
「退職を、代わりに伝えます」。そんなうたい文句で若者の支持を集めた退職代行サービス「モームリ」。その運営会社の前社長に、有罪判決が言い渡された。
SNSにつづられた本人の謝罪には、厳しい声とともに、擁護や応援の言葉も少なからず寄せられた。労働の現場に深く根を張ったサービスは、いま何を問うているのか。
退職代行モームリ前社長・谷本慎二氏に有罪判決、Xで謝罪
退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロス(横浜市)の前社長、谷本慎二氏が9月11日、自身のXを更新した。「懲役2年、執行猶予3年の判決が言い渡されました」と報告し、判決を真摯に受け止めて罪を償っていきたいとつづったうえで、末尾を「大変申し訳ございませんでした」と結んでいる。
プロフィールに「モームリを名付けた男」と掲げる谷本氏。退職をためらう若者に代わって勤務先へ意思を伝える、このサービスの生みの親が法廷で有罪を告げられた事実は、静かに、しかし確実にSNS上へ広がっていった。
弁護士への違法あっせん、紹介料を広告費に偽装した手口
判決の中身は、サービスの手軽な印象とは対照的だった。毎日新聞によると、東京地裁は8月28日、弁護士法違反(周旋)などに問われた谷本被告に懲役2年、執行猶予3年(求刑・懲役2年)を、妻で元執行役員の谷本志織被告にも懲役1年6月、執行猶予3年を言い渡した。運営会社には罰金200万円が科されている。
起訴状などによれば、両被告は2023年6月から25年2月にかけ、弁護士資格がないまま174人の退職希望者を弁護士2人に有償であっせんしたとされる。勤務先との交渉が必要になる依頼者を無資格のモームリが引き受ければ、いわゆる「非弁行為」にあたり違法となる。そこで案件を弁護士へと送り、1人あたり1万6500円、総額およそ280万円の紹介料を受け取っていた。その上、その金は「広告業務委託費」などと名目を偽っており、組織犯罪処罰法違反にも問われている。旺盛な需要の裏側で、法の一線が繰り返し越えられていた構図が浮かぶ。
謝罪投稿に寄せられた応援の声、割れる評価
有罪の報告に対しては、当然ながら厳しい視線も注がれた。ただ、その投稿への返信で目を引いたのは、非難ばかりではないという事実だ。「あなたのおかげで助かった人もたくさんいるはず。前を向いて行こう」。実際にサービスを使ったとみられる利用者からは、退職を代行してもらった恩は忘れない、罪を償ってくれればそれ以上は望まない、といった声も寄せられた。「現代社会に必要な会社」「ビジネスでの再起を応援している」と、復帰を待ちわびるコメントも見られる。
もっとも、称賛一色だったわけではない。あるユーザーは「非弁行為は許されない」と前置きしたうえで、それでも根強い需要を可視化した点に一定の意味を見いだそうとしていた。罪は罪として認めながら、サービスそのものは手放しがたい。この入り組んだ世論こそ、退職代行という業態が置かれた微妙な立ち位置を映している。
運営会社アルバトロスは「サービスへの司法判断ではない」と強調
渦中の運営会社も、沈黙はしなかった。株式会社アルバトロスは代表取締役・浜田優花氏の名義で関係者向けの文書を公表し、判決への見解を示している。同社は本件を紹介料の受領に関する判決だと位置づけ、退職代行モームリのサービス自体に対する司法判断ではないと明言。サービスは現在も営業を継続しているとした。
実際、モームリは経営体制を刷新したうえで、判決に先立つ今春の段階ですでに営業を再開している。文書では、外部の弁護士によるリーガルチェックの徹底や内部管理体制の強化を挙げ、再発防止と信頼回復に努めるとした。前社長個人の刑事責任と、サービスの継続とを切り分けたいという同社の思惑がにじむ。
退職代行の需要が映す、労働のいま
今回の事件が浮き彫りにしたのは、一企業の逸脱にとどまらない。辞めたくても辞められない。そんな職場が現に存在するからこそ、代わりに退職を告げるサービスに人が集まり、無資格のあっせんという危うい橋にまで需要が流れ込んだ。日本の労働環境の裏側を映した、というSNSの指摘は、皮肉ながら核心を突いている。
非弁提携は、送り出した側だけでなく、紹介を受けた弁護士側も罰せられる。グレーゾーンに頼らずとも、働き手が安心して職場を離れられる仕組みをどう整えるか。有罪の当事者にまで向けられた応援の言葉は、裏を返せば正規の受け皿の乏しさの表れでもある。謝罪と喝采が入り混じる異様な光景の先に、労働社会がなお向き合いきれていない宿題が残されている。



