
現代人が抱えるネガティブな感情を和三盆を通じて可視化し地域資源へ転換する試みが始まった。静岡県富士市のSIDEWAYが展開する事業は、個人の内省を地域の環境循環と経済活性化へ結びつける。
個人の本音を地域資源へ転換する新事業
富士山の山開きを迎えた2026年7月1日、静岡県富士市で一風変わった地域循環型プロジェクトが本格的なスタートを切った。和三盆ブランドを展開するSIDEWAYが主導するこの試みは、誰しもが胸の奥に抱く不安や嫉妬、怒りといった「腹黒い本音」を紙に書き出し、最終的にトイレットペーパーへと再生するものだ。おやつの時間に甘い菓子を味わいながら心を緩め、自分自身と向き合う。
そして書き終えた内観シートは、日本で初めてロール式トイレットペーパーを製造した地元の新橋製紙の地球窯へと運ばれ、日常を支える日用品へと姿を変える。書いて、食べて、最後は水に流す。この一連の体験は、単なる環境配慮の枠組みを超え、人間の心理的な解放をプロセスそのものへと組み込んだ極めて先進的なデザインである。
感情の廃棄を価値に変える独自のアプローチ

多くの企業が取り組むサステナビリティ活動が、プラスチックや食品ロスといった「物質的な廃棄物」の削減に終始するなか、同社の試みは「人間の負の感情」という目に見えない資源に着目している点で他と一線を画している。利用者は富士市内の観光スポットや店舗に設置された回収箱にシートを投函するか、スマートフォンからデジタルで本音を送信するだけでこの循環の環に加わることができる。
伝統的な和三盆の製造販売に留まらず、地域の基幹産業である製紙業と手を組み、現代人のストレスケアという社会的ニーズを満たす商品へと昇華させた。感情という、本来であれば社会の中で隠され、 捨て去られるはずのものを地域経済の新たな原動力へと変える手法は、これまでにない独自性を放っている。
負の感情を否定せず巡らせるという哲学
この奇妙で温かみのある事業の背景には、ネガティブな感情を悪とせず、むしろ人間の健やかさの契機として捉える深い哲学が存在している。同社代表の北島順子氏(SIDEWAY)は、生きる上で生じる嫉妬や後悔を無理に消し去る必要はないと語る。
大切なのは、それらの感情を一度認めて外へと出すこと、つまりため込まずに「巡らせる」ことであるという。吐き出された個人の本音は、形を変えて誰かの暮らしを支える紙となり、最後は静かに水へと還っていく。人の心が健やかに巡ることでしか、真に持続可能な社会は訪れないという確固たる信念が、このビジネスの骨組みを支える強い説得力となっている。
精神的充足と地域活性化を両立する視点
SIDEWAYの取り組みからビジネスパーソンが学ぶべきは、個人のメンタルケアというミクロな体験を、地域経済の活性化というマクロな仕組みへ見事に接続させた設計思想である。内観シートの回収拠点は、新富士駅や富士駅周辺だけでなく、大渕笹場や田子の浦漁港といった市内の主要な観光地や地元の実力派店舗に意図的に分散されている。
参加者は自らの感情を昇華させるために富士市の街を巡り、その過程で地元の新たな魅力や人々に出会うこととなる。外側の環境循環と内側の精神的循環が美しく重なり合うことで、地域全体に血流のような人の流れが生み出されている。物質のエコに留まらない、人の心の平穏と地域の賑わいを共生させるこのモデルは、これからの時代のローカルビジネスにおける極めて重要な示唆を含んでいる。



