
文化財の維持で出る古畳や落葉を資源として循環させ、再び文化財へと還す。福岡県柳川市の一般社団法人SAMURAI REBIRTHが手がける「畳REBIRTH」が、2026年度グッドデザイン賞を受賞した。
守る対象だった文化財を、地域の人が関わる存在へと変えようとする試みである。
古畳が、新しい畳に生まれ変わるまで
舞台となるのは、柳川藩主立花邸「御花」である。約7000坪の敷地は、国指定の名勝「立花氏庭園」にあたる。畳REBIRTHは、この文化財の維持管理で出る古畳や庭園の落葉を捨てずに生かす。
歴史ある建物や庭園は、見て楽しむだけの場所ではない。畳や庭木は傷み、朽ち、定期的に手を入れなければ景観も保てない。手入れのたびに古い素材が廃材として出る。畳REBIRTHは、その廃材こそ循環の起点になると捉え直した。
循環はいくつかの段階を踏む。まず古畳や落葉を、もみ殻や米ぬか、鶏糞、赤土などと混ぜて堆肥にする。その堆肥を使い、熊本県八代市のエコファーマーがい草を育てる。収穫したい草から新しい畳をつくり、再び文化財に敷く。文化財から出た素材が、めぐってまた文化財へ帰っていく。
2023年10月から2026年1月までに、古畳30枚と落葉1400リットルを廃材として活用し、およそ800リットルの堆肥を生んだ。い草の栽培面積は約900平方メートルに及ぶ。こうして再生した畳80枚が、2026年1月に御花の100畳の大広間へ敷かれた。
誰が文化財を守るのか
畳REBIRTHの出発点には、文化財は誰が守るのかという問いがある。民間が所有する文化財では、日々の維持にかかる費用の負担や、担い手の不足が重い課題となってきた。公的な支援だけでは支えきれない部分も多い。
文化財を守る担い手は、かつて所有者や専門の職人に限られていた。だが維持の費用も人手も細るなか、守り手を広げなければ残せない時代になっている。関わる人を増やすことは、文化財を未来へつなぐための現実的な道でもある。
同法人が描くのは、地域の生産者や企業、一般の人々が循環の輪に加わる仕組みだ。文化財を遠くから眺めて守る対象とするのではなく、手を動かして関わる存在へと変える。審査委員からも、資源循環の仕組みに加え、文化財と地域社会の新しい関係を生んだ点が評価された。
畳のオーナーが支える仕組み
関わり方の一つが、畳オーナー制度「Joshu」である。文化財に敷く畳のオーナーになることで、保全と継承を資金の面から支える。オーナーには、裏面にシリアルナンバーを刻んだ名入りの畳や認定書、2030年末まで有効な入館無料パスなどが用意される。
2023年10月からの期間に、Joshuの申し込みは80名に達した。畳という目に見える形で文化財とつながることが、継続して支える動機になっている。寄付のように一度きりで終わらず、自分の畳がそこに在り続けるという実感が、関わりを長く保つ。
循環に加わるのはオーナーだけではない。熊本のい草農家や地域の事業者も、堆肥やい草の供給を通じて輪に連なる。離れた土地の人々が一枚の畳でつながり、それぞれの役割を担う。文化財を支える手が、所有者の外へと静かに広がっている。
寺社や他地域へ、循環を広げる
同法人は今後、寺社仏閣や他の地域への展開を見据える。再生した畳の活用を広げ、教育や体験のプログラムも充実させる考えだ。調査研究や社会への提言にも、活動の幅を広げるとしている。古い建物や庭園を抱える地域は全国にあり、同じ悩みを共有する場所は少なくない。柳川で積み重ねた仕組みは、各地の文化財を支える手がかりになりうる。受賞した取り組みは、10月31日から11月4日まで東京ミッドタウンで開かれるグッドデザイン賞の受賞展でも紹介される。
文化財は、過去から受け継いだものを未来へ渡すために、誰かが手をかけ続けなければ残らない。古畳が土に還り、い草となってまた畳になる。その小さな循環に多くの人が関わることで、文化財は守る対象から育てる対象へと姿を変えていく。柳川の庭園から始まった試みが、文化財との向き合い方そのものを問い直している。



