
北中米ワールドカップに臨むサッカー日本代表が6月2日、成田空港から事前合宿地のメキシコ・モンテレイへ出発した。出国セレモニーでひときわ視線を集めたのは、39歳の長友佑都だった。額には「闘魂」と書かれた日の丸ハチマキ。久保建英が思わず反応し、森保一監督も笑顔を見せたその光景は、単なるおどけた演出ではない。重圧が高まるワールドカップ直前の日本代表に、ベテランが何をもたらしているのか。その一端が見えた場面だった。
成田空港に現れた“闘魂ハチマキ”の長友佑都
出発セレモニーが行われた成田空港には、スーツ姿の日本代表選手たちが姿を見せた。大舞台へ向かう直前の空気には、独特の緊張感がある。報道陣のカメラが並び、ファンの視線が注がれるなか、最前列に立った長友佑都の姿だけは、明らかに周囲と違っていた。
黒髪に、日の丸ハチマキ。そこに大きく記された「闘魂」の二文字。隣にいた久保建英がその姿にツッコミを入れ、森保一監督も満面の笑みを浮かべたという。張りつめた出国の場面に、ふっと笑いが生まれた。
この一瞬が象徴的だった。ワールドカップを前に、日本代表には過去にないほど大きな期待が集まっている。目標はベスト16突破ではなく、その先、さらには優勝まで語られる時代になった。だからこそ、チームの空気は重くなりやすい。そんな場面で、長友はあえて自分に視線を集めたようにも見える。
笑わせるだけではない、長友佑都が担う“代表の仕事”
長友のハチマキ姿は、見た目だけを切り取れば明るい話題だ。しかし、その奥にはベテランらしい計算と覚悟がにじむ。39歳で5大会連続のワールドカップ選出。日本代表史に残る経験値を持つ一方で、選出をめぐってはさまざまな声もあった。若手を入れるべきではないか、試合に出る機会はあるのか。そうした疑問は、決して不自然なものではない。
それでも森保一監督は、長友の存在をピッチ上だけで評価しているわけではない。試合に出る選手、途中から流れを変える選手、控えで準備を続ける選手、そしてチームの温度を整える選手。ワールドカップの登録メンバーには、それぞれの役割がある。
長友は、その役割を誰よりも理解しているのだろう。注目を自分に集めることで、久保建英や堂安律、遠藤航ら主力選手に向かう視線を少しでもやわらげる。若い選手が硬くなりすぎないよう、あえて笑いをつくる。チーム全体に「いよいよ戦いに行く」という熱を入れながら、同時に肩の力を抜かせる。これは簡単なようで、誰にでもできることではない。
森保ジャパンに必要なものは、技術だけではない
いまの日本代表は、かつてないほどタレントがそろっている。欧州のクラブで主力を担う選手も増え、個々の技術、戦術理解、国際経験は過去の代表と比べても高い水準にある。だが、ワールドカップで勝ち上がるために必要なのは、技術や戦術だけではない。
大舞台では、予定通りに進むことのほうが少ない。先制点を奪われることもあれば、判定に苦しむ時間帯もある。控え選手が長く出番を待つこともある。そうしたとき、ベンチの空気が沈むのか、前向きな熱を保てるのかで、チームの粘りは変わってくる。
長友は、2010年南アフリカ大会から日本代表のワールドカップを知る数少ない選手だ。2018年ロシア大会では金髪、2022年カタール大会では赤髪でチームを鼓舞し、「ブラボー」の言葉でも注目を集めた。今回の「闘魂ハチマキ」も、単なる思いつきではなく、長友なりの代表への関わり方なのだろう。
酷暑のモンテレイへ、日本代表の本番モードが始まる
日本代表はメキシコ・モンテレイで事前合宿を行い、暑熱対策を含めてコンディションを整えていく。北中米ワールドカップは、移動距離も気候差も大きい大会になる。ピッチ上の相手だけでなく、暑さ、湿度、移動、時差、回復との戦いも避けられない。
出発セレモニーで見えた笑顔は、決して浮ついたものではない。むしろ、これから始まる厳しい日々を前に、チームが一つの空気を共有した瞬間だった。遠藤航が応援メッセージ入りの国旗を受け取り、選手たちは飛行機へ向かった。日本を離れたその先には、世界との真剣勝負が待っている。
長友のハチマキ姿に笑った人もいれば、パフォーマンスに疑問を持った人もいるだろう。ただ、チームスポーツにおいて、緊張を笑いに変えられる選手の存在は大きい。重圧を一人で抱え込まず、チーム全体で受け止める。そのための空気をつくることも、ワールドカップを戦う力の一部になる。
“闘魂”は話題づくりで終わるのか、チームの力になるのか
森保ジャパンが掲げる目標は高い。だからこそ、世間の視線も厳しくなる。勝てば称賛され、負ければ批判される。選手たちはその現実を背負いながら、初戦へ向かっていく。
そのなかで、長友佑都は自分にできる仕事を選んだように見える。ピッチに立つかどうかだけではなく、チームの中で何を残せるか。若手にどんな背中を見せるか。大舞台を知る選手として、空気をどう変えるか。
成田空港で揺れた日の丸ハチマキは、笑いを誘う小道具でありながら、日本代表の覚悟を映すものでもあった。「闘魂」の二文字が本当の意味を持つのは、これからだ。森保ジャパンが苦しい時間帯を迎えたとき、長友佑都の存在がどれだけチームを前へ押し出すのか。その答えは、ワールドカップのピッチで示される。



