
学校給食センターには、給食をつくらない日が年に約160日ある。夏休みや冬休み、土日を合わせれば、一年の半分近くだ。その間、大量調理の設備は静かに眠っている。全国で学校給食を手がける株式会社東洋食品は、この眠っている時間に目をつけた。
給食センターを、学校給食を提供する施設にとどめず、地域全体を支える「食のインフラ」として生かせないか。給食のプロが、そんな提案を投げかけている。
半世紀、学校給食を支えてきた会社の問いかけ
株式会社東洋食品は、東京都千代田区に本社を置く、学校給食を専門とする会社である。1966年の創業以来、半世紀にわたって全国の小中学校などに給食を提供してきた。調理業務の受託や、民間の資金とノウハウを活用するPFIなどの手法を通じて、いま全国で564か所の施設の給食を手がけている。学校給食の分野では、国内有数の規模を持つ会社だ。同社 専務取締役 荻久保瑞穂は、いま一つの提案を投げかけている。学校給食センターを、学校給食を提供する施設としてだけでなく、地域全体を支える「食のインフラ」として活用できないか、というものだ。
学校給食センターは、多くの人にとって、子どもたちの給食をつくる場所という以上のイメージを持ちにくい。だが東洋食品は、そこに別の可能性を見ている。長年、給食の現場に立ち会ってきたからこそ見えてきた、施設の新しい役割の話である。
年間160日、眠る設備という「もったいなさ」
東洋食品が着目するのは、学校給食センターが本来持っている機能の高さである。給食センターは、一度に大量の食事を安全に調理する設備を備え、それを各所へ届ける配送の仕組みも持っている。加えて、非常時にも稼働できる防災機能を備えた施設も少なくない。いわば、地域の重要な社会インフラだ。
ところが、この設備には空いている時間がある。学校給食は、子どもたちが通う日に合わせて提供される。裏を返せば、夏休みや冬休み、春休み、そして土日を合わせると、年間で約160日はつくらない日があるということだ。さらに近年は、少子化によって提供する食数そのものが減り、調理能力に余力が生まれている施設も増えている。高い能力を持つ設備が、一年のうちかなりの日数、使われないまま眠っている。
この「もったいなさ」を、地域のために生かせないか。それが東洋食品の提案の核心である。同社は、非稼働日や余剰の能力を活用することで、給食センターがさまざまな役割を担えると見ている。たとえば、子ども食堂への食事の提供。夏休みの学童保育や、保育施設への給食の提供。あるいは、災害が起きたときの炊き出しの拠点。学校給食を支えてきた設備が、食育や子育て、福祉、防災を支える地域の拠点へと広がっていく。そんな可能性である。
給食センターを、給食のためだけの施設で終わらせない。眠っている時間と余力に、地域を支える役割を重ねていく。それが、この構想の描く絵だ。
「給食がない日」の子どもたちという背景
この提案の背景には、子どもの食をめぐる社会の課題がある。
日本では、子どものおよそ9人に1人が相対的な貧困の状態にあるとされる。そうしたなかで、子ども食堂や学童保育など、地域で子どもの食を支える取り組みの重要性が高まっている。学校給食は、子どもたちにとって、栄養をしっかりと摂れる大切な機会だ。だからこそ、給食があるかないかで、子どもの栄養の状態に差が生じることも指摘されている。
とりわけ課題として浮かぶのが、給食のない期間である。夏休みのような長い休みに入ると、学校給食は止まる。その間、子どもたちの食や栄養をどう支えるかは、簡単な問いではない。家庭の事情はさまざまで、学校給食の有無によって、子どもの栄養摂取状況に差が生じることも指摘されている。給食がない日の子どもの食は、社会全体で考えるべきテーマになりつつある。
ここで、二つの事柄が結びつく。一方に、給食のない期間に食の支えを必要とする子どもたちがいる。もう一方に、その同じ期間、使われずに眠っている給食センターの設備がある。片方の余力を、もう片方の必要に振り向けられないか。東洋食品の提案は、この二つを重ね合わせるところに立っている。給食センターの空いた時間は、ちょうど子どもたちに給食が届かない時間でもあるからだ。
縦割りの壁と、これから
もっとも、この構想はすぐに実現できるものではなく、現時点では実現事例もまだ限られている。
実現に向けた壁の一つが、制度の縦割りだ。学校給食を所管するのは文部科学省、学童保育はこども家庭庁、福祉は厚生労働省と、分野によって担当する省庁が異なる。給食センターの設備を、学校給食以外の子ども食堂や学童保育、福祉の場に使おうとすると、この複数の制度をまたぐことになる。地域住民や自治体からのニーズは高い一方で、柔軟な運用が難しく、実現の例がなかなか増えないのは、こうした事情が大きい。給食センターの機能を地域全体で生かせる仕組みをつくるには、国や自治体、関係する機関が連携し、制度の面まで踏み込んだ検討を進めていく必要がある。 同社の専務取締役である荻久保瑞穂氏は、この提案の思いを次のように語っている。

給食センターには、大量の食事を安全に調理し届けるための設備が整っているが、年間約160日は稼働していない期間がある。その設備を、稼働のない時期にももっと地域のために生かせないか。たとえば子ども食堂や夏休みの学童保育などへの食事提供につなげられれば、地域のニーズに応えながら、子どもたちの食を支える力になれるのではないか。同社は、そう考えているという。
東洋食品は、この提案を一つの出発点と位置づけている。給食センターの新しい活用のかたちを、自治体や地域の人々とともに考えていきたい、というのが同社の立場だ。長年、子どもたちの食を支えてきた会社からの問いかけは、社会インフラをどう生かし切るかという、より大きな問いにもつながっている。



