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武蔵大学森永雄太先生に聞く|やる気を生み出すウェルビーイング経営

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武蔵大学森永雄太先生に聞く|やる気を生み出すウェルビーイング経営
従業員がやる気を出す条件とは何であるのか?今回は、武蔵大学経済学部経営学科教授 森永雄太氏へのインタビュー。誰もが自分自身のこととして、そして管理職になれば業務の重要な部分の一つとして気になるモチベーション管理について、最近盛んに世間で取り組まれているダイバーシティーやDXの話も交えてご説明いただき、大変貴重で参考になる話をお伺いすることができた。

モチベーション研究から健康経営・ウェルビーイング経営の研究領域へ

Q:本日はよろしくお願いいたします。まず先生の研究内容を紹介いただき、その後、質問等をさせていただきながら進めたいと思います。それでは、研究内容の説明をお願いできますでしょうか。

森永:私は神戸大学の経営学研究科でモチベーションの研究をしていました。モチベーション研究自体は昔からある研究領域ですが、私が注目したのは自分でやる気を高めて、パフォーマンスを高めていくというややマイナーな研究領域でした。私はこのテーマがこれから大事になると考え、働いている人が職場で実際にどういう自己調整をしているのかを研究して、博士論文を書いたわけです。

30代半ばくらいの頃に、そもそもやりがいを持って働くということや、やる気が出てくるという背後には、健康問題というか、コンディショニングを整えている状態があって初めて、そういった気持ちになっていくのだと考えるようになりました。経営学では、元気であるとか、コンディショニングがいいということは、前提として扱ってきたのですが、そこにもう少し組織側も気を配っていく必要があるのではないかと考え健康経営やウェルビーイング経営の研究に取り組み始めました。

併せてほぼ同じ時期にインクルージョンの研究にも取り組み始めました。日本企業の人事課題として、女性を含めて多様な従業員が働き始めるようになりました。ダイバーシティーがある程度高まる中で、インクルージョンが重要視されてきていた時期でした。ここ4~5年は多様な従業員が生き生きと働ける、そのような組織の在り方、人事管理のほうにも関心を広げて研究をしてきました。

Q:先生がモチベーションの研究に関心を持たれることになったきっかけは何かあったのですか。

森永:私が学部時代に入っていたゼミは非常に元気な人が集まっていました。部活でキャプテンをしているとか、自分でサークルを立ち上げたとか、そういう人たちが集まってくるゼミでした。一般的に考えてやる気が高そうな人たちが、大きな日本で有名な会社に入っていくわけですが、1~2年目でとてもやる気が下がっていたのです。

Q:そういうことがありますよね。

森永:今考えると、人生においてそういう時期はあるのだと思います。若い人が勝手に自分なりの夢を抱いて企業に入社するわけですから、現実にぶつかるし、自分も力不足だったりするので、そこでいったんモチベーションは下がるのは、ある程度仕方がない流れだと思います。でも当時は、あんなに元気で仕事に前向きに就職活動をして、それなりに希望度の高い会社に入っていったのにもかかわらず、なぜ皆、愚痴を言っているのだろうと。もともと元気な人でも、会社に入ると、あるいは職場でやる気が下がってしまうのは、なぜなのかと思いました。

その中で、割とうまく適応できている人もいれば、もう辞めたいというようになかなか抜け出せない人もいました。そういった中で一様にやる気が下がる時期ではあったとしても、うまく対応できる人、自分のやる気を持続できる人、維持できるような人と、なかなかそれがうまくいかない人には、どのような違いがあるのか。その個人の対処法、やる気の持続法には、どのような違いがあるのかに関心を持ったのが、もともとのスタートというところです。

Q:なるほど。私もやはり1年目はモチベーションが大きくダウンしたことを思い出しました。思っていたような大きな仕事というものではなくて、ひたすらExcelに数字を入れるような仕事が続いて、やはり思い描いていた世界と、自分が毎日過ごしている世界のギャップがとても大きくて、モチベーションを下げたことが実際にありました。
 先生が研究されている中で、一様にモチベーションダウンをする中で、対応力がある人とない人の2つの場合があるという話でしたが、その違いはどの辺りにあると分かってきたのでしょうか。

森永:初めは割と自分と同世代の若い人、1~3年目の若い人を調査しました。皆、いろいろ工夫はしていました。例えば音楽を聴いて盛り上げて会社へ行こうだとか、そういうことをいろいろやっているのですが、努力はするけれどもなかなか実を結ばないことが多いと感じていました。

一方で、MBAに来ているような人ある程度経験のある人たちはどのようにしているのだろうかということで、神戸大学のMBA受講生に調査をしました。非常に面白かったのは、MBAを取得しようとするような人でも会社の中で面白い仕事が必ずできるわけではなく、やりがいのある仕事をいつも割り当てられるわけではないのです。だからこそ、仕事を自分でつくっていくのだという話をした人がいたわけです。例えば自分の裁量の中で、興味のあることを必ずしも上司にオープンにしないでこっそりやっていくのです。すぐに報告してしまうと駄目だと言われてしまうので、少しアンダーグラウンドな形で進めていって、ものになってきたときに報告するように、仕事を育てていく。あえて少し遊びの部分をつくっておいて、面白い仕事を少しずつ自分の役割の中に持っていくという話をした人がいました。

これは数多くのインタビューをした中の1人の言及がもとになっているのですが、そういった自分で仕事をつくるという行動は、これまで経営学ではあまり捉えられていなかった考え方でした。ちょうどアメリカで出始めていたジョブ・クラフティングという考え方と非常に整合的だという話になっていきまして、インタビューから聞こえてきたジョブ・クラフティングを「モチベーションを自分で自己調整していく。自分でやりがいをつくり出してやる気を高めていく」という方略として捉えて、研究を進めていくようになっていきました。

Q:実際に新入社員もしくはプラス何年目ぐらいの方々で、ジョブ・クラフティングのような取り組みができた方々というのは、モチベーションが高まっていたという結果が観察されたのですね。

森永:その後の質問票調査では、一般的にジョブ・クラフティングをすることモチベーションの高さとの間には関係があることがわかりました。ただ、ヒアリング調査の中では若い人がジョブ・クラフティングしようとすればみんなができるかというと、そうでもなさそうだということも分かりました。もちろん若い人でもやっている人はいます。例えば理系で専門知識を持っている場合です。この研究をやっているとこういった職場に行くということが、理系だと割と決まっていると思うのですが、そうではない専門外に配属された人がいました。その人は自分が持っている知識が、その職場では非常に特殊なのです。だから「われわれの研究領域だと、こういうことをやりますよ」とか、「こういう実験のアプローチの仕方もできると思いますよ」ということを職場で提供すると、「それは結構使えるかもしれないね」ということで、割と取り入れてもらうとか、「ちょっとやってご覧」という形でチャンスをもらってクラフティングができるという方もいました。

そういう意味で、非常に高い専門性や独自の知識などを持っていると、若い人でもできるのですが、普通の文系で私の同級生のような人たちのように、それほど専門的ではない知識を持って職場へ入っていくと、いろいろ考えて提案しても、職場でも既に検討しているのでクラフティングまでいかないということも結構起こっています。これは、やはりMBAぐらいの、ある程度経験を積んできた人、そして周りからもある程度信頼感を得ている人だからできるという側面もあるということが分かってきたわけです。

そういったことを活用しながら生き生きとして働いている人、周りは単調な仕事ばかりやっているのですが、自分は少し新しい仕事を取り入れているという人もいるということが見えてきたという感じです。

ジョブ・クラフティングという概念を持つこと

Q:確かにおっしゃるように、新卒プラスアルファぐらいの世代ですと、裁量というものは大きくないのだろうと思うのですが、ただし、やはりそういった世代の方々がジョブ・クラフティングという概念を持っていることはとても大事ではないかと、今話を伺っていて思いました。
 やはり裁量が少ないなりに、日々のいわゆる作業と呼ばれるようなレベルの仕事であっても、少しずつ自分の色や味を付けていくことができると思うのです。そういうことを知らないでただ働いている人と、ジョブ・クラフティングの先にあるやる気が上がる可能性というものを理解して働いている人では、社会人のスタートの在り方というものが相当変わってくるのではないかと今思いました。私自身も当時そういうことを知っていればよかったと、今あらためて何十年か前のことを振り返って、正直、思いました。
 最初に先生が研究していて、ジョブ・クラフティングやモチベーションの高さのようなところからスタートして、見えてきた課題や、苦労したということは何かありますか。

森永:やりがいを自分でつくるという人は、能動的な人であることも確かなのです。現在では、能動的な状態をうまく活用することが、さらに仕事の自立性を高めて、やる気が高まるという、循環的なループなのだという形で理論的に整備されています。しかし、当時はそのあたりがまだまだ十分に解明されていなかったのです。学会などでもやる気があるからそういういうことをできるのであって、クラフティングをやっているからやる気があるというわけではないのではないかというコメントをいただいたり、因果の方向性を整理していくことが難しかったですね。

実務の場面で典型的にモチベーション研究に求められることは、やる気がない人を高めるというシンプルな問いなわけです。でも当時私がやりたかったのは、やる気が高い人でも下がってしまうことがあって、それをどう戻していくかとか、どう持続させていくのかというところにありましたので、周りの人が期待される研究成果と私がフォーカスしたいところには違いがあったのですが、当時はそれをうまく私自身も説明できず、苦労したという記憶もあります。

モチベーションと健康の関係性

Q:なるほど。そうすると先生が最初に話していたモチベーションが良いということの背景には、当人が健康であることがあるのではないかという考えは、今のような課題感から生まれてきた考えなのですか。

森永:当初はある程度やる気がある人のやる気の持続法のような話をしていたのですが、だんだん大学にも就職してモチベーションの研究や、少し広いテーマで考え始めたときに、日本の企業が直面していることは、もっと根本的なところ、そもそもコンディショニングが悪いから前向きになれないという人が多いのではないかということになりました。

ちょうどメンタルヘルスが不調な人が非常に増えてきた時期だったので、やる気を高めるどころかメンタルが悪くなっていくという話であれば、そちらも含めて対応していかないといけないのです。しかし、そこはもう産業保健の人にお任せするとか、管理職には対応できない領域というように、少し距離があるような感じがありました。そこについて経営学のほうからもアプローチしていくことが必要なのではないかと考えたのです。

Q:確かに会社でよくあることは、「あとは産業医の方にお願いします」という形で、心身共に健康な人がマネジメントの対象になっていて、そうではない人はコースから外れるということや、組織の枠内から外れることがよく起きると実際に思っています。そういった中で経営学の視点から健康であるとか、健康経営を捉えるということは、具体的にはそういったメンタルが少し弱った方に対して、どういうアプローチをしていくことを提唱されるということになるのでしょうか。

森永:日本の経営学ではあまりここの背後の前提の部分には踏み込んでいかなったのではないかと思っています。もちろんストレス研究というものは産業・組織心理学だとか、産業保健でたくさんありますので、そのあたりを勉強しながら取り組みました。

ただし問題は組織内の体制にもあります。企業の中でも、今おっしゃったとおり健康やウェルビーイングを対応する部署はあるのですが、対応する部署がいろいろと違うわけです。私がモチベーション研究について話すときは、人材開発やキャリア開発の人です。健康経営の話をすると健康管理室の人が来られたりします。保有データも職場満足度やモチベーションの調査結果と、ストレスチェックや健康診断のデータとでは、違う部署が管理していて、2つを連携させたりする取り組みはあまりなされていないことも多いです。健康の問題もモチベーションを高めていくということも、従業員のコンディショニングを整えてパフォーマンスを高めるということにつなげていきたいわけですから、同じ目標、その同じ目的で取り組んでいることを社内外にも発信していかないと伝わらないのではないのかという話をしています。

Q:確かに。最近、私も人事関係のソフトウエアを開発している会社の話なども聞くのですが、そうすると、今、DX、デジタルトランスフォーメーションが推進される中で、社員1人にひも付いている様々なデータをできるだけ一元化するという流れがあります。そういうものの中に例えば業績だけではなくて、現在のモチベーションや、モチベーションヒストリーのようなものを知って管理者や上司が面談すると、よりその面談の効果も上がるのではないかと思います。

森永:パルスサーベイのようなものもかなり増えてきて、ウェルビーイングをリアルタイムで把握するということや、体系的に見るということが技術的にできている部分はあると思います。一方で人事の方に聞くと、それをどこまで共有していいのか、フィードバックするにもどこまでどういった形で見せてあげることが建設的なのか、というところを悩んでいることも多いです。私もそこまで専門ではないので、法律的な話も含めて答えは持ち合わせていないのですが、そこの議論を進めていかないと、集めたデータをどう使うか難しいということも同時にあります。

武蔵大学経済学部経営学科教授 森永雄太氏

健康経営からダイバーシティー経営へ

Q:そうですよね。本当はモチベーションを高めるとか、高い人をうまく活用していくということが、本来の目的だと思うのですが、ややもするとモチベーションが低くなっている人をあぶり出すという形で逆方向に左右することは、大変もったいないと思います。
いわゆる健康経営の研究をして、その次に働く人たちの多様性に、徐々に関心が広がっていったのは、どういうきっかけ、流れがあったのですか。

森永:これは、たまたま違う研究プロジェクトが立ち上がったことがきっかけです。多様性を推進しようという動きは非常に進んできたけれども、職場の管理者は、多様性が高まることはいいことだと思っていても、やはりもめ事が起きるという多様性の負の側面も、経営学はある程度強調してきたわけです。

男性チームと女性チームが組織の中にできてしまうと、その間でコンフリクトが起きることがあります。本来は男性の視点、女性の視点というものが、忌憚なくやりとりされることでイノベーションが起きることを期待しているわけです。しかし、サブグループごとに分かれてしまうと、期待されたイノベーションや新しい視点を持ち込んでくることができなくなってしまうし、意思決定のときにもめてしまうと、かえって職場は混乱します。

職場レベルで、今後そういったダイバーシティーを生かせる要因と同時に進めていかないと、結局拒否反応のようなことが起こって、多様性は衰退してしまうのではないかということになります。ダイバーシティー&インクルージョンといわれ始めていた時期でしたので、もう少し具体的にインクルーシブな風土だとか、インクルーシブなリーダーシップというものに注目してみよう。そして、多様性は日本企業で少しずつ進んできていましたので、インクルーシブなマネジメントを職場で実践できていると成果に結び付きやすくなるのか、つまり皆が協力しようという気持ちになり、実際に知識を教え合うというようなことが促進されるかということを実証する研究をチームでやり始めたということが2017年ぐらいの時期でした。

Q:モチベーションと、多様性というものは、無関係ではないような気がします。多様性のある環境で、自らの属性が認められないと、やはりモチベーションが下がるのではないかと思います。
 先生から見て、多様性が組織内で確保されるべきとされる世の中で、経営者はどういうことに気を付けて経営していけばいいのでしょうか。頭ではきっと分かっていると思うのですが、実際にやると、なかなかそうはいかないと思っている人が多いと思います。アドバイス等があればいただきたいと思います。

森永:おっしゃるとおり、私もやっていて難しいとは思います。研究者の立場で多様性が大事だとか、インクルージョンというものを実現するために、こういうことをすれば、こういう次元が利くと言うことは簡単なのですが、実際にそれを実践したり、周りの人、会社の人たちに、それを腹落ちしてもらうということは難しいトピックだということは前提としてあると思います。

その上で、ダイバーシティー&インクルージョン、多様性を尊重するという話を越えて私たちが考えなければいけないことは、多様性と言ったときにはもう少し個人のでこぼこのようなものを引き受けるということだと思います。

例えばポジティブに言うと、強みを生かすということが、多様性を推進していくことにつながるわけですが、結構それも日本企業の中ではまだ躊躇されるところです。自分が得意だから、例えば若くて能力があるからといって、その人がばりばり自分の専門知識を生かして仕事のやり方を変えていくと、出るくいは打たれるという形で目を付けられてしまう人が多いと思います。そういったポジティブな強みを生かすことは基本的にはいいことだと、一般的には皆さんが思うのですが、同じ職場でそれが起こってしまうと、まだ受け入れられない場合があると思います。

強みを生かすことの反対は、弱みを受け入れるという話ですが、これも結構抵抗があります。例えば、これは最近割と受け入れられ始めていますが、病気のお子さんの面倒を見ないといけなくて急に休まなければならない、となったときに受け入れられるか、とか。関連して研究テーマの一つで、治療と仕事の両立の推進に取り組んでいます。例えばがんの手術が終わって、職場復帰できるようになったのだけれども、まだ通院はしないといけないなど、普通の人と同じ働き方が完全にはできない、といったことが生じます。このときに、それを相談しづらい雰囲気があったり、管理者が実際に自分の部下にそういう人が出てきたときには、仕事が回らなくなるから困ると理解を示してくれないという現状があります。

強みを生かすという側面も、弱みを受け入れるという側面も、少し突っ込んで考えてみると、まだまだ実現は難しいのが現状です。経営者の方が推進したい場合でも、現場が困るというメッセージを発してくることもあると思います。その中で多様性推進やインクルージョンについての理解を得るためには個別のケースについて、なぜそれぞれの違いを引き受けていくことが良いのか、を具体的に話していくことが良いのかなと思います。例えば将来の仕事の治療の両立のような話になると、誰もが直面する可能性がある問題です。ご自身も必要となるかもしれない世界なので、病気になっても就業を継続できる会社になろうという話は、自分に1歩引き寄せて考えてみると理解しやすいところかもしれません。そういったことを含めてうちの会社で取り組んでいくということを、その会社の理念や目指している目標の中に含めて語ることができると、単純に多様性を尊重しようという話よりは、自分もなるかもしれない将来を含んで受け入れていけると思います。そういったところを話していただくといいと思っています。

日本企業における管理者の在り方や位置付け

Q:大変参考になります。ありがとうございます。これから先生が見据えている研究領域や、今後の展望についてお聞かせいただけますか。

森永:今日お話したクラフティングの研究や、ダイバーシティーの研究も継続中なのですが、そういった中で感じてきたことは、多様性を尊重しようとすると、企業の管理者や、中小企業の社長さんもそうかもしれませんが、大変だなとあらためて感じるわけです。会社としては一貫したポリシーを持たないといけません。人事制度は基本的に一貫したものでなければならないわけですが、先ほど申し上げたように個別対応というものが従来よりも強く求められていると思います。

その人の強みを引き出してあげることも、弱みに寄り添ってあげることも求められるとなると、そのジレンマのようなものを管理者がどうしても引き受けざるを得ないように思います。従来から管理者は忙しいし、大変だと非常に言われてきていて、日本でも管理職になりたい人は減っているといわれる中で、そういった負担がまた管理者に増えていっているようなところがあります。

そういった個別対応と一貫性のジレンマを、いかに管理者が克服していくのか。その管理者を組織としていかにサポートしていけるのか。もしかしたら管理者の位置付けを大きく変えるということも、今後は必要なのかもしれませんし、そういったことがうまくできている会社もあるのかもしれないと思っています。日本企業における管理者の在り方や位置付けを研究できたらよいと思っています。

SDGsを一過性のブームで終わらせないために

Q:最後に、先生から見てSDGsについて、どういった見方をしているか、お考えをぜひ聞かせていただきたいのですが。

森永:健康経営の研究を始めた頃と比べるとSDGsというものがより広まり、健康経営などにも企業が前向きになってきた感じがあります。今自分が関心を持っているものを後押ししてくれるような社会の動きになってきたという意味で、基本的にはうれしく思います。

一方で振り返ってみると、随分昔もクオリティ・オブ・ワーキングライフを経営学の先生方も重視されていた時代がありました。日本でいうと20世紀後半から終わりぐらいの時期に、そういった研究もたくさん出たわけです。それが一時期、非常に盛り上がったわけですが、社会の関心の低下とともに、また研究も下がっていったという流れがあると感じています。そういう意味では、2030年が終わると、SDGsやウェルビーイングへの関心もまた下がっていくという話になると困ってしまいます。よく言われますが、これをどうブームで終わらせないようにどう定着させていくのか、ということを考えていかないといけないと感じています。

Q:ありがとうございます。企業経営者のみならず、マネジャーとして失敗の経験を経てきた、幅広いマネジメント層にとっても非常に学びが大きいのではないのかと思います。
もし可能であれば先生から最後にメッセージをお願いできればと思います。

森永:今回のインタビューでも管理者が直面する課題として一貫性と個別性のジレンマについて述べました。マネジメントする、ということは結局のところ様々なジレンマにうまく対処する、ということではないかと思います。おそらく企業の中でソーシャルの問題に目を向けるときにも、たくさんのジレンマが生じてきます。このジレンマをいとわずに、上手に解きほぐしながら、克服していただければと思います。

Q:本日はどうもありがとうございました。

武蔵大学経済学部経営学科教授 森永雄太氏

プロフィール

森永雄太(もりなが・ゆうた)

武蔵大学経済学部経営学科教授

兵庫県宝塚市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。
武蔵大学経済学部准教授を経て、2018年4月より現職。専門は組織行動論、経営管理論。著書は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方:健康経営の新展開』(労働新聞社)、『日本のキャリア研究—専門技能とキャリア』(共著、白桃書房)『職場のポジティブメンタルヘルス―現場で活かせる最新理論』(共著、誠信書房)等。2019年日本労務学会研究奨励賞、2020年日本経営学会論文賞、経営行動科学学会大会優秀賞、受賞。

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