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SDGs最先進県神奈川県の先駆的な取り組み3選~行政が繋がりの仕組みと可視化を推進|神奈川県いのち・未来戦略本部室SDGs推進グループ清木信宏さん

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
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神奈川県いのち未来戦略本部室SDGs推進グループ 清木さん

SDGs達成の鍵とされている地方自治体。国・政府、企業・団体、地域住民の間に位置する行政機関である地方自治体は、グローバルとローカルな社会課題の解決策をつなぐ橋渡し的存在としてその重要性が強調される。その先導的な立場として注目されているのが神奈川県である。2018年にSDGs未来都市、自治体SDGsモデル事業として選出された同県では、地域住民のSDGsへの認知を向上させる取り組みや企業との連携推進による施策を全国に先駆けて行なってきた。今回は神奈川県政策局いのち・未来戦略本部室SDGs推進グループのグループリーダー清木信宏さんに、神奈川県の具体的な取り組み施策、SDGs金融や地域通貨の広がり、ステークホルダーとの関係性についてお話を伺った。

全国初、SDGs未来都市&自治体SDGsモデル事業に選出

神奈川県は、SDGsが社会的に注目される以前から、全国に先駆けてSDGsに注目、推進してきたと伺っています。

清木

おっしゃる通り、神奈川県は早い段階からSDGsに積極的に注力してきました。

2015年9月に国連でSDGsが採択されて以降、SDGsに関連する国内の動きとして、まず国において2016年5月にSDGsへの取り組みを促進するためのSDGs推進本部が設置されました。その後、2018年6月に全国からSDGs達成に向けて優れた取り組みを行なう自治体、通称「SDGs未来都市」が初めて選定されました。

このとき神奈川県はSDGs未来都市に選出されたほか、神奈川県庁での事業である【SDGs社会的インパクト評価実証プロジェクト】や横浜市の【“連携”による横浜型「大都市モデル」創出事業】、鎌倉市の【持続可能な都市経営「SDGs 未来都市かまくら」の創造】という3事業が特に先導的な取り組みであると認められ、「自治体SDGsモデル事業」に選出していただきました。

10の自治体SDGsモデル事業のうち、神奈川県勢が3つを占めていること、そして都道府県レベルとして選ばれたのは神奈川県のみということを受け、神奈川県は「SDGs最先進県」であると自負して活動を続けております。

SDGs最先進県が「SDGsの認知度の低さ」とどう向き合ってきたか

具体的にはどのような活動を行ってきたのでしょうか?

清木

今でこそSDGsという言葉を耳にする機会が増えましたが、当初は企業も一般県民も、そして我々職員さえもSDGsについてほとんど知識が無い状態でした。そのため初期段階ではSDGsの認知度を向上させるための活動を行なってきました。

まず始めたのが我々職員自身のSDGsに対する理解の促進です。SDGsを一般に普及させるためにはまずは自分たちからと考え、有識者を招致した各種職員向けの研修の実施や、各事業担当者による自身の事業とSDGsのゴールとの結びつきの精査などを行ない、SDGsに取り組む必要性を確認し、職員の意識の向上を目指しました。

こうした内部での活動と並行し、県民の皆様にSDGsを分かりやすく伝えるためのシンボリックな取り組みとして、2018年9月に「かながわプラごみゼロ宣言」を発表しました。きっかけは2018年5月、鎌倉由比ヶ浜にシロナガスクジラの赤ちゃんが漂着した出来事です。クジラの体内からは大量のプラごみが発見されました。これを受けてプラスチックによる海洋汚染防止を目的に、2030年までにリサイクルされない、廃棄されるプラごみゼロを目指す宣言を発表し、企業等と連携したプラスチック製ストローやレジ袋の利用廃止や回収などの取り組み、イベント等におけるプラスチック製ストローの利用廃止や回収などの呼びかけ、プラごみの持ち帰りの呼び掛けを徹底しました。

プラスチックによる海洋汚染の防止は「海の豊かさを守ろう」というSDGs目標14に直結します。鎌倉市民の皆様を中心にSDGsに対する意識が芽生えたとともに、1,000を超える企業がプラごみ削減に賛同していただきましたので、同宣言は多くの人や企業に響くシンボリックな施策になったと評価しています。その後、度重なる自然災害の被害を受けて2020年に発表した、かながわ気候非常事態宣言も、風水害対策の強化を通して2050年の脱炭素社会実現に向けた取り組みを推進する象徴となりました。

やはり各々が身近に感じるということがSDGsを浸透させるうえで重要なポイントとなるのですね。

清木

目標として掲げているだけでは現実は変わりません。日々の取り組みがSDGsにつながることを体感することで、行動を喚起する施策であることを大切にしています。

その意味で始めたのが​​「SDGsつながりポイント」です。これは「まちのコイン」というコミュニティ通貨を介して地域内のコミュニケーションを活性化させるシステムで、スマートフォンのアプリを使って誰でも参加できます。ビーチクリーンへの参加やマイバッグの持参などのSDGsに関連する活動を通してコインを貯めると、加盟スポットのお店で裏メニューを頼むことができるなど様々な嬉しい体験を積むことができます。

SDGsつながりポイントロゴ
清木

SDGsつながりポイントは、鎌倉や小田原、厚木、日吉などの神奈川県内だけではなく、岡山県の新庄村や鳥取県の智頭、福岡県の八女などの県外でも導入され、総ユーザー数17,600人を超えています。想いを「行動」に、SDGsを「自分事」としてつなぐ接着剤的なツールとして積極的に活用していただきたいと思って始めた取り組みなので、ぜひご参加いただけると嬉しいです。

つながりポイント使用画像
つながりポイント使用例画像
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企業活動の社会的価値を「見える化」、企業の資金調達をスムーズに

神奈川県はすでに様々な取り組みを実施されていますが、そのご経験からSDGsを達成するためにはどんなことが必要だと思われますか?

清木

パートナーシップの必要性を強く感じています。SDGsで取り上げられているような社会課題は行政の力だけで解決できるものではありません。行政、企業、一般市民といった全てのステークホルダーが協調して取り組まなければ、持続可能な社会は維持できないと感じています。そのために我々はパートナーシップを最大のテーマとしています。

パートナーシップに関する取り組みとしては、どのようなものがあるのでしょう?

清木

企業や団体等に関するパートナーシップの取り組みとして、2019年4月より「かながわSDGsパートナー」という登録制度をスタートさせました。SDGsを活用して事業を展開している企業、NPO、団体、大学を登録し、その取り組み例を神奈川県が広く発信・広報することで、県内の企業等におけるSDGsの取り組みのすそ野を広げることを目的としています。

登録された企業にとっては、神奈川県の中小企業制度融資による支援や、県による対外的な広報・アピールを受けられるほか、パートナーミーティングを通じたマッチングの機会を得られるといったメリットがあります。2020年2月にパシフィコ横浜で開催されたかながわSDGsパートナー・アクションミーティングでは、350名の方が参加し、19のパートナーがブースを出展、自社の取り組み紹介するプレゼンや講演が行なわれました。SDGs推進に向けた新たなビジネスにつながったという声もあり好評であったため、来年(2022年)にも同様のイベント開催を企画中です。

SDGsが注目される昨今は、ESG投資=「環境・社会・企業統治」などを重視した経営を行う企業を投資基準とする投資家が増えています。SDGsへの取り組みに注力したい企業も増えていますが、神奈川県としてはそれらの企業をどのように支援したいとお考えですか?

清木

「SDGsにつながる事業にどのように資金を回していくか?」は行政においても大きな課題の1つです。せっかく未来の地球環境に非常に有用な事業を展開したいと考えている場合でも、資金調達面では必ずしも十分な成果が得られないケースが多々あると思います。環境問題に関する事業は短期的に利益が得られないことも多いため、新規参入には躊躇する企業も多いのではないでしょうか。

そこで神奈川県では、SDGsに取り組む企業の資金調達を円滑にする仕組みづくりとして「かながわ版SDGs金融フレームワーク」を作り、企業と金融機関の間に入ってSDGs金融を促進する役割を担ってきました。具体的には、金融機関が融資を判断する際に財務諸表上の情報だけではなく、企業のSDGsへの貢献や、ESGへの取り組みといった非財務情報を取り入れていただく仕組みを構築し、企業にはSDGsを経営に取り入れていただくようにサポートをしています。

非財務情報を評価するのは簡単ではないと思いますが、どのように評価されているのですか?

清木

「​​SDGs社会的インパクト評価」を導入し、SDGsへの貢献度や社会的・環境的な変化・効果といった測りがたい概念を定量的・定性的に「インパクト」として評価できるようにしました。つまり、SDGsの「見える化」です。企業にとってもSDGsを「見える化」することで、SDGsに関連する活動を「インパクト」として評価することが可能になり、経営に生かすことができるようになりました。

企業や団体にとって資金調達は死活問題ですから、未来や環境により良い企業、例えば先ほど申し上げた「かながわSDGsパートナー」などへの資金面でのサポートは積極的に行なっていきたいと考えています。そのために整えたのがSDGs社会的インパクト評価であり、次にお話しする「かながわSDGsアクションファンド」です。

「かながわSDGsアクションファンド」とはどのような仕組みなのでしょうか?

清木

神奈川県と「ミュージックセキュリティーズ株式会社」が連携して作ったクラウドファンディングのプラットフォームです。SDGs社会的インパクト評価を導入することで、個人がインパクト投資という具体的なアクションによりSDGsに携わることができる社会的投資の仕組みです。

このプラットフォームを利用することで、かながわSDGsパートナーが実施するSDGsに貢献する事業への投資というかたちで応援することができます。かながわSDGsパートナーの各企業にとっては、クラウドファンディングを使って資金調達もできるうえ、プロジェクトを通してファンも獲得できる仕組みになっています。

神奈川県SDGsパートナーロゴ
清木

現在受付中のプロジェクトとして、「女性アスリートヘルスケア改革応援ファンド」と「神奈川発 ゴミの見える化革命DXファンド」があります。前者は神奈川県大和市をホームタウンとする女子サッカークラブ「大和シルフィード」の女性アスリートのヘルスケア環境向上に関するものであり、後者は神奈川県大和市に拠点をおく株式会社ケイ・システムの産業廃棄物の「見える化」と、廃棄物データ活用に関するプロジェクトです。ご興味のある方はぜひご覧になってみてください。

SDGsを合言葉にコロナ禍で浮き彫りになった社会課題を解決したい

金融機関による融資からクラウドファンディングまで幅広い資金調達方法を整えることで、SDGsなどに取り組む企業や団体を応援しているのですね。今後SDGsに本腰を入れたいという企業や団体に対してメッセージがあればお聞かせください。

清木

中小企業向けの講演でよくお話しさせていただくことなのですが、SDGsに関する新たな事業を始めるよりも、既存の事業を見直してみることをお勧めしています。マンパワーや資金、SDGsに関するノウハウが少ない場合、新たな事業創出は非常にハードルが高いと思います。日本企業は三方良しなど社会貢献の考えをベースとした理念を持っていることが多く、実は今ある事業がSDGsにつながっていたというケースも少なくありません。ですから新しく始めるよりも、今あるものの中からSDGsと親和性が高い事業をピックアップし、そのつながりを対外的に発信することが非常に重要だと思います。

ここまで、企業や団体、地域住民とSDGsをつなげる様々な取り組みについて伺ってきたのですが、最後に神奈川県がここまでSDGsに積極的な理由を教えていただけますか?

清木

本県の黒岩知事は就任後、「いのち輝く神奈川」を掲げ、「医療、食、農業、産業などを掛け合わせながら施策を進めることで人のいのちは輝く」というメッセージを当時から発信していました。「いのち輝く神奈川」とSDGsの17のロゴが似ていることからも分かるように、知事の思いとSDGsには共通点が多く、時代が追いついてきたという感覚なのだと思います。そういったことを背景に神奈川県は黒岩知事のトップダウンのもとSDGsに積極的に取り組んできました。地域全体を巻き込むには行政の力だけでは十分ではなかったところに、SDGsという共通言語ができたことで、ステークホルダーが社会課題の解決に向けて一斉に動き出すようになり、徐々に状況も変わってきています。

今回のコロナ禍で、社会的弱者が浮き彫りになりました。シングルマザーや子ども、非正規雇用者、外国籍県民などが抱える生きづらさの問題は早急に解決しなければいけません。行政による公的支援に加え、様々な主体のパートナーシップによるSDGsアクション-「共助」の取り組み-の拡がりが、今まさに必要とされています

幸い、我々はSDGsに先駆けて取り組んできたおかげで、様々な企業から「神奈川県とであればSDGs関連で何かしらのアクションを起こしていきたい」という打診を頂いております。今までのノウハウや情報を生かして、日本のSDGsを先導していくと同時に、SDGsへの取り組みを具体的に提示することで、広く県民の皆様や企業・団体との橋渡しとして引き続き活動していきたいと思います。

清木さん画像

◎神奈川県
政策局 いのち・未来戦略本部室(SDGs推進グループ・SDGs連携グループ)
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/bs5/index.html

神奈川県SDGsロゴ

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ライター:

1991年東京生まれ。中央大学法律学部出身。卒業後は採用コンサルティング会社に所属。社員インタビュー取材やホームページライティングを中心に活動中。

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