
ジョギングとごみ拾いを組み合わせた「プロギング」を通じて、楽しさの先に環境課題への参加を生み出そうとしているプロギングジャパン。出発点にあったのは、義務感や罪悪感では人は続かないという実感だった。「社会貢献と言わない社会貢献」を掲げる同団体は、参加者同士が褒め合い、つながる場をどのようにつくってきたのか。その原点と、各地へ広がる活動の現在をたどる。
「環境のため」から始めない、プロギングという入口
走りながらごみを拾い、拾った人に「ナイス!」と声をかける。プロギングジャパンが企画・運営するプロギングでは、ごみ拾いそのものだけでなく、参加する人が体を動かし、人と出会い、互いに声をかけ合う時間が大切にされている。
ジョギングとごみ拾いを組み合わせたプロギングのイベントを企画・運営するほか、地域団体の開催支援やインストラクターの育成にも取り組む。届けたいのは、体を動かす心地よさと、人と出会う楽しさの中で「つながり」を感じられる時間だという。
その場をつくるための工夫は細かい。初対面でも会話が生まれやすいようにニックネームシールを用意し、参加者の体力に合わせてコースやペースを調整する。ごみを拾ったときには、互いに「ナイス!」と声をかける。一人ひとりを主役にすることを大切にし、参加者が楽しめる場をつくっている。
「楽しむ人が増え、企業や自治体に交流が生まれ、その結果として街がきれいになる」。プロギングジャパンが掲げる「社会貢献と言わない社会貢献」は、こうした活動のあり方を表す言葉だ。
義務感では続かない——原点になった大学時代の実感
現在の考え方につながる経験は、大学時代にさかのぼる。気候変動のデモ活動を目にしたとき、自然を愛する自分自身でさえ「怖い」という印象を抱き、一歩引いてしまう感覚があったという。自然に関心がない人なら、参加へのハードルはさらに高いはずだと感じた。
大学で環境教室を企画した際にも、「SDGsの真面目な話を聞かされそう」と敬遠された。そこで痛感したのが、義務感や罪悪感を軸にした活動は続かないということだった。
そこから掲げたのが、「ポジティブな力で足元から変える」というモットーだ。走ることが楽しい。新しい人と出会える。互いに褒め合うことで自己肯定感が上がる。まず個人にとってのうれしさがあり、その結果として環境課題の解決にも寄与する。この循環をつくりたいという思いが、プロギングジャパン設立の原点になった。
大学で初めてプロギングのイベントを開いたとき、参加者の多くは何をするのかも知らず、「誘われたから来た」という人たちだった。それでもチーム対抗でごみを拾い始めると大いに盛り上がり、集まったごみは30キロ近くに達した。終了後に寄せられた「楽しかった!」「またやりたい!」という声は、今も活動の原動力になっている。
名城公園の朝7時半から、参加の輪が広がった
もう一つ、忘れられない出来事として挙げるのが、コロナ禍のさなか、友人2人と名古屋の名城公園で始めた朝7時半のプロギングだ。
始めて3週間ほどたった頃、近くのカフェの店長から「毎週笑顔で走っているけれど、なにをしてるの?」と声をかけられた。やがてカフェのスタッフや、毎朝ランニングをしていた人たちが次々と加わるようになった。その輪は名古屋市役所の人の目にも留まり、市の公式イベントへと育っていったという。
友人2人との活動から始まり、楽しんでいる姿を見た人が加わっていった。「楽しんでいる姿を見て、仲間になりたいと言ってもらえる」ことは、プロギングジャパンにとって「これ以上ない喜び」だった。
大学でのイベントでは、環境のためと強く訴えなくても、「楽しかった」「またやりたい」という声が生まれた。名城公園でも、毎週笑顔で走る姿をきっかけに人が集まっていった。楽しさを入口にするという考え方は、こうした活動の中でも大切にされている。
一人ひとりを主役にする仕組みが、つながりを生む
プロギングジャパンが大切にする「一人ひとりを主役にすること」は、イベントの運営にも表れている。初対面でも会話が生まれるよう、参加者はニックネームシールを使う。走るコースやペースは、それぞれの体力に合わせる。ごみを拾ったときには、互いに「ナイス!」と声をかけ合う。こうした一つひとつの工夫を重ねながら、参加者が人と出会い、交流できる時間をつくっている。参加者の笑顔と「ナイス!」の声かけは、社会から愛されていると実感する瞬間だという。
参加のきっかけについても、環境問題への関心に限定していない。健康のためでも、気分転換でも、新しい仲間と出会いたいからでも構わないと考えている。まずは自分自身の楽しみとして参加し、走って、拾って、互いに声をかけ合う時間の面白さを体験してほしいという。
企業や自治体と企画する際にも、参加する人の楽しみを起点に考えていきたいとしている。社員同士が交流する機会や、地域の魅力を知る時間など、プロギングにはさまざまな可能性があると捉えている。「自分たちにとってうれしいことが、誰かや街にとってもうれしいことになる」。その接点を一つずつ増やしていくことを目指している。
「プロギングを文化にする」ために、各地の活動を支える
プロギングジャパンが掲げるビジョンは、「プロギングを文化にする」ことだ。ランニングの楽しみ方の一つとして日常に溶け込み、走って、拾って、互いを褒め合う光景が全国津々浦々で当たり前になる未来を描いている。
現在、全国では約90団体が活動している。プロギングジャパンは、保険提供や告知支援を通じて、その輪をさらに広げようとしている。イベントを企画・運営するだけでなく、地域団体の開催支援や、プロギングリーダーの育成・認定も行う。自分たちで場をつくることと、各地で活動する人たちを支えることの双方に取り組んでいる。
社会課題解決を「義務」や「コスト」ではなく、「体験価値の創造」に転換できるというのが、同団体から経済界に伝えたい考えでもある。難しい理屈を並べる前に、まず自分が楽しみ、周囲を巻き込む。その小さな一歩の連鎖が、「既存の枠組みを軽やかに超え、新たなマーケットと共感経済を生み出す」と考えている。
企業や自治体とも、参加する人たちの楽しみを起点に企画を考え、その接点を増やしていく。「ポジティブな力で足元から変える」というモットーのもと、走って拾ってお互いを褒め合う光景を、全国で当たり前のものにしていくこと。それが、プロギングジャパンの描く「プロギングを文化にする」という未来である。




