
鹿児島市の認定こども園で園児2人を負傷させ、殺人未遂と傷害の罪で起訴された元保育士・笹山なつき被告(23)に、鹿児島地裁は2026年7月16日、懲役10年の実刑判決を言い渡した。求刑は懲役12年だった。
小泉満理子裁判長は、2歳男児の首への切りつけについて殺意を認定した。弁護人は判決当日に控訴し、審理は福岡高裁宮崎支部へ移る。法廷では起訴された園児2人のほか、別の園児3人にも手を上げていたことを笹山被告が認めている。
女児を棚に打ちつけた4日後、男児の首を切りつけ
判決や鹿児島市の第三者委員会報告書によると、笹山被告は2024年6月3日、当時1歳の女児の鼻を木製の棚の角に打ちつけ、全治7日のけがを負わせた。女児は鼻を7針縫ったと報じられている。
その4日後の6月7日には、当時2歳の男児の首をカッターナイフで切りつけ、全治1カ月のけがを負わせた。
鹿児島テレビによると、男児の首の傷は長さ8センチ、深さ5.8ミリに及んだ。検察側は、自分になつかない男児にいらだち、背後から近づいてエプロンのポケットからカッターナイフを取り出し、首を切りつけたと主張していた。
笹山被告は犯行後、男児の首を圧迫して止血し、119番通報にも加わった。弁護側は、こうした行動も殺意がなかったことを示す事情だと主張した。
「10回いかないくらい」別の園児3人にも手を上げる
6月30日の被告人質問では、起訴された2人以外にも、自分になつかなかった別の園児3人に手を上げていたことが明らかになった。
笹山被告は回数について「10回いかないくらい」と述べ、軽く押したり、転ぶほど押したりしたことがあったと認めた。男児をカッターナイフで切りつける前日にも、同じ男児の首を爪で傷つけ、出血させていたと証言している。
動機については、仕事のプレッシャーや職場の人間関係に悩んでいたと述べ、「痛い目に遭えば子どもが言うことを聞くと思った」と説明した。被害児の家族には「一生消えないような傷跡を残してしまい申し訳ない」と謝罪していた。
「肩を狙ったが手が震えた」との供述を退ける
弁護側は、肩付近を傷つけようとしたものの、手が震えて首に傷ができたと主張した。使用したカッターナイフが小型だったことや、笹山被告が直後に止血したことも挙げ、殺人未遂罪は成立せず傷害罪にとどまるとして、執行猶予付き判決を求めていた。
小泉裁判長は、傷がもう少し深いか横にずれていれば頸動脈が傷つき、数分で死亡する危険があったと指摘した。笹山被告自身も首を傷つける危険性を認識していたとして、殺意を認定した。
南日本放送によると、判決は「肩を狙った」とする供述について、傷の位置が肩から離れすぎており、傷の深さも一定だったことから信用できないと判断した。
被害児に落ち度はなく、園側に責任を転嫁する発言もあったとして、反省の態度も厳しく評価。懲役12年の求刑に対し、懲役10年の実刑を言い渡した。
同じクラスのけが22件、他クラス平均は約3件
鹿児島市が設置した第三者委員会は2025年3月、事件が発生した園の運営体制を検証した報告書を公表した。
報告書によると、笹山被告が担任を務めた1歳児クラスでは、2024年4月1日から男児切りつけ事件前日の6月6日までに、けがや事故に関する記録が22件あった。他の6クラスの平均は約3件で、同クラスだけ件数が突出していた。
報告書は22件すべてを笹山被告による加害と認定したものではない。ただ、園内の対応はけがが発生したとの情報共有にとどまり、具体的な防止策は取られていなかったと指摘した。
女児が鼻を負傷した際には、職員が傷の向きに疑問を抱きながらも、笹山被告による「走って転び、柱にぶつかった」との説明を受け入れていた。十分な原因分析は行われなかった。
複数の職員は、男児の笹山被告に対する態度にも違和感を抱いていたが、職員会議での共有や不適切な保育を疑う対応には至らなかった。2件の事件を目撃した職員はおらず、園内には確認に使えるカメラも設置されていなかった。
遅刻や早退を管理職も把握、担任から外さず
第三者委員会報告書では、笹山被告が担任となった2024年4月以降、急な欠勤や遅刻、早退が増え、勤務中に担当場所を離れることもあったとされる。
周囲の職員や園長、主幹教諭らは勤務状況の変化を把握していたが、担任から外すなどの対応は取っていなかった。管理職による園内の見回りも、業務上の事情から十分には実施されていなかったという。
採用時には筆記試験と適性検査を省略し、面接だけを実施していた。具体的な採用基準も定められていなかった。また、2024年3月から事件発生まで、職員研修は一度も行われていなかった。
第三者委員会は、けがが発生した当日の原因検証、採用基準の明文化、新規採用職員への定期面談、不適切な保育を報告する手順の整備などを提言した。
判決後、園は南日本放送の取材に「担当者がいないのでコメントできない」と回答した。笹山被告の刑事責任と園の管理体制は別の問題だが、事件前から複数の異変が記録されていたことは鹿児島市の調査で確認されている。
弁護人は一審判決を不服として即日控訴した。懲役10年の判決は確定しておらず、今後は福岡高裁宮崎支部で審理される。



