
『もやしもん』作者・石川雅之氏の「AIは仕事を奪いに来ない」発言が話題に。一方で新人原作者は「作画担当が生成AIを使い連載企画が消えた」と告白。漫画業界で進むAI活用とルール整備の必要性を考える。
『もやしもん』作者がAI生成キャラを公開し「AIは仕事を奪いに来ない」発言
漫画『もやしもん』で知られる漫画家・石川雅之氏のX投稿が話題になっている。
石川氏は、
「AIが仕事を奪いに来ると言うけれど、全然奪いに来ないのでこっちから奪われに行ってみた」
として、生成AIにキャラクターデザインを考えさせた画像を投稿。
さらに、
「その程度の新キャラではあかんのよ」
「まだお前に、いや貴様なんぞに奪われる気は1ナノも感じない」
とコメントした。
投稿された画像には、『もやしもん』の主人公の幼馴染・結城蛍を思わせるプロフィール設定と少女風キャラクターのイラストが添えられていた。
しかし、虫眼鏡の持ち方に違和感があったり、作中でおなじみの「菌」キャラクターが崩れたようなデザインになっていたりと、石川氏の作品とは大きく異なる仕上がりだった。
石川氏は、この完成度の低さをもって「現時点ではAIが自分の仕事を奪うレベルには達していない」と表現したようだ。
「既に仕事を奪われた側」の新人漫画戯作者の反論が波紋
ところが、この投稿に対し、新人漫画原作者の瀬楽緋勝(CWSR)氏が引用投稿。
その内容が大きな反響を呼んだ。
瀬楽氏は、
「作画担当がChatGPTと画像生成AIで主人公デザインを作っていたことが発覚し、連載企画が消えた」
と告白。
さらに、
「既に売れている作家さんには関係のない話だと思います」
と投稿した。
石川氏が語る「AIはまだ仕事を奪わない」という立場に対し、瀬楽氏は「実際にAI利用が原因で仕事を失った」と主張した形だ。
AIが作った企画案に感じた違和感
瀬楽氏はその後も詳細を説明。
作画担当から送られてきたキャラクター案について、
「合気道なのに蹴り用の硬い板入りの靴」
「激しい合気道の動きと緩やかな服装のギャップ」
などの設定が提案されていたという。
これは、合気道の知識がある人からすれば違和感がある内容で、瀬楽氏は「合気道を見たことがないのかと思った」というレベルの感想を持ったそうだ。
後になって、それらの案がChatGPTによる提案だったことが判明したという。
人間なら調べて考えればすぐ分かるような競技特性の誤認識は、AI特有の、それっぽく見えるが本質を理解していない提案だった可能性がある。
編集部と作家でも認識が分かれるAI利用是非
さらに興味深いのは、編集部側の反応だ。
瀬楽氏によると、その編集部では
「最終的に手描きで描き直せば問題ない」
という認識だったという。
一方で瀬楽氏は、
「キャラクターデザイン段階でAIを使っていること自体が受け入れられなかった」
として企画から降りたと説明している。
つまり、編集部は問題なし、原作者は問題ありという認識のズレが起きていた。
生成AIをめぐる議論は著作権だけに注目されがちだ。
しかし現場では、法的に問題ないかだけでなく、作者のポリシーがどんなものでが許容できるかどうかも大きな論点になっている。
漫画業界はAIとの“過渡期”にある
今回の件で見えてきたのは、AIの是非そのものよりもルール整備の重要性だ。
現状では、AI使用歓迎派、補助ツールならOK派、一切使いたくない派が混在している。
どれが正しいという話ではなく、問題は、その認識が共有されていないまま企画が進んでしまうことだ。
制作途中で「実はAIを使っていました」となれば、信頼関係そのものが崩れる。
AI時代に必要なのは“事前の合意”
生成AIは今後も発展を続けるだろう。
そして漫画業界だけでなく、イラスト、映像、広告、小説、ゲームなどあらゆるクリエイティブ分野で利用は広がっていくはずだ。
だからこそ必要なのは、「使う・使わない」の議論だけではない。
企画開始時点で、AI利用の可否・利用範囲・編集部の方針・作者同士の認識などを共有することだろう。
法律を守るのは当然として、その先のモラルや価値観まで含めて擦り合わせる必要がある。
AI時代に問われる、創作のルール設計とすり合わせ
今回の騒動は、「AIが漫画家の仕事を奪うのか」という話として広まったが、実際には、AIの使用範囲の事前共有という信頼関係の問題だったようにも見える。
石川雅之氏が感じた「まだAIは自分の仕事を奪えない」という実感。
一方で、瀬楽氏が経験した「AI利用で企画が消えた」という現実。
どちらも当事者にとっては事実だ。
生成AIが急速に普及する今、クリエイティブ業界はまさに過渡期にある。
技術そのものよりも、その技術をどう使い、どう共有するか。
今後はそこが最も重要になっていくのかもしれない。



