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第20回)ESG混迷の時代、問われる投資家の自己責任

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
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松井証券・窪田朋一郎シニアマーケットアナリスト

パリ協定の合意や国連が採択したSDGs(持続可能な開発目標)などを背景に関心が高まってきた環境保護。これまで順風満帆だったはずだが、足元では逆風が吹き始めている。特に米国の主要企業や資産運用業界の間ではESG(環境・社会・企業統治)という言葉を避ける動きが鮮明になってきた。政治的な分断を受けて、環境問題が「政争の具」になっていることが背景にある。ESGやSDGsを取り巻く政治・経済環境が混迷する中、マーケット関係者は今後の展望をどう見るのか。松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストに聞いた。

(聞き手:日高広太郎)

日高

証券業界では環境関連の投資が盛んでしたが、ここにきてやや逆風が吹いているように見えます。2023年に世界最大の運用会社、ブラックロックのラリー・フィンクCEO(最高経営責任者)がESGという言葉を使わないと述べ、波紋を広げました。証券市場にとって、ESGやSDGsの意義はどう変容しているのでしょうか。

窪田

金融・証券業界は23年からESG、SDGsという言葉を使うこと自体に慎重になっています。特に顕著なのが米国です。ESGやSDGsという言葉が、政治的な右派と左派の「政争の具」に使われているからです。特に今年11月に米大統領選があるため、政治対立が深まりやすい状況です。

右派は投資に非金銭的な要素を考慮するのは受託者責任に反し、社会主義的だと非難しており、左派は企業の脱炭素などの動きが鈍いのはESG投資家の努力が足りないからだ、などと主張しています。米国企業は、ESGなどの言葉を使うと、両派から攻撃を受けるリスクがあり、この問題には触れづらくなっています。このため保守とリベラルが対立するフロリダ州やテキサス州などを中心に、ESGという言葉を使わない企業が増えています。

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11月には米大統領選を控える
日高

そうした傾向は米国だけでしょうか。

窪田

米国だけではありません。新興国などほかの国々にも広がりつつあります。例えば、アルゼンチンの急進的リバタリアン(自由至上主義)のミレイ大統領は、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で講演し、「社会主義は貧困を生み出す現象だ」と主張しました。日本は米国に比べれば政治対立が先鋭化していませんが、グローバルに事業を展開する企業を中心に、ESGという言葉を避ける動きが出始めています。

日高

とはいえ、地球温暖化や環境破壊の問題は深刻さを増しています。企業は環境問題を無視するわけにもいかないように思います。

窪田

多くの米国企業がESGの代わりに、「サステナビリティー(持続可能性)」という言葉を使うようになってきています。米国の右派、左派の両派から攻撃を受けない中立的な立場を強調するためです。左派は「SDGsやESGはすでに常識となったので、次の段階としてサステナビリティ―という言葉になった」という言い訳ができます。右派は「社会主義的な価値観であるSDGsやESGという言葉が滅びた」と主張できます。サステナビリティ―という言葉が恰好の逃げ場になっているわけです。

日高

ESGとサステナビリティ―はそれぞれどのような定義だと受け取られているのですか。

窪田

サステナビリティ―という言葉は、環境保護だけでなく、利益を増やすことも企業の存続のために必要だということだと理解されています。ROE(自己資本利益率)などを高めることにもつながるため、「右派が主張することも左派が主張することも包括した概念だ」と受け取られています。ESGやSDGsの推進が本当に企業の利益に繋がるかどうか懐疑的な投資家もいたため、投資家も受け入れやすい面があります。
とはいえ、サステナビリティ―という言葉は政治対立の中から苦肉の策として生まれた言葉です。右派にも左派にも攻撃を受けないよう、あえて曖昧な概念にしているだけに、環境保護には実効性がないとも受け止められています。

日高

政争の具にもならず、実効性も高める方法はありますか。

窪田

私は1つ1つの環境保護の施策を科学的なエビデンス(根拠)に基づいて環境保護を客観的に判断することが重要だと考えています。これまでは実効性がないにもかかわらず、自社のアピールのために環境保護を主張しているケースが多くありました。いわゆる「グリーンウォッシュ」の問題です。

例えば、電気自動車(EV)のタイヤの粉塵から排出されるマイクロプラスチックの問題があります。ガソリン車からEVへの移行により、排ガスの量は減ると予想されています。しかし、追加バッテリーの重量やEVのトルク(加速力)により、タイヤの摩耗がもたらす汚染は悪化すると言われています。環境保護はファッションではなく、実効性のあるものに変えていかなければなりません。その上で第三者が評価・検証するプラットフォームも必要になるでしょう。

日高

投資家は持続可能な企業をどう判断すれば良いですか。

窪田

企業の開示情報をしっかりと読み込み、自分の価値観に合う企業に投資するのが基本です。価値観の中には政治的な考え方も入るでしょう。市場のことは市場に任せるしかなく、結果がどうなるかは誰にもわかりません。しかし、自分が投資を判断した企業であれば、結果がどうあれ納得できるでしょう。こうした意味で、投資家の責任が問われていると言えるでしょう。

日高

ただ、企業情報をしっかり読み込む時間がない投資家も多くいます。

窪田

そうしたケースでは、日本株や米国株、世界株などのインデックス型ファンドに投資するのが最も良いでしょう。金融業界では「コア&サテライト」という考え方があります。手元の運用資金を「減らしたくないお金(コア)」と「積極的に増やすお金(サテライト)」に分けておく方法です。例えば、運用資金が2,000万円ある場合、1,500万円はインデックス型ファンドに投資し、500万円は自分の考え方にあった銘柄などに投資すれば良いわけです。

日高

今後の展望は。

窪田

11月の米大統領選が大きなポイントとなります。民主党政権が続けば、これまで通り、SDGsやESG関連銘柄への追い風が続くでしょう。一方で共和党が勝利した場合は、ESG関連銘柄には逆風となり、石炭やシェールガス、エンジニアリングなどにマーケットの関心が移ると予測されます。米大統領選と環境関連銘柄の行方には密接な関係があります。投資家はトレンドを見逃さないよう、市場環境を注視する必要があります。

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株高が続く東京証券取引所

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ライター:

証券界の第一線で活躍し、相場の鋭い考察と読みに定評がある。特に日本株式市場を中心に、日々のマーケットの解説に加えて、独自の投資指標を開発。日本経済新聞をはじめ、動画やSNSなど多様な媒体でコメントやリポートを発信している。高校生時代から株式投資を始め、大学卒業後に松井証券に入社。自己売買担当、顧客対応マーケティング業務などを経て現職。ネット証券草創期から株式を中心に相場をウォッチし続け、個人投資家の売買動向にも詳しい。

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