
新規開拓を進めたい。しかし、一社ずつ相手を調べ、文面を用意し、追いかけるタイミングまで整える時間はない。Cynthiaが開発・提供する「Nudge HQ」は、そんな営業準備をAIが引き受けながら、送信の最終判断は人に残すBtoB向け営業支援AIだ。代表・原和真氏自身の新規開拓でのつまずきから生まれたサービスの背景と、Cynthiaが大切にする「人に向き合う」考え方を追う。
新規開拓を進めたい。でも、一社ずつ向き合う時間がない
新規開拓をしたいのに、営業に人を割く余裕がない。相手の会社を一社ずつ調べ、その会社に宛てた文面を用意し、さらに追いかけるべきタイミングまで整えるとなれば、準備には時間がかかる。Cynthiaが開発・提供するBtoB向け営業支援AI「Nudge HQ」は、その準備をAIが引き受けるサービスだ。
ただし、Nudge HQは営業活動をすべてAIに任せるための仕組みではない。AIが担うのは、企業を調べ、文面を用意し、追いかけるタイミングを整えるところまで。実際に送るかどうかの最後の判断は、必ず人が持つ。Cynthiaが目指しているのは、営業を効率化する道具を届けることではなく、人手が足りなくても丁寧な新規開拓を諦めずにすむ環境をつくることだ。
その背景には、「良い商品やサービスを持ちながら、そもそも見てもらえないまま埋もれてしまう会社があまりに多い」という問題意識がある。届けたいものがあっても、届けるための準備に時間を割けない。Nudge HQは、その間にある負担をAIに担わせながら、人が相手に向き合うための判断は残す。ひとりでも、相手に行き届いた営業ができる状態を当たり前にしたいという考えが、サービスの中心に置かれている。
原和真氏自身が経験した「丁寧にやりたいのに時間がない」
Nudge HQが生まれたきっかけは、代表の原和真氏自身の新規開拓でのつまずきだった。原氏はこれまで人材業界で、採用支援を含め、チームとして5,000名を超える人と面談してきた。その後に独立し、自社の新規開拓に取り組む中で、届けたい相手がいても、その相手に向けて一社ずつ準備する時間を捻出できない状況に直面した。
一社ずつ書けば伝わる実感はある。しかし、事業を回しながら続けるには時間が足りない。インタビューシートでは、この状態を「丁寧にやりたいのに時間がない」と表現している。新規開拓を進めたい気持ちと、相手ごとに向き合いたい気持ち。その双方を持ちながら、時間の制約によって身動きが取れなくなる状況だった。
数を打って一斉に送れば、作業そのものは楽になる。しかしCynthiaにとって、それは「人に向き合うこと」とは正反対だった。そこで出てきたのが、「ならば自分たちのために作ろう」という発想である。そうしてNudge HQが生まれた。
自分たち自身が新規開拓で同じ問題に直面したことが、その出発点にある。良い商品やサービスを持っていても、見てもらうところまでたどり着けない。相手に合わせて丁寧に届けようとすると、今度は時間が足りない。その経験が、Nudge HQのはじまりとなった。
一斉送信をあえてできなくした、Nudge HQの設計
Nudge HQには、Cynthiaが考える営業のあり方が具体的な仕組みとして表れている。その一つが、誰にでも同じ文面を一斉に送りつけることを、あえてできない設計だ。相手の会社を一社ずつ調べ、その会社に宛てた文面を準備する。効率のために同じ内容を広く送るのではなく、相手ごとの準備を前提にしている。
もう一つは、AIが準備しても、送信の最終判断までは行わないことだ。送るかどうかを決めるのは人である。さらに、一度断った相手には二度と送らない。AIを使いながらも、相手とのやり取りの中で人が判断する部分を残している。
数字の測り方にもルールがある。効果を測る際に積み上げるのは、確実に届いたものだけ。届かなかった分は成果として数えない。実際に届いたものだけを基準に、効果を測っている。
こうした設計の先にCynthiaが置いているのが、「人手が足りなくても丁寧な新規開拓を諦めずにすむ環境」である。Nudge HQが引き受けるのは、会社を調べ、文面を用意し、追いかけるタイミングを整える準備だ。そのうえで、相手に送るかどうかは人が決める。Cynthiaは、AIに任せる部分と人が持つ判断を分けながら、ひとりでも相手に行き届いた営業ができる状態を目指している。
二人で残った会社が大切にする「この人だから残る」という信頼
現在のCynthiaは、役員を含めて従業員数2名の会社である。その二人に至るまでには、会社を立ち上げた当初の出来事がある。ある出来事をきっかけに、支えるはずだった近しい人たちが一人、また一人と離れていった時期があった。
残ったのは、一番出会いが浅かった人と、その次に浅かったもう一人だけだった。身近な人間が離れ、原氏自身も苦しい状況にあった。それでも原氏は、渡す義務のないものを感謝の形として渡し続けたという。その姿を間近で見たもう一人は、「この人と一緒にやっていく」と心を決めた。
その後、残った二人で仕事の理念を語り合ったとき、「初めて誰かとまるごと同じだと思えた」という瞬間があった。インタビューシートでは、この出来事を派手な成功譚としては捉えていない。むしろ、「この人だから残る」と思える会社であることを、自分たちが最も誇りに思う信頼のかたちとして挙げている。
Cynthiaは自らを「横浜の小さな二人の会社」と表現している。そして、創業の物語についても「決して綺麗なだけ」ではないと記す。一方で、「人を大切にしたいという一点だけは、ずっと変わっていません」としている。会社の規模や創業時の経緯を飾るのではなく、二人が残った出来事そのものを、自分たちが大切にする信頼の話として伝えている。
「良いものが、ちゃんと相手に届く」景色へ
Cynthiaが長期的に描いているのは、「良いものが、ちゃんと相手に届く」状態だ。人手や資金の多い会社だけが新規開拓で優位に立つのではなく、たとえ一人であっても、相手に行き届いた誠実な営業ができる。サービスを知ってもらえるきっかけになる。そんな環境を広げたいと考えている。
その先には、規模ではなく中身で選ばれる会社が増えていく景色を描く。5年後、10年後、Nudge HQが「営業を人の手に取り戻した道具」として、新規開拓に悩む多くの企業の隣にある。そして、丁寧に人と向き合う営業が、非効率な理想ではなく、現実的な選択肢になっている。Cynthiaが目指しているのは、そうした状態である。
読者へのメッセージでも、その姿勢は具体的に示されている。良いものを持っているのに届けきれずにいる人、あるいは数を追う営業にどこか違和感を抱いている人に対して、Cynthiaは「同じ景色を見ている仲間」だと伝えている。
効率のためではなく、目の前の相手にきちんと向き合うために。Nudge HQは、営業準備をAIが引き受けながら、最後の判断を人に残す。自分たち自身が「丁寧にやりたいのに時間がない」という状況から始まり、いま目指すのは、丁寧に人と向き合う営業を現実的な選択肢にすることだ。Cynthiaは、その営業のあり方を一緒に当たり前にしていきたいとしている。




