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一般社団法人障がい者アート協会

https://www.borderlessart.or.jp/

障がい者×アート×ビジネスで自立支援|障がい者アート協会 熊本豊敏代表理事

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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障がい者×アート×ビジネスで自立支援|障がい者アート協会 熊本豊敏

「障がい者の自立支援」は障がい者福祉で最大のテーマの一つです。多くの企業で採用される、生産性を軸とした報酬体系や労働体系の壁に直面する障がい者は少なくありません。そんな厳しい現実のなか、アートの面から障がい者の自立に携わっているのが一般社団法人障がい者アート協会です。代表理事の熊本豊敏氏は、障がい者の安定的・継続的な創作活動を応援したいという想いで同団体を設立し、独特の支援制度を設けています。今回は、熊本さんに感謝を伝えたいステークホルダーへの想いを伺いながら、障がい者アートの可能性を探っていきました。

息子の笑顔が設立のきっかけに

一般社団法人障がい者アート協会について教えてください。

一般社団法人障がい者アート協会は、アート活動を行う障がい者と社会をつなげる団体として2015年に発足しました。障がい者が作品を通じて社会とつながり、そのつながりを通して自立することをサポートしたいと思っています。

熊本さんはどうして一般社団法人障がい者アート協会を設立しようと思ったのでしょう?

私の息子は3歳のときに知的障害を伴う自閉症と診断されました。彼は幼い頃から絵が好きで、放っておくと部屋の片隅でひたすら絵を描き続けているような子でした。親の目から見ても彼の絵は上手でしたし、何より本人が楽しそうだったので、継続的に描ける場を見つけてあげたいと思って色々探してみたところ、埼玉県川口市の一般社団法人からふるという団体を見つけました。ここで息子は月に一度自由に絵を描いていたのですが、団体が企業から受けたパッケージデザインやロゴ、各種チラシの作成といった案件で時々採用されるようになっていったのです。

そこまで高額ではないものの著作権利用料としての初めての対価に、当時中学生だった息子は非常に喜んでいました。入ってきたお金で好きなものを買う息子の笑顔を隣で見ていて、親として非常に喜ばしく思うと同時に、この笑顔があるのは適切なサポートに巡り会えたからなのだろうとも思いました。きっと世の中には適切なサポートと出会えずに不自由を感じている障がい者がたくさんいるに違いない。一方でそういった人たちをアートの面から支援する事業を行っている団体は少ないのでは?と思って、一般社団法人障がい者アート協会を設立したのです。
バッグとパターン

一般社団法人障がい者アート協会の3つの特徴

設立の反響はいかがでしたでしょうか?

 最初は団体運営の右も左もわからない状況ですし、資金もなかったので、知り合いの経営者のもとをまわってビジョンを説明し、支援を募る日々が続きました。まだ何の実績もない私を信頼し、手を差し伸べてくださった方々のおかげで、徐々に参加者や作品も増えていきました。設立当初は参加してくれるアーティストは4名、作品は20作くらいでしたが、今は登録アーティストが約650名、作品数は2万以上とわずか6年で加速度的に増えています。

どれだけ多くの障がい者がそういったサービスを求めていたかがわかりますね。

 そもそもアートで食べていける人は本当に一握りです。そのなかで、きちんとサポートしてくれる人や組織が近くにいて、アートを使って社会で居場所を確立できている障がい者は一体何人いるのでしょうか。私の個人的意見ですが、多くの障がい者アートを見てきた経験上、障害をもっていない人と障がい者の描く絵の完成度は変わらないと思います。障がい者でも健常者でも素晴らしい作品は素晴らしい。ただ、障がい者にとってハンディキャップがあるなと思うのが、発信です。

SNSが浸透した現代社会では、多くの人が発信する機会や場を簡単に得ることができます。しかし、障がいの種類によっては簡単ではないかもしれない。実際に、自作を見てもらう場所を確保できないまま、ひたすら絵を描いているという障がい者を私は何人も知っています。そういった作品を本人に代わって世に出そうというのが私たちです。毎日新規作品を30点ほど公開しています。

一般社団法人障がい者アート協会の強みや特徴はどんなところにあるのでしょう?

 私たちの特徴は3つあります。

1つ目の特徴は、原画の取り扱いをしないこと。私たちは、『アートの輪』というアートギャラリーや、イベントギャラリーがありますが、これらは全てオンラインギャラリーです。リアルな展示会は開催せず、原画を取り扱わないので、参加アーティストとはネットで作品データをやりとりしています。ですから作品は基本オンラインギャラリーで見てもらい、二次利用の場を探すというスタイルです。

2つ目の特徴は、作品の選定方法です。参加アーティストから送られてきた作品は、著作権を侵害していない、公序良俗に反していないといった一般的な常識的なルールを守っていれば、基本的に全てオンラインギャラリーで公開しています。特に制約を設けていないからこそ、ギャラリーには多種多様な作品が溢れています。

3つ目の特徴は、参加アーティストにお支払いするお金についてです。まず、作品が商用利用された場合にアーティストに著作権使用料としてお支払いする金額が、比較的高額な方であると思われるというのが1点。もう1点は、創作活動応援費です。これは、作品発表をする障がい者アーティスト全員に創作活動の継続を支援するために均等に分配される支援費で、スポンサー料・著作物二次利用・寄付収入から賄われています。
エコバッグ

創作活動応援費は全員に分配されるのですか?

 厳密には、「3カ月の間にアートの輪に投稿していただいた作品が1作品でも公開されたアーティスト」全員が対象ですね。

人気のある作品や優れた作品だけに価値を見出したり、作品数が多い人や、障がいが重い人を優遇したりするのは簡単ですし、経済面から見たらその方が合理的かもしれません。しかし、私たちの活動の目的は、障がい者アーティストが創作活動を継続できることです。そのためには、全員に平等に活動が続けられるよう支援をすることが必要だと思っています。

一人でも多くの障がい者アーティストに長く創作活動を続けてほしいという想いがあるのですね。では最後に今後の展望をお聞かせください。

私たちは、アーティストが自由に作品を発信できる無料のオンラインギャラリーを提供し、企業と協力してアート作品を製品化や、作品のレンタルも行うなかで多くの作品を広く伝えてきました。ギャラリーサイトのアーティスト登録数はどんどん増え続け、今では毎日1名のペースで新しいアーティストが参加してくれています。障がい者アーティストが活躍する場も社会的に増加傾向にありますし、障がい者の作品を含めたアートの多様性が徐々に認められてきているのだと思います。この流れをより加速させ、さらに多くの障がい者アーティストが活動を継続できるように今後も頑張っていきたいと思いますので、ぜひオンラインギャラリーをご覧いただけると嬉しいです。

一般社団法人障がい者アート協会のステークホルダーへの向き合い方

一般社団法人障がい者アート協会では、大好きな絵を活かして活動の幅を広げていきたい方や、発表の場を探しているアーティストを随時募集しています。ここでは650名以上の登録アーティストの中からお二人を代表としてご紹介したいと思います。

取引先との向き合い方
おゆみさん(参加アーティスト)さん

いつも繊細かつ迫力のある作品を作っていただきありがとうございます。
 
おゆみさんの作品は色々なところで二次利用されており、我々もすごく助かっています。また、経済的対価もしっかりお支払いできているので、それらが少しでも創作活動の足しになっていると嬉しいです。今後も引き続き活動を頑張ってください。

立川幹大さん(参加アーティスト)さん

まだ中学生ですが、工事車両や電車などを独特のタッチで描くアーティストです。企業からのリクエストにも柔軟に応えていただき感謝しています。今後も好きなものを好きなように描いていってほしいと思います。

建築現場や工事現場などの仮囲いに採用されたアート

建築現場や工事現場などの仮囲いに採用された

 

工房はんどさん

一般社団法人障がい者アート協会では、参加アーティストとして個人のエントリーの他に、支援団体からのエントリーも受け付けています。大阪府富田林市で活動する事業所の工房はんどさんも、エントリーしてくださっている団体の一つです。4年前、私たちが参加アーティストを募集することに苦労していただいた時期から、参加していただき、今も継続的に作品を送ってくださっています。そのおかげで我々も多くの企業の多様な需要に応えることができています。今後も引き続き、参加アーティストを増やしていくことに協力していただきたいと思います。

金沢QOL支援センター株式会社さん

金沢QOL支援センターさんは、「社会への価値=皆の幸せ」という理念のもと、在宅医療・就労支援の2つの地域医療事業を展開する企業です。私たちの活動の理念や目的を理解し、本年からご参加いただいています。正直な話、障がい者のアート活動といった領域は、福祉施設の担当者にかなりの熱意ややる気がないと手を出しにくいと思います。金沢QOL支援センターのご担当者さまも日々の業務で非常にお忙しいはずなのに、わざわざ一歩踏み出して私たちのもとに作品を委ねていただけるのを非常にありがたく感じています。これからもどんどん作品を送っていただき、より強固な関係を築いていきたいと思っております。

日本セイフティー株式会社さん

私は障がい者アート協会を立ち上げたときから、仮囲い(建築現場や工事現場などの安全を確保するため、工事期間中、敷地境界線に沿って設置される仮の囲い)へのアート展開を手がけたいと思っていました。そこで何百社もの建設資材メーカや建設会社にDMを送ったのですが、残念なことに全く反応が返ってきませんでした。まあ、急になんの実績もない設立したての団体からそんな要望が来てもすぐには応えられないと思うので当然だと思います。しかし、日本セイフティー株式会社さんだけは返事をいただけたのです。「良い取り組みだと思うので話を聞かせてください」という連絡があったときは本当に嬉しかったですね。ちょうど、仮囲いを使ったCSR活動を考えていたらしく順調に話が進みました。それ以来、同様の案件を受けたときには、仮囲いに貼るアートのシールの製造と施工を常に請け負っていただいております。また、私たちの活動を応援したいとスポンサーにもなってくださりました。誰にも振り向いてもらえなかったときに、唯一手を差し伸べてくださり、今も継続してご支援いただいていることに深く感謝をしています。日本セイフティー株式会社さんのおかげで今日の我々があります。

株式会社ヤマデンさん

株式会社ヤマデンは、東京都にあるプラスチック加工の会社です。毎年お客様に配るカレンダーを我々に発注してくださっています。まだ我々に何の実績もなかった頃から、我々を選んでいただき、ずっと継続していただいていることを本当にありがたく思っています。ぜひ今後ともよろしくお願いしますとお伝えしたいです。

株式会社MOGUさん

株式会社MOGUは、埼玉県のデザイン事務所です。障がい者アートを使用したデザインに以前から興味があったということで、同じ県内で活動する我々に声をかけてきてくれました。それ以来、我々が企業から受けた二次利用の案件にデザインが必要になったときにご協力いただいております。MOGUさんとお仕事するようになってから、デザインの持つ恐ろしいほどの力を思い知りました。「デザインの力でこんな風に変わるんだ!」と驚かされることが何度もありました。しかも MOGUさんは、障がい者支援という強い想いがあるので、価格もかなり手の届きやすいように設定していますし、対応も非常に速い。MOGUさんがいないと今の我々はないと思っています。

マスクケースにも障がい者アートを

マスクケースにも障がい者アートを

 

株式会社ダイバーシティさん

2020年12月に『100人名刺』というプロジェクトをクラウドファンディングで行いました。これは、一人でも多くの障がい者アーティストが社会とつながることを目的に、障がい者アーティスト100人それぞれが描く100のオリジナル作品を名刺に印刷する取り組みです。プロジェクトは多くのご支援や温かいメッセージを多数いただき、また、採用された多くのアーティストからも感謝や喜びの声も多数届くなど、大成功をおさめました。このプロジェクトの実働をほぼ全て行ってくださったのが株式会社ダイバーシティです。多くの細かい仕事を請け負ってくださったおかげで、我々は障がい者アーティストとのやりとりに集中することができました。そして、2021年5月の第2回目のクラウドファンディングも1回目以上に精力的に行ってくれました。我々も忙しくなかなかクラウドファンディングにまで手が回らないなか、サポートしてくださったことに非常に感謝しております。社会に発信する重要な取り組みですから、今後も引き続き助けてくださると嬉しいです。

 

社員・家族との向き合い方
上西陽平(理事)さん

私は、案件が動き出す前と後の業務を担当しているのですが、それ以外の業務、つまりアーティストの対応やケアといったことは全て上西さんが担当してくれています。作業量で言えば彼の方が圧倒的に多く、いつも本当に助けてもらっています。私はもとサラリーマンなので、この世の中には「余人をもって代え難し」なんて存在しないと思っていました。しかし、彼の場合は彼でないと困ります。上西さんがいなければ、今やっていることや、今後やりたいことは実現できないでしょう。今までの貢献に非常に感謝していますし、今後ともぜひ協力してほしいです。

 

未来世代との向き合い方
 

障がい者アートは近年注目され始めているため、企業としても取り入れやすくなっていると思います。それでも、ノベルティや冊子の挿絵を外部にお願いするとなったときに、障がい者アートをすぐに思いつく会社はそこまで多くないのではないでしょうか。そこで私は、企業の販促部門や総務部門などのご担当者の方にお願いがあります。障がい者アートを採用してくださいとは言いません。ぜひ、障がい者アートを同じ土俵にあげてください。企業だけではなく、あらゆる人が障がい者アートを当たり前の選択肢として考えてくだされば、未来はどんどん変わっていくと思います。以前、ある中学校の生徒が授業の一環で私にインタビューをしてくれたことがありました。興味関心のある社会課題について調べるという課題が出て、どうしたものか我々にたどり着いたらしいのです。そうした若い世代にも関心を持ってもらえると、さらに変化のスピードは上がっていくはずです。我々も積極的に発信していきたいと思います。

 

<団体概要>

名称:一般社団法人障がい者アート協会

設立:平成28年12月1日

所在地:本部事務局:埼玉県入間市小谷田656-2 グリーンコート101

代表理事:熊本 豊敏

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ライター:

1991年東京生まれ。中央大学法律学部出身。卒業後は採用コンサルティング会社に所属。社員インタビュー取材やホームページライティングを中心に活動中。

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