
鳥貴族が10月1日から、フードやドリンクなどの価格を390円から410円へ引き上げる。値上げは続く。それでも今回、変えなかったものがある。「全品均一」だ。
原材料費、人件費、エネルギー代が上がるなら、原価の高い商品だけ値上げする手もある。それでも鳥貴族は、焼き鳥も酒も同じ410円にそろえる。なぜそこまで均一価格にこだわるのか。そこには、安さだけでは説明できない鳥貴族の商売の仕組みがある。
「全部410円」が客の財布のひもを緩める
一般的な居酒屋では、300円の小皿もあれば、600円の料理、700円の酒もある。客は注文のたびに価格を確認し、頭の中で会計を足していく。鳥貴族ではその作業が大幅に減る。どれを選んでも410円だから、「これも頼もう」と追加しやすい。鳥貴族が公式に掲げる「うまい!を、気がねなく!」という考え方ともつながっている。
さらに面白いのは、同じ値段だからこそ客が「どの商品が一番得か」を考えることだ。大きな焼き鳥も、ドリンクも、小皿も410円。同じ価格の中に「これは得だ」と感じる商品があると、店全体がお得に見えてくる。ダイヤモンド・オンラインの過去の取材でも、鳥貴族側は客が均一価格の中から得な商品を探すこと自体を楽しむと説明している。均一価格は値段を考えさせない仕組みであると同時に、「得な一品を探す遊び」を作る仕組みでもある。
客には均一、利益は「でこぼこ」で成り立っている
もちろん、410円の商品すべてから同じ利益を得ているわけではない。むしろ逆である。原価率の高い商品と低い商品を混ぜ、注文全体で利益を合わせる「マージンミックス」が鳥貴族の土台にある。過去の取材では、ドリンクなど粗利の低い商品がある一方、別の商品で利益を確保し、店全体の原価率を整える仕組みが紹介されている。
創業当初から、この考え方は鳥貴族の成長を支えた。創業時は150円、250円、350円の3段階だったが、1986年に全品250円均一へ転換。その際、焼き鳥の量を増やして原価率を高め、利益を削ってでも「この値段なら得」と感じる商品を作った。表では価格をそろえ、裏では商品ごとに利益を変える。この一見矛盾した設計こそ、均一価格を成立させる核心だった。
他社が真似しても残らなかった「均一価格」の難しさ
鳥貴族が伸びた後、居酒屋業界では270円、280円といった均一価格業態が相次いだ。節約志向とも重なり、一時は低価格均一居酒屋が大きなトレンドになった。しかし、その多くは長続きしなかった。東洋経済オンラインは、客数は増えても想定ほど客単価が伸びず、利益を確保できなかったチェーンの事例を紹介している。
違いは「同じ価格にすること」ではなく、「同じ価格なのに得だと思わせる商品をどれだけ作れるか」にある。安い商品ばかりをそろえれば、客には割高に見える。反対に原価の高い商品ばかりでは店が儲からない。鳥貴族は、原価率が50%を超えるとされた目玉商品も抱えながら、別の商品と組み合わせて全体で利益を出してきた。均一価格は分かりやすい商売に見えるが、実際には商品構成をかなり精密に設計しなければ成立しない。
410円への値上げで試されるのは「もう一品」
今回の値上げで注目されるのは「20円上がって客が減るか」だろう。ただ、鳥貴族の場合はそれだけでは足りない。重要なのは、一人の客が何品注文するかだ。均一価格では4品なら1640円、5品なら2050円と計算しやすい。この分かりやすさが「あと一品」を後押ししてきた。
しかし、値上げが重なると心理は変わる。390円なら4品頼んでいた客が、410円になったことで3品に抑えれば、店にとっては20円の値上げ以上の影響になる。だから鳥貴族がこれから守るべきなのは来店者数だけではない。「410円でも、もう一品頼みたい」と思わせられるかどうかだ。そのためには量や品質を維持し、価格上昇以上の満足感を残す必要がある。
「均一価格」はどこまで上がっても均一価格なのか
ここから先には、さらに難しい問題がある。鳥貴族はこれまで価格を上げながら均一制を維持してきた。しかし、均一価格の魅力は「全部同じ」という分かりやすさだけでなく、「この値段なら得」という感覚とセットで成立する。410円が450円、500円と上がったときも、同じ仕組みが同じ強さを持つとは限らない。
だから今回の410円は、単なる価格改定以上の意味を持つ。鳥貴族が試されるのは、値上げへの耐性ではない。価格が上がっても、客が「どれを頼んでも損をしにくい」「もう一品いこう」と感じる状態を維持できるかである。均一価格は安売りの仕組みから、今や鳥貴族の注文体験そのものになった。その体験を守れる限り、価格は変わっても鳥貴族らしさは残る。
一方で、物価高がさらに進み、価格とお得感のバランスが崩れれば、40年近く続いてきた均一価格にも限界が訪れる可能性がある。410円への値上げは、「高くなった鳥貴族」を見るニュースではない。値上げ時代でも「全部同じ値段」という商売がどこまで通用するのか。そのビジネスモデル自体を試す一手なのである。



