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藤井株式会社

https://www.yamatomomen-fujii.com

奈良県橿原市曽我町600番地

0744-22-3381

水の性質を、とことん研究する。奈良の100年繊維メーカー・藤井株式会社が挑む高吸水タオル

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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藤井株式会社・藤井幹晴社長(提供:藤井株式会社、以下同)
藤井株式会社・藤井幹晴社長(提供:藤井株式会社、以下同)

奈良に、創業から100年を超える繊維メーカーがある。藤井株式会社。タオルに始まり、蚊帳の織物、ニットへと、時代に合わせて姿を変えてきた会社だ。安価な海外製品が流れ込み、価格競争に明け暮れる繊維の世界で、この会社が選んだのは、安さで競うことをやめ、機能で尖るという道だった。

その象徴が、一枚の小さなタオルである。フェイスサイズでありながら、バスタオルの代わりが務まり、検査機関の試験では、一般的な綿タオルのおよそ4倍の吸水力という結果が出た。鍵は、水の性質を、とことん突き詰めたことにある。4代目社長の藤井幹晴氏に、その思いを聞いた。

 
藤井株式会社

バスタオルは、いらない

一枚の小さなタオルで、本当に全身を拭けるのか。初めて手にした人は、たいてい、そう訝る。だが、濡れた髪に巻き、体を拭いてみると、その疑いは消えていく。藤井株式会社が開発した「やまと木綿 空ごこち」は、フェイスサイズでありながら、バスタオルの代わりが務まるのだ。

軽くたたくように当てるだけで、水分を吸い取る。吸ったあとも、肌にべたつかない。横に伸びるので、背中にも回しやすく、洗った髪にも巻きやすい。藤井氏が目指したのは、水をたくさん抱え込む力ではなく、濡れた表面から瞬間的に水を取り込む、吸水の速さだった。検査機関の試験では、一般的な綿タオルのおよそ4倍という数値が出ている。

小さくても足りるのには、理屈がある。人が風呂上がりに体から拭き取る水分は、思うほど多くない。その量を素早く処理できれば、一枚の大きさは、さして問題にならない。同氏は、タオルを便利な道具としてよりも、暮らしの時間を左右するものとして捉えている。小さな子どもと風呂に入り、自分の髪を乾かす間もない人。朝、身支度に追われる人。一人一枚で洗濯が済む家庭。そうした日々の負担を、少しでも軽くできないか、というわけだ。

もっとも、タオルは、最もありふれた日用品の一つだ。店の棚には、安く、見栄えのする商品がいくらでも並ぶ。機能の違いは、手に取っただけでは分からない。使ってみて初めて伝わる良さを、どう届けるか。そこに、この小さなタオルの、そして藤井株式会社の、本当の難しさがあった。

発売は、2023年。知る人は、まだ限られている。それでも、一度使った人がくり返し手に取り、販売の数は、少しずつ伸びてきた。タオルは、ありふれた日用品の代名詞だ。その市場で、なぜ勝負できると考えたのか。その答えは、藤井氏が長く向き合ってきた、水の研究にある。

 

水の性質を、とことん研究する

このタオルは、なぜ速く水を吸うのか。そう尋ねると、藤井氏の答えは、拍子抜けするほど素朴だった。水の動き方を、とことん研究したからだ、と。

鍵になるのは、毛細管現象だ。水には、小さな隙間ほど入り込みたがる性質がある。粗いところより、細かいところへと流れていく。同氏は、この水の習性を手がかりに、タオルの構造そのものを組み直していった。

工夫は、大きく三つある。

一つは、綿から油を落とすこと。綿の繊維は、本来は水と親しむ植物性の素材だが、その表面は、油分や蝋質の薄い膜に覆われている。この膜が、水を弾いてしまう。脱脂綿が勢いよく水を吸うのは、その膜を取り除いてあるからだ。同社は、染色の工程で綿の油分を落とし、水がしみ込みやすい状態をつくる。

二つめは、糸に隙間をつくること。ふつうのタオルは、綿の糸をそのまま撚って使う。同社は、綿糸に、綿の何分の一という細いポリエステルの糸を、逆向きに撚り合わせる。すると、糸と糸のあいだに、細かな隙間が生まれる。水が入り込みたがる、あの隙間だ。この細い糸は、毛羽が落ちるのを防ぐ役目も果たす。

三つめは、吸った水を、奥へ逃がすこと。肌に触れるパイルの下、生地の土台となる糸に、綿よりずっと細い長繊維を使う。表面で捉えた水を、より細い隙間のある奥へと、素早く引き込んでいく。水が表面にとどまらないから、拭いたあとも、べたつきにくい。

藤井株式会社・藤井幹晴社長

藤井氏
「水は、油には近づきません。そして、細かい隙間へ、どんどん入っていきたがる。だったら、まず綿の表面で水を弾いている部分を外してやって、植物本来の、水に親しむ良さを生かす。そのうえで、水が入りたくなる隙間を、糸と生地にどう作るか。それを突き詰めていっただけなんです」

言葉にすれば、単純に聞こえる。だが、ここに至るまでには、2年あまりの試行錯誤があった。糸の撚り方を少し変えるだけで、吸い方は変わる。吸水を上げようと油分を落とせば、今度は生地がきしみ、ごわつく。そのごわつきを抑えるために、繊維をできるだけ平行に、細かく整える。幾度も糸を作り直し、検査機関にデータを取りに通った末に、一般的な綿タオルを大きく上回る数値にたどり着いた。この製法は、特許として登録されている。

 

価格では、戦わない

工場で作業を行う藤井幹晴社長

「空ごこち」という一枚のタオルの背後には、藤井氏が長年抱えてきた、業界への問題意識がある。

日本の繊維産業は、細かく分業化されている。糸を作る会社、生地を織る会社、染める会社、縫う会社。工程ごとに別々の企業が担い、そのあいだを商社がつなぐ。藤井株式会社も長く、その分業の一角で、生地を作る役割を引き受けてきた。だが、この仕組みのなかでは、自分たちの生地が最終的に何になるのかも見えにくく、値段すら、自分では決められない。この生地はこの価格で、と相手から示され、では、それでできるか、と問われる。多くの仕事が、そうやって流れていった。

値段でしか競えない世界では、できることは限られる。ひたすら合理化し、身を削って、わずかな差を詰めていく。安価な海外製品が流れ込み、競争はいっそう激しくなった。そうした日々に、藤井氏は、長く違和感を抱いてきた。

藤井氏
「自分たちが世の中に胸を張ってアピールできない商品を作っていると、働いている人も、その周りの人も、だんだん不幸になっていくんです。結局、値段という物差しでしか競えませんから。それではやっていても仕方がない。うちの会社にしかできない強い商材は何か、どこを磨けば強くなれるのか。この何十年、それをずっと突き詰めてきました」

長年のOEM、つまり他社ブランドの製品を請け負う仕事は、高い技術を評価されながらも、最終的に製品を手にする消費者と、直接つながる機会がほとんどなかった。どれだけ優れた生地を作っても、その価値は、価格という一点に押し込められてしまう。

だからこそ、藤井氏は決めた。価格では、戦わない。既存の商品がひしめくレッドオーシャンで安さを競うのではなく、誰も作っていないものを、機能で尖らせる。そうして、自社ブランドという、消費者に価値を直接届ける道へと踏み出していった。「空ごこち」は、その転換を象徴する一枚でもある。

では、なぜ同社は、この難しい転換を選び取ることができたのか。その背景には、100年にわたって積み重ねてきた、技術と、幾度もの挫折があった。

 

100年の会社と、4代目の挑戦

藤井株式会社の歴史は、変わり続けることの歴史でもある。

創業は、大正10年。はじまりは、タオルの製造だった。やがて戦中戦後には蚊帳の織物を手がけ、そこから、資材用の織物や、ニットの生地へと移っていく。時代の求めに応じて、作るものを次々と変えながら、会社は100年を生き抜いてきた。

いまの舵を握るのが、4代目の藤井氏である。家業を継ぐものと決まっていたように育ち、1981年に大学を出て入社した。だが、仕事に馴染んでいく一方で、胸の内には、ずっと晴れないものがあった。

藤井氏
「学生のころから、なんとなく家の仕事をするものだと思って育ってきました。ただ、当時からずっと、どこかモヤモヤしていたんです。自分のところのこの仕事は、本当にこれでいいのだろうか。このまま、同じことが続いていくのだろうか、と」

受けた注文をこなし、決められた値段で納める。その繰り返しのなかで藤井氏がたどり着いたのは、やり方そのものを変えていくしかない、という考えだった。作るものだけでなく、物事の考え方から仕事の進め方まで、変えることを恐れない。

藤井株式会社・藤井幹晴社長

藤井氏
「変えていくことには、やっぱり勇気がいります。でも、みんなが同じ池の中にいたら、同じことしか考えません。タオル屋は、タオル屋の発想からなかなか出られない。サイズはこう、パイルは綿で、と。だったら、違うものを持ち込んでもいいじゃないか、と思うんです」

その姿勢が結実したのが、創業100年という節目だった。長い歴史のなかで培ってきたニットの技術を手に、同社は、原点であるタオルへと立ち返る。ただし、昔ながらのタオルではない。ニットならではの、伸び縮みするタオル。水の性質を突き詰めた、高い吸水のタオル。これまでの経験を注ぎ込んで、「空ごこち」は生まれた。

 

体感が、価値を伝える

良い製品を作れば売れる、というほど、ことは単純ではない。とりわけ、世の中にないものを作ったときは、なおさらだ。見たことのないタオルの良さは、言葉やデータだけでは、なかなか伝わらない。藤井氏が繰り返し口にするのは、使ってもらわないことには分からない、という一点だった。だからこそ、どうやって手に取ってもらうかに、いちばん力を注いでいる。

この難しさは、今に始まったことではない。開発の歴史は、その繰り返しだったと同氏は言う。

藤井氏
「昔、いちばんヒットした商品に、機能を持たせた布団カバーがあります。あたたかいカバーがあれば、毛布はいらないよね、と。毛布を作っている人間がそんなことを考えるのか、とも言われました。それでも、共感してくれる人が現れて、5年くらいは、作ってはやめ、作ってはやめ。それが5年目くらいから、毎年、売り上げが倍々で伸びていったんです。結局、体感してもらわないと、良さは伝わらない。でも、一度使ってもらえれば、お客さんは必ず使い続けてくれる」

「空ごこち」も、同じ道をたどっている。同社は、クラウドファンディングを使って、まず実際に使ってもらう場をつくった。応援購入という形で製品を届け、率直な感想を受け取りながら、改良を重ねていく。広告に大きな資金を投じられるわけではない。ならば、使った人の実感を、一つずつ積み上げていく。

その手応えは、数字にも表れている。発売からの販売数は、スタート時の10倍以上に伸びた。クラウドファンディングの担当者からは、ほかの商品と比べても、リピートして買う人の割合が際立って高い、という評価を受けている。大手の通販でも取り扱いが始まり、使った人からは、良さを認める声が返ってくる。小さく始まった挑戦は、着実に根を張りはじめている。

それでも、藤井氏は歩みを急がない。ありふれた日用品の市場で、「空ごこち」をまだ知らない人のほうが、はるかに多い。裏を返せば、広がる余地は、いくらでも残っているということだ。実用品を世に広めていく仕事は、階段を一段ずつ上るようなものだと同氏は言う。着実に段を重ねながら、どこかで大きく跳ねる、その時を見据えている。使った人の実感が、また次の人へ。その積み重ねの先に、この商品の未来はある。

藤井株式会社工場内の様子
 

水を極めて、その先へ

藤井氏が見据えているのは、タオルの先にある世界だ。こだわっているのは、タオルそのものではなく、水の性質をどう生かすか、という一点にある。その原理を応用すれば、作れるものは、まだいくらでもある。

たとえば、バスマット。風呂上がりに踏んでも、水が表面に残らず、べたつかない。毎日でも洗えて、すぐに乾く。吸った水をいつまでも抱え込み、やがてカビやすくなる珪藻土のマットとは、まるで逆の発想だ。年内の発売を目指して、開発が進んでいる。

もう一つは、タオルマフラー。藤井株式会社のある奈良では、飛鳥や藤原京の一帯が、世界遺産に登録された。交通の便が十分とはいえないこの地を、人々は歩き、自転車で巡る。汗ばむ季節に、さっと汗を吸うマフラーがあれば、心地よく歩ける。同社の生地で作ったマフラーは、その推奨商品として、ホテルや売店に並びはじめている。

暮らしのなかで水を扱う場面は、まだ無数に残っている。介護や医療の現場も、その一つだ。ただ、そこには、洗濯の回転や丈夫さが優先される、業務ならではの事情もある。だからこそ藤井氏は、まず、家庭で身近な人を世話する人たちに、この便利さを届けたいと考えている。

こうした一つひとつの製品の先に、同氏が思い描くのは、日本のものづくりの、もう一つの生き残り方だ。安く大量に作って競うのではない。工程ごとにばらばらになった繊維産業を、入り口から出口まで見通し、自分たちにしかできない価値を、一つの形にまとめ上げる。たとえニッチでも、その価値は、世界にも通用するはずだ。

藤井氏
「これからは、昔のように大量に作って大量に売る、という時代ではないと思うんです。本当に価値のあるものを、きちんと伝えて、その価値を分かってくださる人を、一人ずつ増やしていく。手間はかかりますが、私たちは、少しでも理解してくれる人を探して、アピールし続けないといけない。誰かが、勇気を持って、新しいものを作り続けないといけないんです」

水の性質を、とことん突き詰める。その先に生まれた小さなタオルは、安さではなく、暮らしを少し豊かにする価値で、使う人を一人ずつ増やしている。100年を超えて変わり続けてきた奈良の繊維会社は、いまも、その歩みを止めていない。

藤井株式会社工場内の様子

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ライター:

Sacco編集・ライター。企業に直接出向く取材が中心。扱う記事はサステナビリティ、ウェルビーイング関係が多め。

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