
ビルの谷間の屋上で、ビールの原料が育つ。東洋学園大学の現代経営学部「現代消費研究ゼミ」(野村拓也准教授)が、上野・不忍池周辺を舞台にした地域循環型プロジェクト「しのばずホッププロジェクト」と連携し、文京区本郷のキャンパス屋上でホップの植え付けを行った。
学生が地域住民とともに、循環型社会の実現を目指す試みだ。
屋上の空きスペースをクラフトビールの畑に
同大によると、「しのばずホッププロジェクト」は、台東区・文京区周辺のビルの屋上や壁面などの空きスペースを活用してホップを栽培し、地元のマイクロブルワリーでクラフトビールを醸造・販売する地域循環型のプロジェクトだ。東京大学大学院都市デザイン研究室(永野真義助教)が主導し、地域住民や近隣飲食店、社会福祉協議会など多様な主体が参画している。使われていない屋上を畑に変え、そこで採れた原料を地元の醸造所がビールに仕立て、地域の店で味わう。原料の生産から消費までを同じまちの中で完結させる発想が、このプロジェクトの核にある。
5月7日に行われた植え付けには、東京大学大学院都市デザイン研究室のメンバーをはじめ、上野・不忍池周辺の住民、近隣飲食店の関係者、文京区社会福祉協議会の関係者など約25人が集まった。土づくりから植え付けまでを協力して進め、6個のコンテナに台東区で作られたコンポストたい肥を混ぜた土を入れ、「カスケード」種のホップを植えた。コンテナは屋上を囲う壁の一面に並べられ、自動潅水装置も設置されている。
ブドウに続くホップ、1年で実る作物の利点
野村ゼミは、キャンパス1号館の屋上で屋上菜園ブランド「IL NIDO DELLA FENICE(イル・ニード・デッラ・フェニーチェ)」を展開しており、2026年からはワイン醸造用のブドウ栽培にも取り組んでいる。ブドウは収穫まで約3年を要するため、1年で実るホップを同時並行で育てることで、地域循環型の都市農業をより早期に本格化させる狙いがある。実りまでの時間が異なる二つの作物を組み合わせることで、長期のブドウ栽培を待つ間も、ホップという目に見える成果を学生や地域が共有できる。
野村拓也准教授は「都心のキャンパスという立地を活かし、地域の方々と共に循環型社会の実現に貢献できることは、学生たちにとって貴重な学びの機会だ」とコメントし、ブドウとホップの成長を見守りながら製品化まで取り組みを加速させたいとしている。屋上菜園ブランドの名は「不死鳥の巣」を意味するイタリア語で、都市の限られた空間から新たな価値を生み出そうという姿勢がうかがえる。
都市農業と地域連携が結ぶ学びの場
都市部の屋上を農地に変える取り組みは、ヒートアイランド対策や緑化、フードマイレージの削減といった環境面の意義に加え、地域コミュニティの結節点としての役割も期待されている。地元で採れた原料を地元で加工し消費する地産地消の循環は、都市の中に新たな関係性を生み出す。国内のホップ栽培は気候の合う一部地域に集中し、クラフトビール需要の高まりに対して国産原料の供給は限られてきた。都心の屋上という未活用の空間でその一端を担おうとする点に、本プロジェクトの新しさがある。
今回の連携は、大学が地域社会と協働しながら学生に実践的な学びの機会を提供する産学地域連携の一例でもある。育てたホップがやがて地元のクラフトビールへと姿を変えるまで、学生たちは栽培から製品化までの一連のプロセスに伴走することになる。栽培の世話や収穫、地域の人々との協働を通じて、消費を研究するゼミの学生は、ものが生まれ届くまでの過程を机上ではなく現場で学ぶことになる。都心の屋上から、まちと大学をつなぐ小さな循環が動き出した。



