人が一週間かけてやっていた測量が、わずか二時間で終わる――。ドローンやICT建機によるDX化が大きな注目を集めている。人手不足や長時間労働といった課題を抱える中、巴山建設ではいち早く最新技術を導入し、現場の効率化と自動化を推進。重機の遠隔操作やICT建機の導入によって、建設業の常識そのものを変えようとしている。前回、遠隔操作技術による現場作業の自動化を紹介したが、今回は同社代表取締役社長巴山一済氏に導入の経緯と今後の展望を伺った。現場叩き上げの三代目社長が語る、建設業界の未来とは――。
建設DXの最前線――ドローンとICT建機が生む圧倒的効率
本日はよろしくお願いいたします。まず御社が力を入れているICT建機、そしてドローンをどういった経緯で導入したのかについてお伺いします。
巴山
その説明をするために、工事を行うにあたって必要な測量の作業にどれだけ時間がかかるか、からお話しなければなりません。測量では専用の機器を用いて、土地の形状、距離、角度、高低差を精密に測定するのですが、全て人が歩き回って計測していかなければなりません。地形によっても変わりますが、1キロメートル四方を測量するのに、二人がかりで一週間かかることもあります。
巴山
この手間と時間のかかる測量作業をどうにかできないかと考えていたのですが、ある時、子供と秋葉原に買い物に出かけた時、当時発売されたばかりのドローンを見つけた。私は新しい物が好きなので珍しくて買ってきて、現場で飛ばしていたのですが、そのうち測量もできるドローンが発売されたので、これも即購入してきました。
衛星からの電波を受信しているドローンによって、空中から現場を測量する。これを使わない手はないなと。ドローンを活用することで人が歩き回って一週間かかっていた測量が、僅か一時間半から二時間ほどでできるようになりました。
巴山
データの解析をするのを含めても半日ほどで終わります。現場は、場所によっては人が歩き回るのに困難な山間部のこともありますが、ドローンなら空中から撮影ができる。そのため人と比べて遥かに短時間でデータを集めることができるのです。
そして得られたデータを用いて3D図面を作成するのですが、これも当時様々なソフトメーカーに訊きに行って自分で作っていました。好きなんです。そういう仕事が(笑)。
そんなある時、4万立方メートルの土砂を移動させなければならない現場がありました。私はせっかくだからドローンを使ってみようと思い、ドローンを持ち込んでデータを取り、3D図面を作成して全体のボリュームを計算してみたんです。そうしたら4万どころか2倍の8万立方メートルと算出された。それをお客様に提示すると非常に驚かれました。それだけ数字が違ったら必要人員も工程も大きく変わってしまいますから。それで、先方が改めて精査をしてみたら確かに8万立方メートルだった。それでドローン技術の正確さに目を向けてもらったのです。
ICT建機についてはどうして導入されたのでしょうか。
巴山
現場でもう一つ大事な作業に丁張というものがあります。丁張とは土木工事の着工前に設置する基準点のことで、こちらも測量が必要になる作業です。丁張にはこれから掘削する角度や深さが示されていて、この丁張をもとに重機が地面を掘り進める。ですから丁張の設置は工事の精度を決める非常に重要な作業なのですが、その分時間がかかります。一か所設置するために一時間ほど。十か所なら十時間です。私が入社した頃はこの丁張の設置を毎日早出残業してやっていました。大変な重労働です。
実際に施工する際には、手元作業員が丁張の付近から重機の運転手(オペレーター)に指示して、この角度であと何センチ掘って、と指示を出します。だからいくらドローンを使って正確な測量を短時間でできるようになっても、丁張の設置は必要だった。
しかし10年ほど前、コマツ建機さんの新しい重機を見に行った際、ICT建機の存在を知った。ICT建機には3Dデータを入力すると、設計面までナビをしてくれる機能(マシンガイダンス機能)と、そこまで掘ったらビタッと止まる機能(マシンコントロール機能)があります。これがあれば、あれだけ時間と労力を費やしていた丁張の設置の手間が一切なくなる。それにビビッと来ました。それで導入を決意したんです。
(この3D画面が重機の運転席に備わっていて、これを見ながら操作できるのがICT建機の特徴)
ドローンやICT建機を利用することで、これまで必要だった作業の時間を大幅に短縮することができるのですね。
巴山
それだけでなく、人間がやることはどうしてもヒューマンエラーが生じます。しかしドローンやICT建機はデータに基づいていて、また何重にもチェックされて算出されているので覆しようがありません。それも大きな利点だと思いますし、実際にお客様からの信頼を得ることもできたのはお話した通りです。
きっかけは私の趣味からでしたが(笑)、ドローンやICT建機を活用することは今後、事業を推進していく上で大きなメリットがあるのは間違いありません。
建設現場自動化の理想と現実
近年、建設業界は人手不足に悩まされています。前回の記事でも、ICT建機と遠隔操作がこの問題を解消する有効な手段になる可能性があることを教えていただきました。
巴山
重機のオペレーターが本当に一人前になるためには十年ほどの時間がかかります。毎日現場で重機を操縦していれば三、四カ月で基礎的な動作はできるようになるでしょうが、正確に掘削し指定された角度・深さに合わせられるようになるまでさらに二、三年。それから今度は様々な現場の状況に合わせられるように経験を積み重ねていって、やっと一人前になる。だから育成には時間がかかるのです。
それがICT建機を活用することで短縮できるようになる、ということですが建設業界での導入は今後進んでいくのでしょうか?
巴山
まだ時間がかかると思います。弊社では私が社長に就任してすぐに技術システム課を新設し、専門的な人材を雇用したりして積極的に進めてきました。しかし業界全体を見渡してみると、それらを取り入れるマニュアルが整っているとはいえない段階なのです。自治体や省庁も業界の人手不足を危惧していて、これら新技術の導入に前向きではあるのですが、それぞれに言い分が異なり煩雑な状況です。もっとスマートに、流れるように進められる体制作り・システム構造ができていけば、もっと業界へ浸透していくと思います。ただまだ時間はかかる。
もう一つの要因に、それぞれの現場によって異なった状況で工事しなければならないことが挙げられます。橋も道路も、一つとして同じものが無い。それに環境も違います。雪が降る地域、起伏が多い地域。施工する季節によっても工事の内容が変わります。雨が多い時期の作業でしたら土砂崩れや洪水への対策をしなければなりませんし、河川の工事だったら台風にも備えなければならない。このように多種多様の状況下で工事をしているので、一律のAIの導入や自動化を、単純に進められないのが現状です。
だからこそ、この部分はドローンに作業をさせてしまおう、ここはICT建機を使ってやってしまおうと使う部分を選んでいく必要があると思います。
建設現場で育った三代目のリアル
巴山社長は三代目の社長になりますが、後を継ぐことを決めたのはどうしてだったのでしょうか。
巴山
いやあ、うちは洗脳教育でした(笑)。長男でしたし、会社で経理をしていた伯母からも跡継ぎだからと言われ続けていましたから。幼稚園でも将来の夢はダンプの運転手になりたいと答えていたそうなので、ずっと心に決めていたのでしょう。小さい頃から重機がそちらこちらに置かれている中が遊び場でした。
大学時代からアルバイトで会社のお仕事を手伝われていたそうですね。
巴山
その頃から重機を操縦していました。だから現場作業がそもそも大好きなんです。
大学卒業後は3年ほど大成建設で修業してから家業である巴山建設に入社しました。そこから現場で施工管理の仕事をしていたのですが、当時2000年前後の時期は建設業界は不況の真っただ中。しかし当時社長だった父はそんな中でも設備投資をして新人の採用を続けていた。父は「自分の会社で全てをできるようにしたい」と考えていたんです。だから攻めの経営をしていた。先ほど話したように重機のオペレーターは育つのに時間がかかりますが、父のその姿勢のおかげで早くから人材を育成することができました。
巴山
しかし当時の現場は人が足りませんから、私が一人で測量して施工管理書類を作って、重機に乗って斜面を削り、生コンクリートの打設までやっていました。
そんなに何でもやっていたものだから、そのうち下請けで現場をやるんじゃなくて、元請けとして巴山建設で仕事を取ってきてしまおうと考えて、父に営業をやりたいと訴えました。それで営業を始めてすぐ、大学時代の知り合いのつてである大手ゼネコンの所長に会うことができたのですが、幸運にも気に入ってもらえて、次の現場を巴山建設に頼みたいと約束をしてもらえた。
ただ父はそれを信じてくれなくて、三か月くらいで営業を辞めてさっさと現場に戻れと言われてしまった。まだ三か月しか営業していない、取れそうな現場もあるしもっと営業をやりたい、と言ったら「お前の名前は巴山だろう。その名前を背負った時点でもう営業なんだ。何年営業をやっているんだ」と言われた(笑)。けれどその後、ゼネコンの所長から連絡がちゃんと来たので、本当に仕事が任されたことを信じてもらえました。
女性が入りたくなる建設業界に――建設業のイメージを覆す自動化と働き方改革
現在御社はICT建機の保有台数が関東で第一位になっています。先ほどドローンやICT建機、そして遠隔操作技術などが業界に浸透するには時間がかかると伺いましたが、建設業界全体の将来についてはどうお考えでしょうか。
巴山
人材不足は深刻な問題ですが、まずは若手の働きやすい環境を整備することが第一だと思っています。そして何より女性にもっと参入してもらわないといけない。外国人もたくさん入ってきてはいますが、やはり施工管理になると住民対応などの仕事もあるので日本人のほうがやりやすい。それに人口の半分は女性ですから、女性の力を活用しない手はない。
建設業界はどうしても男性社会、女性が入りづらい業界というイメージがあります。
巴山
そもそも伝統的に女性を拒絶している業界でもあったんです。しかしそれも近年大きく変容しています。
弊社でも女性が仕事をしやすいように配慮しています。例えば日焼け止めの支給、姿見鏡の設置など。どんどん女性社員の意見を取り入れて改善を進めていきたいですね。
前回の記事にもありましたが、遠隔操作ができるようになれば現場に入ることもなくなり、ヘルメットを被って作業することも無くなる。若い女性でも身だしなみの乱れを気にせず仕事ができるし、例えば子供を幼稚園や保育園に迎えに行かないといけないお母さんでもその時間を気にせず仕事ができるようになると。
巴山
どうしても子供がいたら熱が出たりして急遽休まなければならない時がある。いつかは会社に託児所を用意したいと考えていますが、今後は男女関係なく、子供がいることで仕事をするのに躊躇している人が、それを苦にせず仕事に励めるようにバックアップしていきたいと考えています。
建設業界の長時間労働、きつい環境といったイメージを払拭していきたい、と。
巴山
そのためにもICT建機や遠隔操作技術の導入を含めて、どんどん自動化を進めていきたいですね。一部の作業を自動化した現場ももうすぐ生まれます。いずれは全自動化までしていきたいと考えています。

巴山建設株式会社
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