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「わが企業は社会の公器である」と認識せよ|越智洋(経営技術士の会)

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「わが企業は社会の公器である」と認識せよ|越智洋
「公器性とは、本当に社会に必要な会社か否か。国難の時こそ、その真価が発揮される」。そう語る越智洋さんは、中部電力株式会社代表取締役副社長まで務めた後、株式会社トーエネック 代表取締役社長、株式会社神戸製鋼 社外取締役を歴任。現在は技術経営士の会で活動している。今回は、技術経営士・越智洋さんに、企業の社会的責任や企業の公器性について伺った。

社会に貢献できる仕事に就くことは大変素晴らしいことだ

越智さんは、太平洋戦争の敗戦から間もない1946年1月に岡山県に生まれた。小学校の卒業文集には「電気技師になりたい」と書いた。好きなことをやりたい。それが少年時代の願いだった。

東大に入学した頃は学生運動が盛んであった。学生運動には参加しなかったが、卒業式の前日にいわゆる「東大安田講堂事件」が勃発し、講堂ではなく教室での卒業式となった。

就職先については、電力会社と決めていた。寮の先輩からいろいろな話を聞いているうちに、電力に興味が湧いていたのだ。就職活動後、「私は電力会社に行くことにした」と先輩に報告すると、「日本はエネルギーに乏しい国だ。社会に貢献できる仕事に就くことは大変素晴らしいことだ」と褒められた。誇らしくもあり、同時に自信も付いた。

「電力の原価を守る」責任を全うした中部電力時代

中部電力に在籍したのは1968年から2009年。最も長いキャリアは配電部門である。6,000ボルト以下の電圧で、街中にある電柱からお客さまに電気を送り届ける部門だ。

昭和50年代の終わり頃から、電線の地中化という話題が盛り上がってきた。市町村の首長や課長からは、街並みを美しくしたいという思いから「電線を地中化してほしい」という要望がかなり来ていた。ところが電力会社は、電気料金の認可を受ける際に、国から原価の適正範囲が定められているので、地中化に対しては原価の高騰を招くとして断った。そのような意味で、当時は「電力の原価を守っている」という責任感から、役所とけんかをすることもしばしばあった。

昭和60年に入ると、国が計画的に電線の地中化を推進する法律(無電柱化の推進に関する法律)を制定した。毎年地域を決めて、自治体・電話会社・電力会社が協議をして、地中化計画を進めるルールができた。

この事業を始めてみて分かったことは、地中化の技術の遅れである。当初の5年ほどで、技術開発のための研究を行い、新機材やコストを低減する工法を生み出した。

その後、系統運用部門に2年間在籍した。発電所からどこへ電力を送るかを指令する部門だ。他にも、ワシントン事務所に5年、東京支社に2年と、さまざまな部署を経験し、本店勤務を経て、2001年から取締役となり、経営に参画するようになった。2007年6月に代表取締役 副社長執行役員となり、2009年6月に退任して、中部電力のグループ会社株式会社トーエネックの代表取締役社長兼執行役員に就任した。

改革に手ごたえ、企業の姿勢を正す決断をしたトーエネック時代

株式会社トーエネックは中部電力が株式の50%を保有するグループ会社である。トーエネックには大きく分けて3つの部門がある。中部電力の配電業務を行う部門と、一般のお客さまを対象とした電気工事部門と通信工事部門である。

一般のお客さまを対象とする2部門と、電力会社のみがお客様の配電部門は、ともすると社内でも別会社のごとく、お互いの部署にあまり関心を持っていないように思えた。そこで越智さんは、他部署の仕事内容についてお互いにもっと関心を持とうではないかと提案をもちかけた。

人事交流にも着手した。たすき掛け人事でお互いの理解が深まり、事業の相乗効果を生み出すことができた。社長在任期間の5年間で最も手応えを感じた改革の一つである。

しかし、トーエネックの社長時代は、それ以上につらい思い出があったと、越智さんは当時を振り返る。それは、二つの出来事である。

一つは、いわゆるサービス残業の問題だ。従業員に時間外手当を付けずに仕事をさせることは、昔の日本企業では当たり前のように行われていた。しかし、2000年代に入った頃から、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)への関心の高まりを機に、会社の姿勢を正す決断を下した。過去にさかのぼって、未払い分の給与を従業員に支払い、記者会見で謝罪したのだ。

もう一つは、社員の不正が発覚したことだ。お客さまにキャッシュバックを求める行為は明確な禁止事項であり、社内規則にのっとって当該社員を処分するとともに、やはり記者会見を開き、謝罪した。

記者会見は、経営者として「企業の社会的責任を全うする」ことを社内外に宣言する決意表明でもあった。

社内取締役と社外取締役の付き合い方に悩んでいた神戸製鋼時代

2014年6月には株式会社神戸製鋼の社外取締役に就任した。当時は、上場企業でも大手企業しか社外取締役を置いていなかった時期である。トーエネックにも、その頃には社外取締役はいなかった。

当時は、社内取締役と社外取締役が、付き合い方の難しさに悩んでいた時代だった。もちろん社外取締役は、外部から見た意見を言うことが仕事であるが、意見を言われる内部の人間の気持ちは複雑だ。

越智さんの中部電力在籍時には社外監査役がいたが、やはり「社外の人間にこちらの気持ちは分からないだろう」という思いがあった。今度は自分が神戸製鋼の社外取締役となり、「向こうはそう思っているのではないか」との思いもあり、この様な伝統的な会社において、あらためて、社外取締役に求められるものは何なのかを自問する機会にはなったが、その役割を果たせたかどうかについては、今でも自信がないと語る。

現場での組織風土改革の手ごたえ、経営者として、そして社外取締役として、時代の要請に応え、企業に社会的責任を全うさせる役割を担ってきた越智さんに、当時のステークホルダーに対する認識や、今後の経営者に求められる考え方などについて伺った。

「わが企業は社会の公器である」と認識せよ|越智洋

地域独占企業である電力会社が公平に活動できるのかというジレンマ

──中部電力時代には、ステークホルダーをどのように捉えていたか。

中部電力のステークホルダーには、従業員、株主、お客さま、サプライヤー(関連企業)がいる。

中部電力のサプライヤーは、当時で数百社ほど。トーエネックは、取引額でいえば最大のサプライヤーだった。逆に、トーエネックから見た中部電力は親会社なので、密に連携している会社である。

私が中部電力の経営陣になる前は、株主に対してはほとんど意識がなかった。取締役になってから初めて株主を意識し始めた。そういう意味では、役員になって以降は、従業員、株主、お客さま、サプライヤーを、平等に意識しなければいけないと思うようになった。

──2000年代に入ると、CSRという言葉が広がったが、中部電力としてはどのように取り組んでいたのか。

電力会社として最初に意識し始めたのは、公害の被害だ。私が入社する前だが、四日市公害が問題となり、企業として気を配る必要があることはいろいろと教えられていた。

電力会社が一般の会社と少し違うところは、地域独占企業という点である。独占企業だから競争がない。それはお客さまに安定した電力を供給するために必要だと考えられてきたが、本当に公正な活動ができるのかは、入社してから私自身がジレンマとして感じていたことであった。

これは、ほとんどの電力会社の社員が持っている意識だと思う。電気料金は競争原理が働いていない。役所へ申請して承認された料金体系で運営しているので、公平性とは何か、常に問題意識がある。

例えば、電力の形態によって、停電が多い地域と少ない地域がある。当然、負荷密度が高いところは供給信頼度が高いのだが、意識的にそういう差を付けていいのかということだ。投資を抑えれば信頼度は落ちるのだが、それを電力会社が判断していいのかということである。それは社内の規定にあるわけだが、本当に公平なのかということは常に自分の中で思いながら仕事をしていた。このような悩みは退社するまで続いた。

企業の公器性とは、本当に社会に必要な会社か否か

──トーエネックでは、ステークホルダーをどのように認識していたか。

中部電力と同じで、従業員、株主、お客さま、サプライヤー(関連企業)である。株主は中部電力が過半数だが、一般の株主も5割存在する。

従業員はとても真面目である。結果として良くない出来事もあったが、本人は多分、悪いことをしたという意識はなかったのだろう。全ては会社のためになると思ってやっていたようだ。これがいいことか、悪いことか、非常に難しいことだが、私は少数の利己的行為以外は、社員だけに非があるとは、思っていない。

──当時、公器性をどう考えて実践していたのかについて教えほしい。

社会の公器ということは、本当に社会に必要な会社なのかということに尽きると思う。突き詰めれば、国の緊急事態のときに何ができるかということだろうと思う。

電力会社は、とにかく電気が止まらないようにすることが仕事なので、災害時には「われわれがやらなければいけない」という気持ちは非常に強くあった。これは社員の誰もが持っている気持ちである。

平常時では、「電気料金が高い」、「電力会社の窓口は横柄だ」というようなことがよく言われるので、社員もあまり社会からよく思われていないことを自覚している。しかし災害時は皆さんが感謝してくれるので、「そういうときのためにわれわれは日頃から仕事をしているのだ」という思いがあった。いかなる状況であっても社会を支える役割であることが、公器としての一番の条件ではないかと思う。

 

自由競争の弊害についても議論するべき時代が訪れている

──日本を代表する企業の経営層としての経験から、次代の企業に求められる経営をどう考えているか。また、現在の日本企業の活動をどう見ているかを語ってほしい。

今、自由競争の弊害が少し出始めていると感じる。本当の意味での自由競争と、ある程度のルールに基づいた行動をするということには、折り合いを付ける難しさがある。かなり試行錯誤を繰り返してきたのだと思う。

電力業界で活躍した実業家に、松永安左エ門さんという人物がいる。9電力体制を生み出した松永さんが理想としたことは、過当競争を避けながら競争原理を入れるということだった。

彼が若い頃に、電力は激しい過当競争をしていた。例えば、道路の反対側に違う会社の電柱があり、住宅一軒ごとに、どちらから電気を買ってもらうかという競争をしていた。これでは無駄な投資が多過ぎるのでやめたいと考えたのだが、やめれば地域独占企業になって全く競争がなくなってしまうので、それにも弊害があった。

結局、彼は垂直統合型地域独占企業の形態を選択した。1つの地域の中では1社だけにして、流通設備では無駄な投資を減らす一方、発電を含む全体の原価を国が審査するなかで、他地域の電力会社と、料金競争するという仕組みである。

この体制が、最近、電力小売全面自由化で崩れてきた。今のルールでは、小売部門だけで自由競争をしているが、送配電の部分では全く競争がない。どちらがいいのかということは、議論しなければならないと思う。

また、緊急事態が起こったときに、誰が責任を持って地域に電気を送るのかということが、現在は曖昧になっている。誰も責任がない。自由競争だから、お金がない人は買うなということになりかねない。それでいいのかどうかということも含めて、電力のみならず他の部門でも、そういうことをよく考えて自由競争のルールを決めるべきだろうと思う。

合理的事実に基づき判断できる人財に期待する

──グローバルな時代となり、コロナ禍にもなって、社会全体が大きく変容している。多くの日本国民が次の時代を悲観的に見ている。日本の高度成長期を担ってきた世代としては、何に期待するか。

私が一番期待しているのは、デジタル庁だ。日本社会はデジタル化が遅れているので、データを取るにしても、何をするにしても、手間ばかり掛かって、有効活用できていない。デジタルで全て解決するかどうか分からないが、一つのかなり大きな要素だと思う。より効率的な社会になることを期待している。

──これからの企業経営者に求められる考え方は何か。

難しい問題だ。時々話題になるのが、創業者の会社と、雇われ経営者の会社との違いだ。雇われ経営者の会社は、ポリティカル・コレクトネスということを気にして、あまり文句を言われないように運営していく代わりに、思い切ったことはしない。創業者の会社は、その人の考えに基づいて思い切ったことをしている。今後は、どちらを目指したらいいのかということが、経営者に突き付けられると思う。

私のようなサラリーマン経営者だと、どうしても無難なほうへ流れてしまう。人から後ろ指をさされない経営を志向しがちだが、これからの日本社会はそれでいいのか。どちらがいいかは分からないが、今そういう問題があることだけは事実である。それを認識しなければならないと思う。

──その上で、企業が社会の公器を目指すには、経営者として何をするべきか。

結局、「わが企業は公器である」という認識を持つかどうかである。公器であるという認識を持つためには、教養が求められる。その教養とは、要は人生哲学である。これこそが私の正義であるというようなことだ。私の場合は、高尚な哲学書を読んだことはないが、日本人が持っている武士道がそれに該当すると考えている。そういった意味での教養を身に付けた人が、経営者になるべきだろう。

──技術経営士の会の会員として、今後どのような取り組みをしていきたいか。

若い人とたくさん話をしたいと思っているのだが、なかなかそういうチャンスがない。たまたま昨年、大学で講演する機会をいただいたが、Zoomの講義だったので、何となく私の思いが伝わっていないという気がした。

若い人たちには、いろいろなことを幅広く勉強してほしい。そして、うわさや情緒的なことに流されるのではく、大事なことは合理的事実に基づいて判断する人間になってほしい。そういう人間が企業や会社をリードするようになれば、日本の未来に希望が持てると考えている。

「わが企業は社会の公器である」と認識せよ|越智洋

越智洋プロフィール

越智 洋(おち・ひろし)

1946年1月 岡山県に生まれる

1968年3月 東京大学工学部電気工学科卒

1968年4月 中部電力株式会社 入社

2001年6月 同社 取締役

2003年6月 同社 常務取締役

2005年6月 同社 代表取締役副社長

2007年6月 同社 代表取締役 副社長執行役員

2009年6月 株式会社トーエネック 代表取締役社長兼執行役員

2011年6月 株式会社トーエネック 代表取締役社長 社長執行役員

2014年6月 株式会社神戸製鋼 社外取締役

2017年6月 同社 社外取締役退任

 

中部電力株式会社

https://www.chuden.co.jp/

愛知県名古屋市東区東新町1番地

資本金:4,307億円

従業員:3,092名

(2021年3月現在)

 

株式会社トーエネック

https://www.toenec.co.jp/

愛知県名古屋市中区栄一丁目20番31号

資本金:76億8,000万円

従業員:4,780名

(2021年3月現在)

 

株式会社神戸製鋼

https://www.kobelco.co.jp/

資本金:2,509億円

従業員:4万517名

(2021年3月現在)

 

技術経営士の会

http://stamp-net.org/

東京都千代田区飯田橋三丁目3番13号

個人会員:134名

賛助会員:1社

(2021年1月現在)

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WRITER
サイエンスジャーナリスト
小林 浩
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1964年生まれ、群馬県出身。国立群馬高専卒。専攻は水理学と水文学。卒業後、日刊紙『東京タイムズ』をはじめ、各種新聞・雑誌の記者・編集者を務める。その後、映像クリエーターを経て、マルチメディア・コンテンツ制作会社の社長を6年務める。現在は独立し、執筆と映像制作に専念している。執筆は理系の読み物が多い。 研究論文に『景観設計の解析手法』、『遊水モデルによる流出解析手法』、著書に科学哲学啓蒙書『科学盲信警報発令中!』(日本橋出版)、SFコメディー法廷小説『科学の黒幕』(新風舎文庫、筆名・大森浩太郎)などがある。

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