
ばん馬が育てた小麦が、パンになって食卓に届く。北海道帯広市のパンメーカー、満寿屋商店が、十勝ならではの地域資源の循環から生まれた新しいパンとお菓子のセットを9日に発売した。
ばん馬と小麦、きのこがつながる「環」から生まれた味を、パンを通じて全国へ届ける。
「ばん馬・きのこ・小麦の環」
同社によると、この取り組みは2015年から続く「ばん馬toきのこto小麦の環」と呼ばれる地域資源の循環だ。まず、ばん馬の馬ふんでつくった堆肥で、マッシュルーム「とかちマッシュ」を栽培する。使い終えた培地は肥料として再利用し、小麦を育てる。そして、収穫後の麦わらを、再びばん馬の飼料へと戻す。馬、きのこ、小麦が互いを支え合い、資源が地域の中をぐるりと巡る。捨てるものを出さずに、一つの循環として回している点に特徴がある。
馬の力で農地を耕し、暮らしを支えてきた歴史が、十勝には根づいている。ばんえい競馬で知られるばん馬は、その象徴的な存在だ。役目を終えた資源を捨てずに次へ回すこの循環は、そうした馬と人がともに生きてきた土地の風土から生まれた。一つの資源を無駄なく使い切る発想が、地域全体の取り組みとして10年にわたり続いてきた。
日本一広いベーカリー内の新拠点
この循環を体感できる場も生まれた。同社によると、2026年4月には「麦音ホースパーク~馬と小麦の丘~」がオープンした。約3ヘクタールという日本一の敷地面積を誇るベーカリー「麦音」の中に位置する。訪れた人からは「訪れるだけで心が穏やかになる」といった声が寄せられているという。今回の新セットは、そのオープンから4か月を記念して売り出されたものだ。十勝の文化やばん馬の存在、そして食の魅力を、あわせて発信する狙いがある。
パンを買い、食べるだけでなく、その小麦が育つ現場や、循環を支える馬の姿を間近に見られる。生産の場と食べる場が地続きにあることは、食への理解や愛着を深めることにもつながる。広大な敷地は、家族連れがゆったりと過ごせる憩いの場にもなっている。実際に馬に触れ、パンを味わう体験は、循環の物語を言葉以上に伝える力を持つ。
循環から生まれた三つの味
発売されたのは「ばん馬から生まれる十勝のパンとお菓子のセット」で、3種類が詰め合わされている。「うまっしゅパン」は、とかちマッシュの旨みペーストを練り込み、外は「むぎゅっ」、中は「もっちり」とした食感が特徴だ。「黒豆塩バターパン」は、堆肥で育った黒豆をたっぷり使い、バターのコクを利かせた。「ケークトカチ」は、小麦粉「ばんえいキタノカオリ」と北海道産のバター・卵を使ったパウンドケーキ。いずれも、循環の中で育った素材が主役となっている。
循環の中で育った素材は、味の面でも個性を持つ。とかちマッシュの旨みや、堆肥で育った黒豆の風味は、その土地でしか出せないものだ。物語だけでなく、味そのもので魅力を伝えられることが、全国への発信を支える力になる。
十勝の「環」を、パンから全国へ
満寿屋商店は、1953年創業のパンメーカーで、地元・十勝の小麦にこだわったパンづくりを続けてきた。ばん馬をめぐる資源循環は、その土地に根ざしたものづくりの延長線上にある取り組みといえる。
セットは同社のオンラインショップで販売し、1回の注文につき1セットまでとしている。数量を絞ることで、一つひとつを丁寧に届ける形をとった。現地を訪れなくても、十勝の循環から生まれた味を全国どこからでも取り寄せられる。
地方には、その土地ならではの資源や物語が眠っている。それを商品として磨き、外へ届けることは、地域の魅力を伝え、経済を潤すことにもつながる。ばん馬をめぐる十勝の循環は、その一つの形を示している。 食べることを通じて、遠く離れた人にも十勝の循環が伝わる。かつて農耕を支えたばん馬の存在を軸にした食の物語が、パンに乗ってどこまで広がるのかが注目される。



