キナリは、産地の課題であるゆずの未利用資源に着目した。
株式会社キナリが挑むゆず搾汁残渣の化粧品原料化
初夏の風が吹く環境月間、化粧品業界でひときわ強い光を放つサステナブルな挑戦がある。自然派化粧品ブランドの草花木果を展開する株式会社キナリが発表した、高知県産ゆずの未利用資源をめぐるアップサイクルプロジェクトだ。
日本一のゆず産地として知られる高知県だが、そのきらびやかな産業の裏側には、果汁を搾った後に残る内皮や種子といった残渣が搾汁量の約半分にも及ぶという、重い現実が存在していた。
同社の調査によると、高知県中山地区の加工場だけで、年間約200トンから250トンもの残渣が、有効な利用法を見出せないままひっそりと廃棄処理されてきたという。この地域の産業が抱える痛切な課題に対し、同社は残渣から独自の化粧品原料を開発するという鮮やかな手法で、美容領域における新たな資源循環の扉を押し開いた。
大学との共同研究がもたらす独自成分の科学的アプローチ

多くの企業が環境配慮を謳う現代において、同社の取り組みが他社と一線を画す理由は、単なるイメージ戦略に留まらない、徹底した科学的エビデンスへのこだわりにある。同社は廃棄されるはずだったゆずの残渣から、独自成分であるユズ果皮エキスの抽出に成功し、すでに自社の主要なスキンケアラインへと配合している。
しかし、彼女たちの挑戦はそこでは終わらない。この試みを美容科学の領域へとさらに深化させるため、神奈川大学化学生命学部との共同研究という次の一手を打ったのだ。未利用資源に由来する成分が、人間の皮膚細胞にどのような劇的な影響を与えるのか。
その機能性を学術的に解明しようとする試みは、情緒的な表現に終始しがちだったナチュラルコスメの領域に、揺るぎない説得力という新たな価値をもたらしている。
植物とともに歩む哲学と産地との深い信頼関係
この鮮やかな循環型ものづくりの背景には、創業時から同社が頑なに守り続けてきた「植物とともに」という確固たる哲学が息づいている。同社にとって高知県産のゆずは、ブランドの骨格を成す最重要の素材であり、最盛期には社員自らが現地の収穫支援に赴くほど、生産者と濃密な関係を築いてきた。
今回の独自成分誕生のきっかけも、2021年秋に収穫支援の現場で積み上がる膨大な残渣を目の当たりにした社員の、自然の恵みを大切にしたいという純粋な衝動から始まっている。地域の自然素材を敬い、優れた科学技術によってその命を昇華させるという、日本固有のジェービューティーの精神。
それが単なる机上の空論ではなく、泥にまみれた生産現場への深い共感と結びついたからこそ、このイノベーションは実を結んだのだろう。
一歩進んだ一次産業の課題解決から学ぶ持続可能な視点
同社が描くストーリーは、現代の製造業が目指すべき持続可能なサプライチェーンのあり方に、極めて刺激的な示唆を与えている。原材料を調達して消費するだけという従来のビジネスモデルを脱却し、産地が抱える廃棄物問題という痛みに深く寄り添いながら、自社の技術力で極上の価値へと転換してみせる。
これこそが、これからの企業が模範とすべき社会的責任の姿ではないだろうか。地方の一次産業に眠る未利用資源は、見方を変えれば、まだ誰も手をつけていない宝の山に他ならない。調達の現場に潜むリアルな課題を自社の強みと掛け合わせ、学術的な裏付けをもって市場を熱狂させていく。
この一連の鮮やかなプロセスは、これからの循環型ビジネスを志す、すべてのビジネスパーソンにとって最高の教科書となるはずだ。



