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捨てられていた米ぬかが、今、印刷業界の常識を変えようとしている。築野グループは、米ぬかから抽出される成分を用いたライスインキの原料を開発。大手コンビニやカフェチェーンの包装材に採用されるなど、その勢いは止まらない。
食品ロス削減とカーボンニュートラル社会の実現に向け、小さな米ぬかに大きな可能性が秘められている。
廃棄物から資源へ

築野グループはライスインキの原料としてポリアミド樹脂を製造販売している。ポリアミド樹脂の由来は米ぬか油の非食用部分で、食料と競合しないバイオマス原料かつ、お米は国内で発生すると言った点から輸送時のCO2排出量が他のバイオマス原料と比べ、少ないことが特徴だ。
現在、築野グループのポリアミド樹脂を用いたライスインキは大手コンビニチェーンのおにぎり包装や、有名カフェチェーンの食品パッケージと言ったフィルム向けの印刷に用いられている。
消費者の手に届く身近な製品に採用されることで、食品ロス削減の観点からも注目を集めている。昔は廃棄物として処理されることもあった 米ぬかを、新たな資源として活用する取り組みは、循環型経済への移行を加速させる重要な一歩と言える。
築野社長 は、「米ぬかに夢を託して」という社是を掲げ、創業以来、米ぬかの有効活用を追求してきたという。
現在、同社は従業員540人を擁し、食品、化学、医療など幅広い分野で事業を展開し、2024年度の年商は約450億円。全国8拠点の生産拠点を持ちこめ油製造量で50%超のシェアを超える。
カーボンニュートラル実現への貢献
米ぬかから作られるライスインキは、石油由来の従来のインキと比較して、CO2排出量を大幅に削減できる。カーボンニュートラル実現が喫緊の課題となる中、環境負荷の低いライスインキは、持続可能な社会の実現に大きく貢献する。さらに、米ぬかは食料生産の過程で発生する副産物であるため、新たな農地開拓や資源の消費を必要としない。これは、食料安全保障の観点からも重要なメリットだ。
築野副社長は、「食べるために作られる米の副産物を活用することで、環境負荷を抑えながら経済活動を活性化させることができる」と語る。

数十年にわたる研究開発の軌跡
築野食品工業の米ぬか研究の歴史は長い。1960年代から脂肪酸事業に着手し、米ぬかから様々な有用成分を抽出する技術を培ってきた。1970年代には、医薬品原料となるイノシトールを製造開始。2000年には、ヘンケル社からダイマー酸工場を買収し、ポリアミド樹脂の製造を開始した。
このポリアミド樹脂が、現在のライスインキの基盤技術となっている。築野副社長によれば、当初はインキ用途を想定していなかったが、顧客からの要望をきっかけに、ライスインキの開発に着手したという。
米ぬか油の特性と徹底活用へのこだわり

大豆油や菜種油などは、原料から油を精製する歩留まりが約95%と良い。一方、米ぬか油は、歩留まりが約70%と悪い。言い換えれば、米ぬか油は他の植物油と比べて精製過程で多くの副産物が発生することを意味する。これは、米ぬか油に様々な有用成分が含まれているためだ。
築野グループは、創業当初からこの米ぬか油の特性に着目し、無駄なく使い切ることを目指してきた。副産物を徹底的に活用することで、環境負荷を低減すると同時に、新たな価値を創造してきたのだ。
研究開発担当の中村氏は、「米ぬかにはまだまだ知られていない可能性が秘められている。我々は、その可能性を最大限に引き出すことで、社会に貢献していきたい」と語る。
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さらなる普及を目指す
ライスインキは、環境性能に優れているだけでなく、印刷品質も高い。しかし、現状ではまだ価格面や供給体制の課題があり、普及の壁となっている。
築野副社長は、「更なるコストダウンと安定供給を実現することで、より多くの企業にライスインキを採用してもらいたい」と語る。
同社は、廃食用油など、他の廃棄物からもインクを製造する技術開発にも取り組んでおり、循環型経済モデルの構築を目指している。消費者の環境意識向上と、企業の積極的な採用促進が、ライスインキの普及を加速させる鍵となるだろう。