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企業は従業員の過労死にどう向き合うべきか

コラム&ニュース コラム
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karoushi
 写真ACより

従業員の過労死について、企業の責任や法的問題、会社の構造上の問題などから考える。

清水建設社員が自殺 勤務時間過少報告の裏に時短目標か

ゼネコン大手の清水建設の男性社員(当時29歳)が、2021年8月に会社の独身寮で自殺した。月の平均残業時間が100時間を超えていたが、勤務記録を操作し、会社へ過少報告していたという。遺族からの「過重労働が原因でないか」という指摘を受け、同社が立ち上げた調査委員会による実態調査の結果をもとに、労働基準監督署が長時間労働などによる労災と認定。同社は遺族に謝罪し、和解が成立している。

男性が自らの勤務時間を過少申告した背景には、残業を短縮しないと評価に影響すると上司から伝えられたことが影響した可能性があるとされる。政府が打ち出した「働き方改革」に基づき、長時間労働の撲滅を目指す企業が増えている。過度な労働を是正する動きは望ましいが、単純に残業を廃止するだけでは根本的な問題の解決にはならない。企業は残業の原因となった業務の難易度や、量、人員配置等が適正であったかどうかを見直すべきであろう。

東芝系SEが自殺 システム開発遅れで業務集中

東芝グループの中核事業会社の一つ、東芝デジタルソリューションズでシステムエンジニアとして働く男性社員(当時30歳)が、2019年11月に自宅マンションで自殺した。亡くなる直前の1カ月の時間外労働は103時間56分。1週間に10時間睡眠の時もあったという。東芝側は、システム開発に遅れが生じたため、男性社員に業務が集中し、過度な負担がかかったことを認めている。

本事例の背景には、コンピュータ労働が多様な産業で増加していることや、一般ユーザーのインターネット利用が拡大することに伴い、厳しい納期設定や期限前の頻繁な仕様変更、顧客からのクレームや要望への対応といった仕事量の増加があると考えられる。事実、厚生労働省がIT産業において時間外労働が生じる理由についてヒアリング調査を行なった結果、「発注者(クライアント)から納期の厳守が求められる」、「先行する作業工程が遅れた場合にそのしわ寄せがある」、「クライアントによる作業工程の無理解のため、急な仕様変更等が生じる」といった回答が寄せられている。

特に顧客先で就労する派遣労働型のシステムエンジニアは、疎外的な状況や顧客先での生活環境から精神的健康不調に至ることが指摘されている。企業は派遣の条件や派遣先でのコミュニケーション状況を迅速に把握できる体制を構築すべきである。

過労死ラインの変更で労災認定が増加

健康障害に発展する恐れのある時間外労働時間を「過労死ライン」と呼ぶ。健康障害の発症日前2ヵ月〜6ヵ月間の残業時間が月平均80時間を超えていること、発症日の直近1ヵ月で残業時間が月100時間を超えている場合に、労働と死亡の因果関係が認められやすいという目安であり、労災認定の基準として用いられている。

2021年9月にこの過労死ラインが見直された。残業時間の基準そのものに変更はなかったものの労働時間以外の負荷要因(不規則な勤務や、精神的な緊張が伴う業務が日常的に行われていること等)も考慮するよう明示された。つまり、法令で定められた時間外労働の上限規制に達していなくても、過労死等の労災認定を受ける可能性が高くなったのである。

従業員が過労死したときの企業の法的責任

違法な労働環境を原因とする過労死が起こった場合、企業に刑事罰が科される可能性がある。36協定無しに従業員を残業させた場合や、36協定上の上限時間を超えて従業員を残業させた場合に、労働基準法32条違反と判断されるのだ。

2015年に大手広告会社の電通の新入社員の女性がクリスマスに自殺したニュースを覚えている人は多いであろう。同社は従業員に対して労働基準法32条に違反する残業命令を行なっていたとして労働基準法違反に問われ、東京簡裁が求刑通り罰金50万円の判決を言い渡した。

「しごとより、いのち」。

「しごとより、いのち」。厚生労働省の過労死防止のスローガンである。当たり前であるはずのことがなぜできないのか。過労死の問題は1980年台初頭から弁護団等によって指摘されていたにもかかわらず、未だ勤務時間を原因とする過労死等の総数は増加傾向にある。令和3年度の脳・心臓疾患の労災認定支給決定件数は、172 件(うち死亡 57件)。自動車運転従事者が最も多く、次いで建設従事者となっている。

過労死ラインが変更され労災認定が認められやすくなったとしても、企業に法的責任を問えるとしても、過労死で亡くなった人はかえってこない。パフォーマンスとしての残業廃止ではなく、実態に即した労働環境の整備こそ企業の喫緊の課題である。

参考:
清水建設・過労自殺:建設業界「月の残業180時間」常態化、入札の構造的問題
令和4年版過労死等防止対策白書
東芝系SEが過労自殺 開発遅れ長時間労働、労災認定
脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント
電通に罰金50万円判決 東京簡裁 裁判官、山本社長に「社会的役割期待している」

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ライター:

1991年東京生まれ。中央大学法律学部出身。卒業後は採用コンサルティング会社に所属。社員インタビュー取材やホームページライティングを中心に活動中。

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