
100年企業を見据える株式会社ダイヤが、パンの耳をアップサイクルしたクラフトビール「おかんエール」を投入する。フードロス削減という社会課題を義務感ではなく、関西独自の温もりとユーモアという付加価値へ昇華させた同社の取り組みは、サステナビリティ経営の新たな可能性を提示している。
パンの耳を価値へ変える老舗ベーカリーの挑戦
毎日、香ばしいパンが焼き上がる厨房で、どうしても残ってしまうパンの耳。どれだけ大切に作っても生まれてしまうこの素材を、ただ捨てるのではなく、もう一度誰かを笑顔にする主役にできないか。
大阪で創業80周年を迎える株式会社ダイヤは、運営する人気ベーカリー「クックハウス」のサンドイッチ作りで出るパンの耳を活用し、クラフトビール「おかんエール」を作り上げた。2026年8月5日より、初仕込みの600本限定で店頭に並ぶ。捨てられるはずだった端切れが、大人の喉を潤す一杯へと姿を変える。
感情価値を融合させる独自のアップサイクル戦略

世の中に溢れる環境配慮の商品には、どこか「正しくあろう」とする固さが漂いがちだ。しかし、ダイヤのやり方はまったく違う。環境への優しさに、思わずクスッと笑ってしまうような人の温もりを重ね合わせた。
そのカギとなったのが、発売2年で2億円を売り上げたヒット作「おかんパン」の存在だ。缶のパッケージには、あたたかい関西弁のメッセージが躍る。
「そのままのあんたで、もう充分 花マルや」 「一回くらいコケても大丈夫や。私なんか何回コケたかわからへん」
ビールの種類である「エール(Ale)」と、背中を押してくれる応援の「エール(Yell)」。このふたつを重ね合わせたビールは、ただの環境配慮商品ではない。仕事終わりに自分を労う一杯にも、大切な人へのクスッと笑える贈り物にもなる。我慢や義務感ではなく「面白くて温かいから買う」という自然な循環が、ここにはある。
創業80周年の老舗に宿る「人を想う」経営哲学
このユニークなアイデアの根底には、同社が80年間変わらずに守ってきた、泥臭くも温かい人間味が存在する。代表取締役社長の多田俊介氏は、開発への思いをこう振り返る。
「毎日心を込めて焼いたパンですから、最後のひとくちまでお客様に喜んでもらえる形にしたかったんです。ただゴミを減らすだけじゃなくて、手にした人が思わず笑顔になるような、そんな温かい循環を作りたくて」
丹精込めたパンを愛する職人の意地と、日常にちょっとした癒やしを届けたいという大阪らしい優しさ。そのふたつが組み合わさったからこそ、このビールは生まれた。
義務感を超えたサステナビリティの示唆
ダイヤが魅せた工夫は、これからのサステナブルなものづくりに大切なことを教えてくれる。正論やルールだけで人の心を引き続けるのは難しい。けれど、そこに企業ならではのユーモアや人間味が加われば、環境に良い取り組みは一気に愛される文化へと変わっていく。
無理なく、楽しく、そして温かい。街のパン屋が醸造した一杯のビールは、これからの企業と社会の心地よい関係を静かに物語っている。



