
「TCFDってなに?」「取り組みたいけど、どんなことをすれば良いのか分からない」と悩んでいませんか。
そこで、今回は、TCFDの概要や情報開示ポイントについてわかりやすく解説していきます。併せて、実際の企業の取り組み事例もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

TCFDとは?
では、はじめにTCFDの概要についてお伝えします。
TCFDとは、Task Force on Climate-related Financial Disclosuresのそれぞれの頭文字を取って作られた言葉で、日本語では「気候関連財務情報開示タスクフォース」と訳します。
このTCFDは、2017年に『TCFD提言』を公表し、気候関連問題が企業に及ぼすリスクや機会、財務的影響を解説した上で、金融・非金融セクターの両者に共通した提言とガイダンスを提示しています。
TCFD提言が行われた主な目的としては、「環境と成長の好循環」を確率することです。
具体的には、企業の脱炭素に向けた取り組みを投資家が支援し、支援を受けた企業が成長する。
そして、成長することで得た利益が投資家に還元され、さらに脱炭素に向けた取り組みが投資家によって支援されるといった流れを生み出すことです。
このTCFDは、金融システムの脆弱性への対応や金融システムの安定を担う「金融安定理事会(FSB)」によって、2015年に設立されました。
このTCFDでは、企業活動が気候変動に与えるリスクを考慮し、どのような取り組みを実施または検討しているのかについて、具体的な情報を開示することを企業に対して推奨しています。
日本においては経済産業省が、2017年に公表された「TCFD提言」を受け、「気候関連財務情報開示に関するガイダンス(TCFDガイダンス)」を2018年12月に公表し、国内でのTCFD提言への対応が重視され始めました。
また、経済産業省によるTCFDガイダンスの公表とTCFD提言への対応が日本国内で重視され始めたことを受け、翌年の2019年5月27日に、企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断につなげるための取り組みについて議論することを目的とした『TCFDコンソーシアム』が設立されました。
と、ここまでTCFDについて簡単に説明し、TCFDが気候関連問題に関する事柄だということはお分かりいただけたかと思います。
そうなると、「なぜ、設立したのが金融安定理事会なの?」「環境関連の組織が推奨することではないの?」と思うかもしれません。
実は、TCFDが設立された背景として、以下のことが挙げられます。
- これまでの情報開示では、金融機関にとって、気候関連問題と企業の戦略・財務計画を関連付けて理解することが難しかった
- その結果、資産価値に大幅な変動が起こった際に、十分な対応を取れないことが懸念された
このようなリスクを避けるため、企業に対して、気候関連問題が財務面へ与えるリスクと機会、さらにリスクと機会をもとにした戦略・取り組みについての情報開示が求められるようになりました。
この背景からも分かる通り、TCFDでは、気候関連問題と財務情報を関連付けた情報開示を行うことが必要となります。
TCFDへ賛同する意義とは?

では、TCFDへ賛同し、取り組みを開始するのにはどのような意義があるのでしょうか?
TCFDへ賛同する意義としては、以下のことが挙げられます。
- 社内・外部に対して情報開示を行うことで、社内における意見交換やフィードバックの機会が得られる
- 金融機関と企業との対話促進にもつながる
サステナビリティ・SDGs・ESGなどといった言葉が世界中で注目されつつある昨今では、従業員や取引先、消費者などステークホルダーが企業に求めることは、単純に会社の利益だけでなくその企業の社会的な存在意義や環境問題への取り組みへと移行してきています。
TCFDへ賛同するということは、このような世の中の流れに適応し、自社の事業活動や製品・サービスなどを見直す機会を得ることにつながります。
特に、日本では、多くの企業や機関投資家がTCFDへ賛同しており、東京証券取引所のプライム市場に上場する企業に対しては、有価証券報告書における気候関連問題についての情報開示を実質義務化しているのが実状です。
実際に、日本取引所グループが発行している「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2022年4月版)」にて、以下のように記載されています。
【ガバナンス・コードにおける情報開示原則】 補充原則3-1③:特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。 コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2022年4月版)より |
そのため、TCFDへの賛同は、日本国内で事業を展開・発展させていく上では必須項目と言っても過言ではありません。
また、日本はTCFDへ賛同している企業が多いとお伝えしましたが、その企業数は世界1位となっています。(2023年1月25日時点)
以下のような有名企業も多数賛同しています。
- 森永乳業株式会社
- KDDI株式会社
- 味の素株式会社
- 株式会社商船三井
- 株式会社NTTドコモ
- 株式会社博報堂DYホールディングス
- イオンフィナンシャルサービス株式会社
経済産業省の公表している情報によると、現在では、1,211社もの企業がTCFDへ賛同しており、賛同企業数は年々増加しています。(TCFD賛同企業・機関一覧より)
TCFDへ賛同するメリット
では、なぜそこまで多くの企業がTCFDへ賛同しているのでしょうか?ここでは、TCFDへ賛同するメリットについてお伝えします。
ESG投資を受けやすくなる
一つ目は、ESG投資を受けやすくなるということです。
2006年、金融業界や機関投資家に対して、企業の「ESGへの取り組み」を投資の判断基準として取り入れるように提唱したことをきっかけに、企業活動が環境に与えるリスクや事業機会に対して、関心が向けられるようになりました。
さらにその動きは、2015年に採択されたパリ協定や、同じく2015年に採択されたSDGsによってさらに強くなっていきました。
※パリ協定:温室効果ガスの排出量削減についての枠組み
※SDGs:持続可能な世界の実現に向けた2030年までに達成すべき17の目標
現在では、エシカル消費・ゼロウェイスト・カーボンニュートラルなどの環境に配慮した言葉も頻繁に使用されるようになり、個人から企業まであらゆるレベルにおいて環境問題に対する興味・関心が深まっています。
そのため、現在では、企業の資金調達において重要な投資を受けるためには、ESGへの対策や取り組みが欠かせません。
TCFDに賛同し情報開示を行うことは、ESGのE(環境)において、企業の有益性・持続可能性・リスクに対する企業体制などをアピールする機会となります。
一方で、気候問題に対する情報開示が行われていない場合、投資家や金融機関にとって投資判断が難しくなり、投資を受けられないリスクが高まります。
気候関連リスク・機会に関する理解を深められる
TCFDは、国際基準の組織であり、TCFDにおいて求められる情報開示項目は、世界共通のものとなります。
そのため、TCFDを理解し情報開示を行う過程を経ることで、世界基準での気候関連リスクや事業機会についての理解を深められます。
SDGsが国際的な協力を必要としているように、企業の気候関連問題における取り組みも、世界共通の項目において理解し取り組む必要があると言っても過言ではありません。
新たなビジネスチャンスを発見できる可能性が高まる
また、新たなビジネスチャンスを発見できる可能性が高まることも、メリットの一つです。
TCFDに賛同し、情報開示項目を洗い出していく中で、自社の良い点を発見できることはもちろんのこと、問題点や改善点を把握することにもつながります。
この問題点や改善点は、見方を変えれば、企業の伸び代だと言い換えても過言ではありません。
TCFDに賛同することで、自社または日本国内レベルの限られた視点では見えてこなかった、新たな問題点・改善点(=ビジネスチャンス)を発見できる可能性が高まります。

TCFDにおける情報開示のポイント

では、実際にTCFDへ賛同した場合、どのように情報開示を行っていけば良いのでしょうか?
ここでは、TCFDにおける情報開示のポイントについてわかりやすく解説しますので、ぜひチェックしてみてください。
シナリオ分析をしっかりと行う
シナリオ分析とは、今後起こり得る気候関連問題のリスクと機会を予測し、その予測を元に自社の戦略やリスクマネジメントなどについて考えることです。
実際に、TCFDの要求項目の中にも、「シナリオ分析を踏まえたうえで、戦略や組織の強靭性について説明する」ように記載されています。
では、どのようにシナリオ分析を実践していけば良いのでしょうか?このシナリオ分析の進め方については、環境省によって以下のように推奨されていますので、そちらを参考にすると良いでしょう。
①経営陣の理解の獲得 | ●経営陣からシナリオ分析の理解を得ること ●そのために、TCFD提言とは何かを認識してもらう必要がある ●シナリオ分析に必要な取り組みを、トップダウン形式で推進してもらう(→社内全体を巻き込みやすくなる。) |
②分析実施体制の構築 | ●シナリオ分析を行う体制を構築する ●初期段階から事業部を巻き込んだ体制を構築し、事業部の責任者にもシナリオ分析を行うための理解を得る |
③分析対象の設定 | ●シナリオ分析の対象範囲を設定する ●まずは部分的に分析対象となる事業を選定し、徐々に全社的なシナリオ分析につなげると取り組みやすいと考えられる |
④分析時間軸の設定 | ●将来の「何年」を見据えたシナリオ分析をするかを選択する ●「何年」を対象にするかで、気候変動の影響を受けた世界観が異なるため、自社の事業計画の期間、社内の巻き込み状況、物理的リスクの自社への影響度等の観点からシナリオ分析の有用性を鑑みて時間軸を決めることとなる |
財務的インパクトの開示を行う
財務的インパクトの開示も、TCFDにおける情報開示において欠かせないポイントです。
TCFD設立の背景として、気候変動リスクによって金融システムが安定を損ない、金融機関がダメージを受けることを懸念したことが挙げられます。
財務的インパクトの開示を行う際は、
- 物理的リスク
- 賠償責任リスク
- 移行リスク
上記の3つの観点から考えることをおすすめします。
この3つの観点は、TCFDによって、金融システムの安定を損なうリスクをもたらす要素として考えられている項目です。
TCFDを設立した金融安定理事(FSB)の当時議長を務めたMark Carney氏は、スピーチにて、3つのリスクの内容について説明しています。(以下の表参照)
物理的リスク | 洪水、暴風雨等の気象事象によってもたらされる財物損壊等の直接的インパクト、グローバルサプライチェーンの中断や資源枯渇等の間接的インパクト |
賠償責任リスク | 気候変動による損失を被った当事者が他者の賠償責任を問い、回収を図ることによって生じるリスク |
移行リスク | 低炭素経済への移行に伴い、GHG排出量の大きい金融資産の再評価によりもたらされるリスク |
財務インパクトの開示を行う場合は、上記3つの観点を踏まえてうえで、説明するように心がけると良いでしょう。
実際に、賛同企業が公表しているTCFDにおける情報開示資料を読んでみると、それぞれの観点に分けてリスクを洗い出し、洗い出したリスクをもとに戦略や取り組み、今後の検討案について触れているケースが多く見られます。
TCFDにおける情報開示の項目

TCFDが求める情報開示項目は、以下の4つです。
- ガバナンス
- 戦略
- リスク
- 指標と目標
この4項目において、自社の事業活動における気候変動リスクと機会を把握したうえで、説明する必要があります。
それぞれの4項目の内容については、TCFDの概要資料に以下のように記載されています。
情報開示項目 | 項目の概要 | 具体的な記載に内容 |
ガバナンス | 気候関連リスクと機会に関する組織の管理体制 | ●リスクと機会に対する取締役会の監督体制 ●リスクと機会を評価・管理する上での経営者の役割 (気候変動課題に取り組む委員会の設置、管理など) |
戦略 | 組織の事業・戦略・財務への影響(重要情報である場合) | ●短期・中期・長期のリスクと機会 ●事業、戦略、財務に及ぼす影響 ●2℃目標等の様々な気候シナリオを考慮した組織戦略の強靭性 |
リスク管理 | 気候関連リスクの特定・評価・管理の状況 | ●リスク特定・評価のプロセス ●リスク管理のプロセス ●組織全体のリスク管理への統合状況 |
指標と目標 | 気候関連リスクと機会の評価・管理に用いる指標と目標(重要情報である場合) | ●組織が戦略・リスク管理に則して用いる指標 (水・エネルギー・土地利用など) ●温室効果ガス排出量(スコープ1、2、3) ●リスクと機会の管理上の目標と実績 |
取り組んでいる企業例
では、実際に賛同企業は、TCFDにおいてどのような取り組みを行なっているのでしょうか?
ここでは、賛同企業の取り組み事例についてお伝えしますので、参考にしてみてください。
味の素株式会社
味の素株式会社では、短中長期における生産に関わる事項として、渇水・洪水・海面上昇・主原料収穫量の変化などから受けるリスクがあるとして、リスクの内容やリスクに対する具体的な対応策について以下のように情報開示しています。
リスクの種類 | リスクの内容 | 対応策 |
物理的リスク | エネルギー単価上昇 | 低GHG(温室効果ガス)排出エネルギー源への切り替えを検討予定 |
移行リスク | 主原料の他の食糧やバイオ燃料との競合による需給逼迫、単価上昇など |
具体的な内容を知りたい方は、味の素株式会社が公表している「TCFD提言への賛同」を参照してください。
味の素株式会社|TCFD提言への賛同
ヤマトホールディングス株式会社
ヤマトホールディングス株式会社では、財務的インパクトに対するリスク低減のための対応策と、物理的リスクに対する対応策について情報開示しています。(以下の表参照)
リスクの種類 | リスクの内容 | 対応策 |
財務的インパクト | ●車両・施設におけるGHG排出量に炭素税が課せられた場合、財務に大きな影響を受ける ●GHG排出量削減に向けた低炭素化の要請に応えられない場合、環境意識の高まりを背景とした顧客ニーズの変化による収益の減少 | 低炭素輸送実現へ向けた取り組みとして、以下の解決策を掲げています ●2030年度までに、EV20,000台の導入や太陽光発電設備810基の設置 ●使用する電力の、再生可能エネルギー由来電力への切り替え |
物理的リスク | ●異常気象の激甚化や頻度の上昇による営業停止や施設・設備の損壊・損失 | ●ハザードマップを活用した出典 ●BCPマニュアルの定期的な更新 |
具体的な内容について知りたい方は、ヤマトホールディングス株式会社が公表している「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への対応」を参照してください。
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への対応|ヤマトホールディングス
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まとめ
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この記事では、そんなTCFDの概要や賛同する意義、情報開示のポイントなどについて解説しました。これからTCFDにおける情報開示を行いたいと考えている方にとって、少しでも参考になれば幸いです。