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第22回)中小企業がSDGsに取り組む条件とは

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
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執筆)中小企業診断士 國領典彦

私は中小企業診断士として、様々な中小企業を支援している。支援する際になるべくSDGsの取り組みについてどう考えているかを聞くようにしている。既に取り組んでいる事業者もある反面、全く考えていない事業者もある。考えない理由を聞くと、「SDGsを事業に取り入れても自社の利益に結び付かないから」という答えをする経営者の方が多い。

今月の資金繰りをどうしようか、売上が大きく減少したなどといった問題に直面する事業者にとっては、まず目前の課題を解決することが最優先だ。中期的取組であり、業績向上にすぐにはつながりにくいSDGsを考える余裕はないのは当然である。また、中小企業は限られた資源を活用して事業を進めており、業績に結び付かない活動に資源を割く余裕がないのも確かである。

逆にいうと、SDGsが中小企業にとってメリットがあったり、中期的な事業の課題解決に結び付いたりすることがわかれば取り組みやすい。

最近は、製造業でサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量削減をめざす大企業の取引先の中小企業が、脱炭素化を強いられる例をよく聞く。そうでなければ取引を停止される可能性があるからだ。またSDGsの取り組みをすることで、行政からSDGsの取り組みにより設備投資等の補助金が付くので始めたという事例も多く聞く。これらは外圧や補助金が自社にとってメリットがあることが理解できたから取り組みを始めた例といえよう。

こうした例だけでなく、自社の中期的課題の解決のためにSDGsを取り入れる中小企業も増えてきている。以下、自社の課題解決のためにSDGsを経営に取り入れたことで業績向上に結び付けた事例を紹介する。

女性登用や技能伝承する中小の建設会社

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※写真と紹介事例は関係ありません

 神奈川県横須賀市の建設会社であるA社は、首都圏及びその近隣地区に営業拠点を持つ従業員200名弱の創業36年のビル・マンションの修繕工事を主な事業としている横須賀市に本社がある。

A社は建設会社の多くが抱えているベテランの職人の高齢化と若手社員の雇用が難しいという課題があった。課題解決に対する対応を模索している中で、神奈川県のSDGsの施策等を聞く機会があったことがきっかけとなり、SDGsの取り組みをすることで課題の解決に取り組んだ。取り組み内容は以下の通りである。

① 女性が建設現場で活躍できる場の創出

  • これまで男性が中心であったマンション修繕建設現場に、女性社員を配置。
  • マンション修繕工事現場を女性目線でパロールして建設現場の衛生や美観を保つチェックシートの導入を行い、建設現場の働きやすい職場づくりやマンション居住者に対する満足度向上に結び付けた。
  • 秘書検定を取得した女性社員が工事現場事務所に常駐して工事現場で働く従業員の様々な相談業務や業務のマニュアル化を実施。居住者に対しては、居住者への相談、現場事務所の香りによるおもてなし、キッズ説明会等行う「現場コンシェルジュ制度」の導入。
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※写真と紹介事例は関係ありません

② 防水の職業訓練校開設による技能伝承機会創出

2021年9月に神奈川県下初の防水の職業訓練校を設立し、ベテラン社員から若手社員への、建設現場の技能伝承の機会を創出した。

 この取り組みは評価され、自治体の表彰制度で表彰された。社員のワクワク感が醸成され、社内に活気があふれるようになった。人材募集にあたり、女性の応募者が増加し、取組前は数名だった女性応募者が取組後は20名前後となった。応募者からは現場はコンシェルジュとして働きたいという希望が多く聞かれるようになっている。職業訓練校の卒業生も27名となり女性の受講者も多くなっている。補修工事現場で居住者の満足度も向上した。この結果、若手が入社し、技術の継承も進み、工場の引き合い件数、契約件数も取組前と比較して2割程度増加した。

地域住民に理解してもらう取り組みも

B社は横浜市都筑区にある創業37年の工業用ヒーターの製造会社である。競争の激しいヒーター製造業界で同業他社に対して優位性を出すにはどうしたらいいかという課題を抱えていた。さらに、準工業地帯に位置するB社の周辺には住宅も多く、この地で製造業として事業を継続していくには地域との関係性を深めていかなければいけないという問題意識もあった。こうした課題を解決するために、以下のような活動に取り組み始めた。

① こどもまち探検

 地域の子供たちに製造業の魅力を知ってもらい、近隣住民の製造業への理解も深めてもらうために、準工業地帯にある製造業のうち10社と連携して、地域のこどもの工場見学会を実施。

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※写真と紹介事例は関係ありません

② カフェ&ファクトリーの展開

全世代の地域住民が繋がりあえる場所として、カフェ&ファクトリーというコンセプトで工場の1階にカフェをオープン。カフェとしての使用だけでなく、ヨガや英会話、各種イベントなどの共有スペース、コワーキング、親子工作、カフェの一日店長、撮影など、自由な幅広い用途で利用され、地域のハブとなるコミュニティースペースとしても活用されている。

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※写真と紹介事例は関係ありません

③ シェアカフェ

近隣の餃子工場や食肉加工工場で規格外となった食材を使った、フードロスをなくす弁当を引きこもりの方や高齢者に地域のケアプラザを経由して届ける活動を実施。
さらに、社内全体の取り組みとするために、人事評価にもSDGsの取り組みを入れているように従業員まで含んだ企業全体の活動として取り組みを行っている。
この結果、自治体からの表彰や各種認証を得て、各種メディアで露出が増加し企業の認知やブランド力が向上。開始前は20社だった取引先が7,000社に増えた。現在、取引先との新たな技術開発や商品開発も進行している。採用の際も応募者が増え、SDGsの取り組みが業績向上につながっている。

B社の事例用の写真2_sdgswoyomu
※写真と紹介事例は関係ありません

SDGsは自社の課題解決のため手段とした方が始めやすい

紹介した2社とも自社の課題解決から始めたSDGsの取り組みが評価され、各メディアにも取り上げられ、認知度、ブランド力が向上。結果として取引先も拡大し業績向上に結び付いている。
中小企業では、SDGsの視点で自社の課題がどのように解決できるか整理して検討してみることが大切であるといえる。経営者がSDGsの取り組みが課題解決に有用であると理解できれば自ずとSDGsを事業に取り組むようになるであろう。
 SDGsは持続的な成長を目指すものである。特に中小企業では、SDGsの活動が収益に結び付かないと持続的な成長につながらない。中小企業にとってSDGsは事業の目的ではなく、課題改善、業績向上のための手段として活用していく事が大事である。その結果としてSDGsの活動が社会課題の解決にもつながっていく。

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ライター:

1958年東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、化粧品メーカ ー勤務を経て、2022年5月に中小企業診断士として独立。現在、中 小企業診断士ジム所NORI12オフィス代表。

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