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人的資本の情報開示とは?義務化された開示項目をわかりやすく解説

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法人や企業に所属する「人」を資本と捉える、「人的資本」の考え方は、先進諸国を中心に一般的となりつつあります。

国内においても情報開示が義務化され、有価証券報告書に人的資本の内容を記載し、ステークホルダーに公開する企業は増えています。

その一方で、義務化はされたものの、具体的にどのような内容を開示すればいいのか、よく分からない方も多いのではないでしょうか。

本記事では人的資本とは何か、どのような開示項目があるのか、開示に必要なデータについて解説します。

情報開示の義務化に正しく対応することで、機関投資家や従業員などのステークホルダーから高く評価されることにもつながるでしょう。

人的資本の情報開示とは?

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人的資本の情報開示は、金融商品取引法第24条「有価証券を発行している企業」のうち、大手企業を中心とした約4000社が対象となりました。(2023年3月31日以降の事業年度より)

対象企業は、有価証券報告書に以下の情報を記載しなければなりません。

  • 従業員の状況
  • 女性管理職比率
  • 男性の育児休業取得率
  • 男女間賃金格差

人的資本の開示が求められる理由

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DALL-Eで作成

人的資本の情報開示が求められる背景には、企業のSDGsやサステナブルな事業への取り組み、人的資本への関心の高まりがあります。

ここでは、人的資本の開示が求められる理由について説明します。

人的資本の考え方が主流に

SDGsが定められて以来、企業の価値は財務指標などの有形資産から、人材や企業風土といった無形資産へと、企業価値の判断指標が変化してきました。

人的資本の概念は、従業員が直面する問題の解決能力に注目し、彼らを単なるコストではなく投資対象と見なすことを企業に求めています

従業員への教育と研修への投資により、スキルと知識が向上し、組織の長期的なパフォーマンスに影響します。さらに、従業員の満足度やエンゲージメントも人的資本と密接に関連しています。

従業員がスキル向上とキャリア発展に投資する企業文化があれば、従業員のモチベーションが高まり、離職率が低下します。これは企業の持続可能な成長に不可欠なことでもあります。

ESG投資の対象となる

人的資本の開示は投資家にとって重要なデータとなり、企業の多面的な評価を可能にします。

特にESG投資では、社会問題の解決への取り組みが重要です。ダイバーシティや男女雇用均等など人的資本データの開示により、魅力的な投資先となる可能性が高まります

例えば、同じ業績の2社がある場合、人的資本データを加えると投資家の判断が容易になります。

A社の内定受託率が70%、外国人管理職比率が40%。その一方で、B社はこれらの比率が低い場合、A社の方がより魅力的な投資対象と判断されます。

従来の財務報告では人的資本の価値はほとんど言及されていません。

物理的資産や金融資産に焦点を当てがちな財務諸表では、従業員のスキルや経験などの目に見えない資産が疎かにされがちです。その結果、企業の真の価値が正確に反映されないことがあります。

このギャップを埋めるため、組織や規制当局は人的資本情報の開示枠組みの開発を進めています。

これには従業員の教育水準、スキルセット、研修投資、労働環境、組織文化やリーダーシップスタイルなどが含まれます。

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人的資本情報開示の国内と海外の状況

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国によって、人的資本の情報開示への取り組み状況は異なります。
ここでは、アメリカ、欧州の代表としてドイツと日本の状況を比較します。

アメリカの人的資本開示の取り組み

アメリカでは2020年から人的資本開示が義務化され、2022年からは開示項目も定められました。

Googleなどの大手企業では、多様性や包括性、従業員の満足度を公表し、これを企業の社会的責任の一環としています。

特にテクノロジー企業では、福利厚生や学習・キャリア開発の投資を重要な情報開示項目としています。

アメリカでは人的資本情報の開示が企業の持続可能性と競争力向上の手段としての認識が定着しており、透明性と信頼性の向上に各企業が力を入れています。

ドイツの人的資本開示の取り組み

ドイツは欧州諸国の中でも先進的に、人的資本情報開示を実施しています。

ドイツ銀行は、ISO30414のガイドラインを採用し、その分野で世界初の銀行になりました。同国の大手ソフトウェア企業SAPは、従業員のエンゲージメントや福利厚生に関する詳細を公表しています。

ドイツ企業は、従業員の満足度や労働環境の改善を企業価値の核とし、これを明示することで投資家や将来の従業員にアピールしています。

日本で人的資本開示が遅れている理由

実は、日本国内の人的資本開示は、先進諸外国と比べると遅れているといえます。
その理由について下記に説明します。

  • 文化的側面:日本企業は伝統的に情報開示に慎重で、社内情報の外部公開に抵抗
  • 戦略的判断:財務情報を重視する経営手法が根強く、人的資本情報の価値理解が遅い
  • 規制やガイドラインの不在:人的資本開示を促進する法的枠組みやガイドラインが不十分で自主的な情報開示への動機付けが不足


これらの要因があり、日本の企業は国際基準に追いつくための課題を抱えている状況です。

人的資本の開示項目は7分野19項目

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では実際に、人的資本の情報開示を行う際、どのような項目が必要なのでしょうか。ここでは、内閣官房非財務情報可視化研究会から公開されている、「人的資本可視化指針」より引用して紹介をします。

分野項目

人材育成に関する開示
リーダーシップ
育成
スキル
エンゲージメントに関する開示従業員満足度

流動性に関する開示
採用
維持
サクセッション

ダイバーシティに関する開示
ダイバーシティ
非差別
育児休業

健康・安全に関する開示
精神的健康
身体的健康
安全


労働慣行に関する開示
労働慣行
児童労働、強制労働
賃金の公正性
福利厚生
組合との関係
コンプライアンスに関する開示コンプライアンス
引用:人的資本可視化指針|内閣官房

人材育成に関する開示

「人材育成の開示」は、企業が効果的なリーダーをどう育成し組織に影響を与えているかを示します。

管理職や将来のリーダー向けの研修プログラム、経営層の多様性、特に性別や民族による多様性が、企業文化や意思決定にどう反映されているかが主な項目です。

また、キャリア成長や個人の成長支援のための研修プログラム、パフォーマンス評価とフィードバックプロセスも重要です。

エンゲージメントに関する開示

「従業員満足度」の開示は、企業が従業員の幸福感と仕事の満足度をどう評価し改善しているかを反映します。従業員満足度調査の結果、頻度、カバー範囲が主要な内容です。

さらに、調査結果をどう活用しているかも重要で、具体的な改善策や新しいイニシアティブ、ワークライフバランスをサポートするポリシーが含まれます。

流動性に関する開示

「流動性に関する開示」は、企業が採用、維持、サクセッションプランニングにどう取り組んでいるかを示します。採用では、新しい才能をどう見つけ引き付けるか、多様性と包括性の方針が重要です。

維持では、従業員満足度やエンゲージメントレベル、福利厚生やキャリア開発の機会、離職率とその原因、職場環境改善の取り組みが主なポイントです。

サクセッションでは、将来のリーダーシップの準備、研修プログラム、キャリアパスの開発が含まれます。

ダイバーシティに関する開示

「ダイバーシティに関する開示」は、企業が職場の多様性をどう推進し維持しているかを明らかにします。

経営層や従業員の性別、民族、年齢、障害の有無などの多様性、その多様性が企業のパフォーマンスやイノベーションにどう貢献しているかが含まれます。

多様な背景を持つ人材の採用や育成の取り組みも重要です。

健康・安全に関する開示

労使関係の健全さを示す情報、例えば労使間の対話や交渉状況、ストライキや労働争議の有無、従業員満足度調査の結果などが開示されます。

労働慣行に関する開示

労働慣行の開示では、企業が従業員との関係管理、労働基準の遵守、職場公正性の確保をどう実施しているかが扱われます。

従業員の労働時間、休暇ポリシー、仕事と私生活のバランスの取り組みが主な内容です。児童労働や強制労働の防止への取り組みも重要です。

コンプライアンスに関する開示

コンプライアンスプログラムの範囲と内容、従業員への教育とトレーニング、内部監査やモニタリング、法令違反時の対応プロセスなどが含まれます。

これにより、企業が法令遵守と社会的責任をどう重視しているかが明らかにされます。

人的資本開示の企業事例

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DQLL-Eで作成

日本は、人的資本開示で海外に遅れをとっていますが、国内企業の中には先進的に取り組んでいる企業もあります。ここでは日本企業の事例から、どのように開示すればいいのかについて紹介します。

富士通

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(富士通ホームページより)

富士通では、従業員の働き方と健康管理に焦点を当てた人的資本経営を行っています。
積極的な働き方改革を推し進め、以下のような施策を実施しています。

  • フレックスタイム制度の導入
  • 在宅勤務の拡大
  • 長時間労働の削減


これらの施策は、従業員の生産性を高め、仕事と生活の調和を図ることを目的とています。

富士通は年次のサステナビリティレポートやWebメディアを通じて、取り組みの成果や進捗状況を定期的に公開しており、従業員の健康管理においては以下のような具体的な情報を共有しています。

従業員の働きやすさや求職者の選びやすさ、企業価値向上の両方に寄与することを重視しています。

  • 定期健康診断の受診率
  • メンタルヘルス対策
  • 利用可能なウェルネスリソース

シャープ

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(シャープホームページより)

シャープでは多様性の推進、女性の活躍の場を重視しています。

女性管理職への登用を進めるとともに、キャリア支援プログラムを展開するなど、女性従業員が職場でより活躍できる環境づくりに取り組んでいます。

シャープは女性従業員の働きやすさ、キャリアアップについて下記のデータを公開しています。

多様性という価値を実現し、組織の包括的な成長とイノベーションに貢献する方法を示している企業と言えるでしょう。。

  • 女性従業員の比率やキャリア形成に関するデータ
  • 育児や介護といったライフステージのサポート状況
  • そして女性のリーダーシップポジションへの昇格状況

トヨタ自動車

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(トヨタ自動車ホームページより)

トヨタ自動車では人的資本の重要性を認識し、従業員のスキルアップと人材の育成に力を入れている企業です。

従業員一人ひとりの能力開発を重視し、多様な研修プログラムやグローバルな職場経験を通じて、個々のキャリアアップを支援しています。

従業員のキャリア開発を、会社全体の人材開発戦略として位置づけ、サステナビリティレポートや報告書にて公開しており、下記のデータが報告されています。

トヨタがどのようにして従業員の長期的なキャリア成長をサポートし、組織の競争力を維持しているかを示しています。

  • グローバルに展開する研修プログラムの参加者数
  • 従業員のキャリアパス
  • 社内異動や昇進の機会

まとめ

人的資本の情報開示とはなにか、企業に求められる理由と具体的な開示項目について紹介しました。

近年、SDGsやサステナブルな事業計画が求められる中、従業員を資本と捉える「人的資本」の考え方は企業に欠かせないものとなっています。

本記事を参考に、法人の人的資本情報開示を進めるきっかけになれば幸いです。

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ライター:

大手新聞社で記者として勤務した後、フリーランスとして活動。記事執筆だけでなく、企画や校正などの案件も受注。得意分野は映画などのエンタメ、ノンフィクション、求人関係のコラムなど。製造業界で広報として勤務していた経験もあるため、IRやプレスリリースなどの案件にも取り組む。

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