
世界中に「ハローキティ」と幸せを届けるはずのサンリオで、あまりに可愛くない金銭スキャンダルが勃発した。16日、サンリオは斎藤陽史常務(59)が複数年にわたり2.5億円規模の不正な報酬を受け取っていた疑いがあると発表したのだ。事の発端は内部通報だった。サンリオの取締役の報酬は本来、指名・報酬諮問委員会が決めた額とされているが、斎藤氏はこれとは別に、自らが最高経営責任者(CEO)を務めていた北米子会社から報酬を得ていた疑いがあるという。
この北米子会社はサンリオの知的財産の管理を手がけており、斎藤氏は2021年3月からCEOを務めていた。現在は退任しているという。
姿を消した2.5億円と身内だけの「給料爆上げ祭り」
この約2.5億円の内訳を丁寧に見ていくと、事態の深刻さがより浮き彫りになる。まず主たるものは「COLA(生活費調整)」という名目で支給されたボーナスである。これは本来インフレ対応の手当として位置づけられていたが、実質的には基本給の引き上げを回避しつつ柔軟に支給される追加報酬として運用されていた。
しかも、このCOLAは当該常務取締役だけでなく、当時のCFOなど他の役員にもどさくさに紛れて支給されていたことが確認されている。現地経営幹部による非公式な協議のみで勝手に決定され、取締役会や報酬委員会の正式な承認手続は十分に履行されていなかったという。
サンリオは「みんななかよく」を理念としているが、「小さな贈り物が、あらゆる年齢の人々に幸せと友情をもたらす」という思いが込められているという。ただ、斎藤常務にとって「巨額の裏報酬が、自身のフトコロに幸せをもたらす」という意味だったのだろうか。
「本社OK出てるんで」現地幹部を巻き込んだ欺罔的ムーブ
さらに呆れるべきは、COLA以外の個人的な経済的利益の享受である。なんと、自身の大学博士課程の学費まで米国子会社に負担させていた事実が認定されている。しかも、サンリオ本社からの承認など一切得ていないにもかかわらず、現地CFOに対しては「本社の承認を得ている」と事実と異なる説明を行い、支払いを実行させていたという。 これについて特別調査委員会の報告書では「欺罔(ぎもう)的要素」と極めて厳しい言葉で糾弾されている。
加えて、ロサンゼルスに所在する住宅の賃貸費用も会社名義で負担させており、実質的には社用目的よりも私的居住としての性格が強かったと評価されている。会社を自身の財布代わりにするような公私混同の振る舞いが、コンプライアンスの及ばない本社の死角で横行していたのだ。
なぜ本社の監視網はすり抜けられたのか
なぜこのような事態が長期間見過ごされたのか。報告書は、特定の個人の暴走にとどまらず、サンリオグループ全体の構造的な制度要因を指摘している。
本社と子会社間の報酬統制や情報共有に関するルールが不明確であり 、米国子会社の経営幹部による裁量的な意思決定が行われやすい環境が放置されていたのである。 当事者である常務取締役とCFOの間では、「COLAは生活費調整だから報酬には該当せず、本社への報告は不要」という身内だけの都合の良い独自解釈が共有されており 、これが内部統制手続を意図的に回避する運用につながってしまった。
結果として、本社側はこれらの追加給付を全く把握できず、完全な蚊帳の外に置かれるという「ガバナンスの空洞化」を招いていたことになる。
即日辞任と連帯責任、そして遅れる決算発表
事態の発覚を受け、当該常務取締役からは辞任の申し出があり、取締役会で同日付で受理され退任となった。また、身内の不祥事の連帯責任として、代表取締役社長は月例報酬の30%を3か月間、専務取締役は10%を1か月間返納するというペナルティを課されている。
業績への影響について、給付された金額自体はすでに各事業年度で米国子会社の費用として計上済みであるため、決算書そのものに虚偽はないとされている。来期の調査費用等の影響も軽微となる見込みだ 。ただし、過去の有価証券報告書における役員ごとの連結報酬等の総額の記載には影響が及ぶため、速やかに訂正報告書が提出される予定となっている。決算発表が6月下旬を目途に延期されるなど、市場を巻き込む事態となった罪は極めて重い。
カワイイ世界を守るための大手術
今後の再発防止策として、サンリオはコーポレートガバナンスの抜本的な大手術に乗り出す。諸悪の根源となった特定人物への権限集中を排除するため、サンリオ取締役と子会社執行責任(CEO)の兼務を解除し、監督と執行の分離を図る方針を打ち出した。
また、本社の決定する報酬額が子会社を含めた総報酬であることを明確に定義し、当該総額を超える例外的な支給には本社(取締役会または指名・報酬諮問委員会)による事前承認を必須とする厳格なルールを導入する。
さらに、海外子会社のCFOからサンリオ本社のCFO機能へ直接報告を行う間接的な報告ライン(Dotted report line)を追加し 、現地の経営トップによるマネジメント・オーバーライド(内部統制の無視・逸脱)を牽制する強固な監視網を敷くこととなった。
世界中のファンが愛する可愛いキャラクターたちを守るためにも、二度とこのような経営幹部の「悪ふざけ」が起きないよう、実効性のある統制環境への生まれ変わりが急務である。



