
東京都内の倉庫に、日本各地から集まったランドセルが積み上がっている。
本来なら、アフガニスタンの子どもたちへ届けられるはずだった。しかし、中東情勢の緊迫化によって輸送ルートの確保が難しくなり、支援活動は一時停止を余儀なくされている。
遠い国の紛争や物流の混乱は、いま、一人の子どもの「学校へ行きたい」という願いにも影を落としていた。
倉庫に並ぶランドセル 止まった支援の現場
東京都大田区の倉庫には、多くの段ボール箱が並んでいる。
中に入っているのは、日本の子どもたちが使い終えたランドセルだ。赤、黒、紺、ピンク――それぞれに6年間の記憶が刻まれている。
朝日新聞によると、国際協力NGOジョイセフが集めたランドセルの一部が、輸送の見通しが立たないまま国内に保管されているという。
ジョイセフは2004年から、「思い出のランドセルギフト」として、日本で役目を終えたランドセルをアフガニスタンへ届けてきた。公式サイトによると、これまでに寄贈されたランドセルは約27万個にのぼる。
ランドセルを受け取った子どもたちが学校へ通うきっかけになれば。そんな思いから続けられてきた活動だった。
しかし、2026年春、その流れが止まった。
ジョイセフとはどんな団体なのか
ジョイセフは、女性や子どもの健康と命を守るための国際協力活動を続けている公益財団法人だ。
1968年に設立され、アジアやアフリカを中心に、妊産婦支援や保健教育、女性支援などに取り組んできた。日本では、途上国の母子保健支援を行う団体として知られている。
その活動のひとつが、「思い出のランドセルギフト」だった。
2004年に始まったこの取り組みは、日本で役目を終えたランドセルをアフガニスタンへ届け、子どもたちの教育支援につなげるというものだ。
特に女の子は、教育機会が制限されやすい現状があるとされる。ジョイセフは、ランドセルが学校へ通うきっかけになればと活動を続けてきた。
活動は小学校の教科書にも掲載され、多くの家庭や学校に広がっていった。
ランドセルを受け取る子どもたちだけではない。
日本の子どもたちにとっても、「使い終えたものを次の誰かへ託す」という経験につながってきた。
中東情勢の緊迫化で輸送停止に
ジョイセフは2026年3月、アフガニスタン向けランドセルと学用品の輸送、および新規受け入れを一時停止すると発表した。
理由として挙げたのは、中東情勢の急速な緊迫化だ。
公式発表では、ホルムズ海峡周辺の情勢悪化に伴い、物流が滞る懸念が高まっているとしている。
これまでランドセルは、日本から船で輸送された後、パキスタンなどを経由し、陸路でアフガニスタンへ届けられてきた。しかし、パキスタンとアフガニスタン国境の不安定化により、従来ルートの維持が難しくなった。
そのため、新たにアラブ首長国連邦(UAE)経由の輸送ルートも検討されていたが、ホルムズ海峡周辺の情勢悪化によって、こちらも不透明な状況になっている。
ジョイセフは、すでに受け付けたランドセルについては倉庫で保管し、輸送再開の可能性を探っているという。
ランドセルが持つ「学ぶきっかけ」という意味
ランドセルは、日本では小学生の通学鞄として広く使われている。
一方、ジョイセフは、このランドセルがアフガニスタンの子どもたちにとって「学校へ通う後押し」になってきたと説明している。
アフガニスタンでは、長年の紛争や社会不安の影響で、教育環境が十分に整っていない地域も少なくない。特に女の子は、教育機会が制限されやすい現状があるとされる。
そうした中で、日本から届くランドセルは、学用品以上の意味を持ってきた。
ジョイセフの公式サイトには、「ランドセルをきっかけに学校へ通う子どもが増えてほしい」という寄付者の声も掲載されている。
日本で役目を終えたランドセルが、別の国の子どもたちの学びにつながる。この活動は、そうした循環によって支えられてきた。
世界情勢が、子どもの教育にも影を落とす
今回の輸送停止は、単なる物流問題ではない。
世界各地の緊張が高まることで、国際支援そのものが不安定になる現実を映している。
ホルムズ海峡は、世界の物流やエネルギー輸送にとって重要な海上ルートとして知られている。その周辺情勢が不安定化すれば、物資輸送全体に影響が及ぶ可能性がある。
その影響は、燃料価格や物価だけではない。
遠く離れた国の子どもたちへ届けられるはずだった学用品にも波及している。
支援活動は、善意だけでは続けられない。安全な輸送ルートや安定した国際情勢があってこそ成り立つ。
今回のランドセル輸送停止は、その現実を静かに浮かび上がらせている。
「届けたい」という思いは止まっていない
ジョイセフは現在も、情勢を見ながら支援継続の方法を模索している。
倉庫に積まれたランドセルは、行き場を失ったわけではない。輸送再開の日を待ちながら、大切に保管されている。
ランドセルには、日本の子どもたちが過ごした6年間が詰まっている。そして、その先には、新たに学びを始めようとする子どもたちがいる。
世界情勢が不安定になるほど、支援活動は難しさを増していく。それでも、「学び続けてほしい」という思いまで止まったわけではない。
倉庫に静かに並ぶランドセルは、いまもそのことを語り続けている。



