
もみ殻など、これまで捨てられてきた植物に新たな価値を与え、地域の中で人・物・経済が巡る仕組みをつくる。トレ食は、未利用資源からセルロースを抽出し、プラスチックや紙の代替となるバイオマス素材を開発・製造している。農家、メーカー、消費者をつなぐ「こめぐり」の取り組みから、同社が描く「自然のめぐみを、使い切る社会」までを追う。
捨てられるもみ殻を、素材としてもう一度使う
トレ食が向き合っているのは、毎年150万トン以上発生し、その多くが廃棄・焼却されている「もみ殻」などの未利用資源だ。処分には環境負荷だけでなく、コストも伴う。同社は、こうした未利用資源からセルロースを抽出し、プラスチックや紙の代替となるバイオマス素材を開発・製造している。
素材をつくるだけではない。もみ殻の処分に困る農家などから有償で買い取ることで、農家側の処理コストを減らし、新たな収益源につなげる。メーカーには、環境価値とストーリー性を持つ素材を、既存製品と同等の価格・機能で提供する。さらに、その素材が商品として日常に入ることで、消費者が気軽に環境貢献へ参加できる形を目指している。
事業の中で想定されている価値の受け手も一つではない。農家などにとっては、これまで処分していたもみ殻を有償で買い取ってもらうことで、処理コストの削減と新たな収益源につながる。メーカーにとっては、環境価値とストーリー性を備えながら、既存製品と同等の価格・機能を持つ素材という選択肢になる。そして消費者には、その素材を使った商品を選ぶことを通じ、日常の中で環境貢献に参加できるという位置づけだ。
そこで大切にしているのが、「捨てられる植物にもお金になる価値を与えることで、初めて人も物も地域も巡っていく」という考え方だ。環境に配慮した素材であることだけを理由に、価格や機能で妥協するのではない。未利用資源に価値を与えながら、既存の素材と同じように選べるものをつくる。それがトレ食の素材づくりの軸になっている。
原点にあるのは、故郷を失った経験だった
この事業の背景には、代表取締役の沖村智が経験した、市町村合併によって自身の生まれ故郷が姿を消したという原体験がある。「覚悟もないまま故郷を失って初めて、その存在の大きさを知った」。その経験から、地域を元気にするためには、理想を掲げるだけではなく、経済が回る仕組みが必要だと感じたという。
その後、自ら農業を立ち上げた際に目にしたのが、捨てられていく植物だった。そこで「価値を与えられないか」と考えたことが、資源循環による地域活性化への挑戦につながった。
現在の事業も、この発想の延長線上にある。未利用植物を原料として使うことと、その価値を地域の経済へ戻していくことを切り離さない。トレ食の事業内容には、未利用植物、主にもみ殻を使ったセルロース原料の製造・販売に加え、受託研究、地域循環事業が並ぶ。同社はこの3つを事業内容として掲げている。
農家からメーカーまでをつなぐ「こめぐり」
地域循環を具体的な形にする取り組みが、「こめぐり」プロジェクトだ。農家、地元企業、メーカーなど、多様なステークホルダーと連携しながら進めている。2025年には米卸大手や農業協同組合と協定を結び、産地とのネットワークを構築した。
目指しているのは、「米を食べる→残渣を資源化→製品化→地域に還元」という共創モデルである。米を食べた後に残るもみ殻を、処分するものとして終わらせず、素材へと変える。その素材が製品になり、そこから生まれる価値を地域へ還元していく。トレ食は、5年後、10年後には、こうした輪がさらに広がり、日本全国で当たり前になる社会を実現したいと考えている。
このプロジェクトで重視しているのは、構想だけで終わらせないことだ。「実際に多くの人と協力し、汗をかきながら実装していくことに意味がある」という思いのもと、農家や企業などの関係者と連携を進めている。目標としているのは、関係者全員が経済的・環境的メリットを享受できる未来だ。
一つの企業だけで資源を循環させるのではなく、原料が生まれる場所、それを素材に変える工程、製品として使うメーカー、その先にいる消費者までをつないでいく。農家、地元企業、メーカーなどとの連携を通じて、トレ食は「こめぐり」の輪を広げようとしている。

セルロースの先へ、「自然のめぐみを、使い切る社会」
現在、トレ食の事業は、もみ殻からのセルロース抽出が中心だ。しかし、同社が見据えているのは、セルロースだけを取り出して終わる使い方ではない。将来的には、残液に含まれるシリカを稲作資材として農地へ還元することや、次世代エネルギーのバイオエタノール原料化も視野に入れている。
将来構想の中では、もみ殻の利用範囲をさらに広げる方向も示している。セルロースを抽出した後の残液に含まれるシリカを稲作資材として農地へ還元することに加え、バイオエタノールの原料として活用することも検討対象にある。現在の中心事業と、これから視野に入れる用途を重ねながら、もみ殻をより広く使い切る姿を描いている。
その先に掲げるのが、「自然のめぐみを、使い切る社会」だ。誰もが我慢や妥協をすることなく、既存の素材と同じように環境配慮型の素材を利用できる社会インフラを構築することを目標としている。環境への配慮を特別な選択にするのではなく、日常の中で選べるものにしていくという考え方だ。
福島県南相馬市から始まった一気通貫の地域循環モデルについても、同社は世界基準へと育て上げたいとしている。出発点にあるのは、地域を元気にするには経済が回る仕組みが必要だという考えだ。未利用資源を素材に変えることも、地域へ価値を戻すことも、その延長に位置づけられている。
商品を選ぶことから始まる循環
トレ食は、植物を「水と二酸化炭素、太陽があれば毎年生まれる、人類にとって最も大切な資源」と捉えている。そして、その資源を上手に活用し、地球環境と共存できるものづくりを続けていくことを使命としている。
米を食べるだけで終わらせず、残ったもみ殻まで使い切り、次の命へとつなげていく。その循環を社会の中に広げるうえで、同社が読者に伝えているのは、一人ひとりの商品選択も「こめぐり」の起点になるということだ。
捨てられるはずだった植物に価値を与え、素材に変え、製品として日常へ届ける。そして、その価値を地域へ戻していく。トレ食が描く未来は、もみ殻という残渣を使い切るところから始まっている。



