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ふるさと納税「東京2255億円赤字」に異論 地方以外に流れる巨額マネー

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ふるさと納税で東京都が2255億円の赤字。

8月26日、朝日新聞が報じた衝撃的な数字に、”東京が大損した”と受け止めた人も多いだろう。ところがネット上では、「そもそも地方へ税金を移す制度では?」「それが狙い通りなのでは」と、報道の切り口そのものを疑問視する声が相次いだ。一見すると制度の歪みにも見える2255億円。その数字の裏側には、税金を払う人、受け取る自治体、返礼品を売る企業、仲介サイトまで巻き込んだ巨大なカネの流れがある

2255億円マイナスのカラクリと赤字の正体

朝日新聞によると、2025年度のふるさと納税について、寄付の受け入れ額から返礼品や送料などの経費、さらに住民税の控除による流出額を差し引いて都道府県別の収支を試算したところ、19都府県で流出額が受け入れ額を上回る赤字となった。

その筆頭が東京都だ。寄付金の受け入れ額は162億円だったのに対し、返礼品や仲介サイトへの手数料などの経費が66億円、他自治体への寄付による住民税控除額が2351億円。これらを差し引いた結果、東京都は2255億円のマイナスと弾き出された。神奈川県も846億円、大阪府489億円、埼玉県481億円、愛知県469億円の赤字となっている。

一方で、黒字額が最も大きかったのは北海道の709億円。宮崎県281億円、山梨県228億円が続き、8道県では黒字が100億円を超えた。ここだけを見れば、東京から地方へ2255億円が流出したという印象になる。ただし、少し待ちたい。この2255億円は、東京都の決算書に記された確定赤字ではない。

朝日新聞が総務省の公表データなどを組み合わせて独自に試算した、ふるさと納税に関する収支だ。さらに、地方交付税の交付団体では住民税控除額の約75%が地方交付税で補塡される仕組みがあるものの、今回の試算では考慮されていない。もちろん、東京都のような不交付団体にとって住民税の流出が問題になること自体は変わらない。それでも、「東京都から2255億円が丸ごと消えた」という意味ではない。そして、そもそもである。都市部から地方へ税の一部を移すことは、ふるさと納税の制度そのものが持つ大きな目的の一つではなかったか。

 

「それが狙いでは?」Xで噴出した冷静な疑問

このニュースが面白いのは、ここからだ。報道後、Xでは単純な「ふるさと納税批判」とは違う反応が目立った。

「狙い通り都市部のお金が田舎に流れたふるさと納税ではないのか」

「ふるさと納税制度のまさに意図するところだと思う」

「地方にプラス多いなら狙いとおりちゃうの?」

さらに、「なぜわざわざマイナスイメージの『赤字』に着目するのか」「黒字28道府県と報じてもよかったのでは」といった疑問も投稿されている。

もちろん、こうしたXの声だけを根拠に朝日新聞の報道を間違いとすることはできない。朝日新聞が示した試算には根拠があり、都市部の税収流出が自治体にとって課題になるという指摘にも理由はある。ただ、数字というものは不思議なもので、置き場所によってずいぶん表情が変わる。東京から出ていったお金だけを見れば2255億円のマイナス。しかし、そのお金を受け取った自治体にとってはプラスだ。東京の財布だけを開いて「2255億円なくなりました」と言えば、そりゃあ驚く。だが、その2255億円がどこへ行ったのかまで帳簿をめくってみると、話は少し違って見えてくる。ふるさと納税は、まさにその「お金を動かす」ための制度でもあるからだ。

知っているのに「使わない」6割 利用者は誰なのか

では、これほど話題になるふるさと納税を、いったいどれほどの人が利用しているのか。実は、ここにも意外な数字がある。経済産業研究所(RIETI)が2023年9月、年収300万円以上の5万788人を対象に実施した調査では、ふるさと納税の利用率は37.6%だった。一方、「知っているが利用していない」と回答した人は59.2%。制度自体を「知らない」とした人は3.2%にとどまった。

つまり、「知らないから使っていない」のではなく、「知っているけれど使っていない」人が6割近くいる。

制度が始まったのは2008年度。18年近くが経過しているにもかかわらず、「ふるさと納税」という言葉を知っている人と、実際に利用している人との間には、まだかなり大きな溝がある。理由の一つは、制度の分かりにくさだろう。

いくらまで寄付できるのか。自分の場合はいくら控除されるのか。ワンストップ特例制度とは何なのか。確定申告は必要なのか。名前は知っている。返礼品も知っている。でも、いざ自分でやろうとすると急に税金の授業が始まる。RIETIの2025年調査でも、利用者の不満として「自分の寄附金の上限額がわかりにくい」が40.1%で最も多かった。一方、利用者には所得による偏りもある。SOMPOインスティチュート・プラスの推計では、年収1500万円超の層では約6割がふるさと納税を利用しており、1人当たりの利用額は64万円と推計されている。利用者数そのものは年収1100万円以下の層が約9割を占めるものの、所得の高い層ほど利用率も1人当たりの利用額も大きい。つまり、東京から地方へ動く税金は、住民全員が一斉に財布をひっくり返して生まれているわけではない。

制度を理解し、控除上限を計算し、返礼品を選んで利用する人たちの積み重ねが、いつの間にか2255億円という巨大な数字になっている。

菅義偉氏が総務相時代に動かした「ふるさと」

 

そもそも、なぜこんな制度が生まれたのか。ここで名前が出てくるのが、後の総理大臣・菅義偉氏だ。2007年、菅氏が総務大臣を務めていた時期に「ふるさと納税研究会」が設置された。研究会の開催要綱には、地方から都会へ移った人について、地方が負担した教育や福祉などのコストに対する還元や、「ふるさと」に貢献したいという納税者の思いを税制上の形にすることなどが盛り込まれている。地方で育った人が、進学や就職をきっかけに東京などへ移り、都市で働いて税金を納める。一方、その人が育つまでには、地方の学校や道路、医療、福祉などに自治体の財源が使われている。だったら、自分を育ててくれた地域へ、自分の意思で税の一部を戻せる仕組みがあってもいいのではないか。ふるさと納税には、そんな発想があった。だから今回、東京から2255億円流出というニュースを見て、「それって、制度の目的そのものでは?」と感じた人がいたとしても不思議ではない。ただし、ここから制度は思わぬ方向へ成長していく。

「自治体同士の営業合戦」は10年前から見えていた

ふるさと納税が日本独自の制度として面白いのは、税控除だけではない。寄付をすれば、自治体によっては地域の肉や魚、米、果物、酒、工芸品などの返礼品が届く。税制と地方創生と通販サイトが、同じ鍋に入っているような仕組みだ。そして、この返礼品が自治体間競争を加速させた。

OECD(経済協力開発機構)は2016年の「OECD国土・地域政策レビュー:日本」で、ふるさと納税について、当初の「ふるさと」への思いを活用する制度から、自治体が寄付を獲得するための競争へ変化していることを指摘している。自治体が返礼品を用意し、パンフレットなどを使って地域を売り込むようになったことも紹介されている。

つまり、現在SNSで見かける「地方創生というより自治体同士の営業合戦では」という声は、昨日今日生まれた話ではない。10年前には、すでに海外の政策研究者から同じ構図が見えていた。自治体からすれば、寄付金は喉から手が出るほど欲しい。ならば、より魅力的な返礼品を用意する。目立つページを作る。ポータルサイトで露出を増やす。隣の自治体に負けないようにまた工夫する。「ふるさとを応援する」という素朴な理念の横で、自治体の営業マンたちが走り始めた。制度が成長した結果、そんな少し奇妙な光景が生まれたのである。

1兆3314億円市場に国がブレーキ 「ふるさと」はどこへ向かうのか

2025年度のふるさと納税の寄付総額は約1兆3314億円と過去最高を更新した。住民税の控除適用者も約1151万人に達している。もはや知る人ぞ知る制度ではない。その一方で、寄付金を集めるための返礼品や仲介サイトへの手数料などに経費がかかれば、集まった1万円が、そのまま1万円分地域に残るわけではない。

そこで国は制度そのものにも手を入れ始めた。2026年10月から、自治体が寄付を募る際の経費に関する基準が厳しくなり、募集経費の上限は現在の50%以下から47.5%以下へ。その後も段階的に45%、42.5%と引き下げられ、2029年10月からは40%以下となる予定だ。都市部から見れば税収の流出。地方から見れば貴重な財源、納税者から見れば、税控除を受けながら地域の品を選べる制度。返礼品を提供する事業者から見れば、新しい販路。仲介サイトから見れば、巨大な市場。

同じ1兆3314億円でも、立っている場所によって見える景色はまるで違う。

だから「東京2255億円赤字」という数字を見て、ふるさと納税は失敗だ、と結論づけるのも早い。一方で、地方へお金が移っているのだから何の問題もない、と言い切るのもまた乱暴だ。本来は地方を応援するために始まった制度が、いまや自治体同士が知恵を絞って寄付を奪い合う巨大な市場になった。その市場を動かしているのは、国でも自治体でもない。「今年はどこの米にしようか」「この果物、おいしそうだな」と画面をスクロールする、ひとりひとりの納税者だ。東京の2255億円という数字は、その選択の積み重ねが生んだものでもある。だからこそ問われるべきなのは、東京が損をしたのかだけではない。

1兆円を超えるまで膨らんだふるさと納税は、いったい誰のために、どんな形でお金を動かす制度なのか。

「赤字」という一言では、とても収まりきらないところまで来ている。

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ライター:

2人育児8年目ママ。健康を意識した丁寧な暮らしを大切にしています。好きなテレビ番組は『クレイジージャーニー』。日々のリアルな視点から、役立つ情報を発信したいです。

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