
脱炭素――。世界がその理想を掲げる一方で、現実のエネルギー問題はむしろ深刻さを増している。AIやデータセンターの拡大による電力需要の急増、海外情勢に左右されるエネルギー安全保障、そして化石燃料依存からの脱却。
そうした課題に対し、いま日本で静かに注目を集めているのが「次世代型地熱発電」だ。火山国でありながら十分に活用されてこなかった“地下の熱”を、安定した国産エネルギーとして活かそうという挑戦である。大阪ガスで20年にわたりクリーンエネルギー技術の開発に携わってきた株式会社GeoDreams代表取締役社長の夘瀧(うたき)高久氏は、その可能性に未来を見出した一人だ。
従来型地熱の課題を覆す「クローズドループシステム(AGS:Advanced Geothermal Systems)」とは何か。なぜ今、地熱なのか。そして日本は“資源小国”から脱却できるのか――。エネルギーの常識を変える最前線に迫った。
追い続けた“環境に優しいエネルギー”への道
―本日はよろしくお願いします。夘瀧社長は大学卒業後に大阪ガスに入社されて以来、ずっとエネルギー関連の仕事を務めてこられましたが、なぜエネルギー事業に関わろうと思われたのでしょうか。
「広く社会に貢献ができる仕事をしたいと学生時代は考えていて、インフラ関連、特に土木工学の勉強をしていました。そういう想いで参加したインターンシップで訪問したのは商社の天然ガスの部門。私はそれまでインフラはハコモノを作ることという先入観があったのですが、このインターンでエネルギー供給も生活に欠かせない重要な事業だと強く感じて、就職先をエネルギー関連企業にしようと改めたんです。
中でも当時(2007年)の大阪ガスは、全国や海外で新事業を展開しようという機運が強い会社でした。それでここならエネルギーを起点に幅広くチャレンジできると感じ、大阪ガスを選びました。
配属されたのは、開発した新技術を事業化していくエンジニアリング部門でした。そこで天然ガスから水素を作って水素ステーション向けに供給する技術の開発や、下水処理場から出てくる下水汚泥からバイオガスを作って発電に使うといった技術の開発をずっと担当していたんです。」
―その中で今で言うSDGs、クリーンエネルギーに対する意識を強く持たれ始めた。
「当時は『環境に優しいエネルギー』と呼ばれていたこれらエネルギーの仕事に軸が絞り込まれ、以来20年間取り組んできました。
だから現在、声高に叫ばれている『脱炭素』社会実現へのハードルの高さは実感として持っていますし、これまで日本でも拡大した、太陽光発電や風力発電の限界も知っています。その中で地熱に注目したんです。」
熱水に頼らない――次世代地熱「AGS」の可能性
―御社は2022年に設立され、その後2025年に夘瀧社長が入社されています。それは地熱発電に可能性を感じられたからでしょうか。
「地熱発電はコスト面や技術面の課題があるので主流にはなっていない、という認識を以前は持っていました。
誰でも地下を掘っていけば熱くなっていることは知っていると思います。地熱発電はそこで熱せられた地下水をくみ上げてタービンを回す方法ですが、熱い地下水は火山付近の地下に貯留層を作っていることが多いので、発電施設はそういった地域に建設しなければならない。また多くの場合そこは森林に囲まれていたり、時には国立公園の中だったりします。地熱発電施設の建設にはそういった問題が絡んでくるのです。
そんな時に海外で次世代型の地熱発電が大きな潮流になっているのを知りました。それは今までのような熱水の貯留層を探して、そこからくみ上げて使うものではなかった。熱水を掘り当てるのは石油とか天然ガスを探すのと同様で、当たりはずれがあります。しかし地下はある程度の深さまで掘ればどこも高熱になっていますから、そこまで掘って熱だけを回収する、というのが次世代型の発想です。」

―それが御社の提案するクローズドループシステム(AGS)ですね。地下の熱水を利用するのではなく、地下深部にループを形成し、地上から送り込んだ流体を循環させて熱だけを抽出する方法です。
「次世代型地熱発電の開発によって、これまでネックになっていた熱水貯留層の有無であったり、山間部への建設といった問題を克服できるようになりました。それを知って、私もこの分野に踏み込んでいこうと思った。
実際に発電施設を作るにあたっては数十億、もしくは数百億円の費用のかかる国家的なプロジェクトになります。私は大阪ガス時代からそういう経験を重ねてきましたし、新技術の事業化も長年手がけてきたので、弊社の事業拡大に活かしたいと感じ入社しました。2025年のことです。」
―事業化への技術面の課題にはどんなものがあるのでしょうか。
「技術としては地下を探査するための技術と、硬い岩盤を掘削する技術の2つが地熱発電には重要です。地下の探査技術に関しては、海外で鉱山向けに開発されていた技術が転用できると分かり、その技術を開発したアメリカの会社と契約を結んで、日本での独占使用権を得ました。また掘削に関してもこの会社と共同でドリルの開発を進めています。これらの技術面の問題がクリアになったので、次はプラント建設・実用化、というロードマップが描けるようになったのです。」

“資源小国”日本を変える地熱発電のポテンシャル
―現在日本では、地熱発電に関してどのように受け止められているのでしょうか。
「国策として地熱発電を進めていかなければならない、という政府の方向性ではあります。現在データセンターの建設ラッシュが続いていますし、ウクライナやイランの情勢からエネルギーの安全保障問題も課題になっている。これら国内のニーズの高まりと技術開発のタイミングが今、一致しているのです。
次世代型では従来のように火山に近い地域に建設する必要が無くなり、もっと利便性の良い地域に建設できるようになるのですが、硬い岩盤を掘削していく必要はあるので、そのためのコスト問題は残ります。これからのロードマップとしては国の助成を得つつ実証を進め、2030年までに実用化のためのデータ収集と技術開発を完成させていきたいと考えています。」
―そもそも日本の地熱資源はどれだけの可能性を持っているのでしょうか。
「アメリカ、インドネシアに次いで世界で3番目の資源量と見込まれています。資源が乏しい、と言われ続けた日本において、これほど有望な資源は稀有ですし、それを使わない手はありません。確かに地熱発電にはエコロジーといったイメージがあるかと思いますが、それ以上にエネルギーの埋蔵量としての大きな可能性が秘められているのです。
また太陽光発電は昼間しか発電できませんし、風力でも風が吹かなければ発電できない。どちらの発電方法も実際には2割から3割程度しか稼働できていないのですが、対して地熱発電は常に地下から熱が放出されていますから、天候・昼夜に左右されにくく、高い設備利用率が期待できる。その点でも有用なのです。
設備の設置面積に関しても、地熱発電は地下の熱を活用するため、地上設備を比較的コンパクトに抑えやすいという特長があります。特に同じ発電量を得る場合、地上設置型の太陽光発電や、風車間に広い離隔スペースが必要となる風力発電に比べ、土地利用を大きく抑えられる可能性があります。

―ソーラーパネルが山肌を覆って景観を壊し、さらには土砂崩れが起きてしまうといった問題が取り沙汰されていますが、そのような心配もなくなると。地熱で置き換えられる日本の電力量はどのくらいになるのでしょうか。
「ポテンシャルとしては充分に日本全体の需要を満たす電力量を発電することができます。ただ、電力を安価に抑えて供給していくためにはイニシャルコストの償却などに時間がかかる。目標としては2050年の段階で国内電力量の1割から2割を地熱に置き換えることを目指しています。それだけでも化石燃料による発電分を下げることに繋がり、日本の主力電源の一翼を再生可能エネルギーが担うレベルにできる。そしていずれ、石炭や天然ガスも含めた化石燃料の発電を全て置き換えていきたい。」

増え続ける電力需要とエネルギー安全保障への危機感
―日本の人口は減少傾向にありますが、それでも電力の需要は伸びていくのでしょうか。
「資源エネルギー庁が公表した第7次エネルギー基本計画(2024年)によれば、人口が減少したとしても、大電力を消費するDX化やAIの普及などの理由により、電力消費量はむしろ増大していくと見込まれています(2022年度の年間消費量は9000億kWh、2040年度は年間最大1兆1000億kWhと予想されている。同調べ)。その一方で、脱炭素の推進によって現在主流の化石燃料を使った発電量は減らしていかなければなりませんから、そういう意味でも地熱発電には期待が集まっている。」
―どうしてもエネルギーインフラはライフラインとして安定供給を維持しなければならない反面、大きな議論の俎上に上がらない傾向があると思います。東日本大震災と新型コロナはエネルギー問題を考え直す機会だったと思いますが、結局国民意識の大きな変化には繋がらなかった。
「発電に限らず、日本は石油など様々なエネルギー資源を海外に依存しているので、エネルギー自給率を上げなければならない、という議論は数十年前からありますが、改善は進んでいません。戦争や災害などで危うくなると途端に大きな騒動になってしまう。しかし地熱発電は自分たちの足元にエネルギーが眠っているわけですから、海外で買って持ってこなければならないリスクはなくなる。
エネルギーがどこから来ているのか、断たれたらどうなるのか。それを真剣に考えて、ではどうやって用意すべきかを考えていかなければならない。私はエネルギーの仕事に携わることで、それをずっと考え続けてきましたから。」
―今後の展望についてお伺いします。
「国の指針もあり、今後数年で、地熱発電への注目はさらに増していくでしょう。ですから、できるかぎり早い事業化を、とは思っていますが、ことを急いて頓挫してしまうと社会実装が遠のいてしまうので、そこは慎重に進めています。しかしこれが事業として一般に認知されるようになれば大きなインパクトになる、という実感はあります。地熱発電が事業化し、安価に供給できるようになれば、他の事業会社や電力会社も本腰を入れて参入してくるでしょう。その大きな流れに載せていくことが一番肝心な部分だと考えています。
それにこの技術が実現すれば、海外の火山の多い国に輸出することもできる。地震に悩まされていた国にじつは膨大な再生可能エネルギーが眠っていることが分かったのですから。日本でそのノウハウを蓄積していけば、これからの時代の日本の強力な輸出産業の一つになる。だからこそ、日本から事業化していくことに意義があるのです。
―本日はありがとうございました。
株式会社GeoDreams
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