近年、企業におけるコンプライアンス意識の高まりや、建物の老朽化に伴う改修工事の増加などを受け、防災設備業界は堅調な成長を続けている。
千葉県柏市に本社を置く株式会社防災通信工業(社員数30名、年商2億3000万円:2024年7月期)は、工事と点検の両事業を展開。
双方を上手くリンクさせることで案件獲得の間口を広げ、顧客との長期的な関係を築いている。
それが、同社の大きな強みとなっている。業界の常識にとらわれず、社員を「家族」と呼ぶ澤邊康敬社長の信念、そしてその先に見据える未来とは。
工事と点検の両輪で顧客満足度向上を目指す
防災設備業界では、消防設備の新規設置や改修などの「工事」と、定期的な点検を行う「保守点検」の2つが主な業務となる。
多くの企業はどちらかに特化しているケースが多いが、防災通信工業は創業以来、両方を自社で一貫して行う体制を構築してきた。
「工事と点検の両方を自社で行うことで、お客様にワンストップサービスを提供できるだけでなく、技術力の向上や人材育成にも繋がると考えています。点検で得られた情報を元に、より的確な工事の提案を行うなど、両輪を回すことで顧客満足度の向上を目指しています。また、点検は一度契約すると長期的なお付き合いになるケースが多く、安定収入が見込めるという点も強みです。」(澤邊社長)
リーマンショックを機に家業へ。ホーチキで学んだ「お客様第一」の精神
幼少期から家業である防災設備の仕事を見て育ち、大学卒業後はイベント会社に就職した澤邊社長。
しかし、リーマンショックの煽りを受け、業界の先行きに不安を感じていた頃に、幼い頃から家族でお世話になっていたある会社の社長と道端でばったり出会う。
社長は、防災設備業界のリーディングカンパニーであるホーチキの子会社を経営しており、「いまの仕事が楽しめていないのならば、うちに来い」との誘いを受けて、転職を決意。
そこで、製品知識や技術はもちろんのこと、お客様との信頼関係を築くことの大切さを学んだ。
「ホーチキ勤務時代、お客様から『澤邊君が言うなら間違いない』と言っていただけたことがありました。それは、私にとって大きな喜びであり、自信に繋がりました。そして、お客様に喜んでいただくためには、社員一人ひとりの技術力や人間力を高めていくことが重要だと改めて実感しました。」(澤邊社長)
その後、家業である防災通信工業を手伝うようになり、兄、父の急逝に伴い事業を継承し、現在に至る。
貫くのは「借金するぐらいなら店を畳め」の教え
澤邊社長の父であり、先代社長は「借金するぐらいなら店を畳め」が口癖だったという。その教えを守り、澤邊社長は会社設立以来、無借金経営を貫いている。
設備投資や人材育成にお金がかかる事業でありながら、銀行からの融資を受けずに、いかに資金をやりくりし、事業を拡大してきたのだろうか。
「金融機関の融資を受けないできたため、成長への投資が思うようにできず、父に反感をもっていたときもありました。特に、当社のように工事と点検の両方を自社で行う場合、設備投資や人材育成にはお金がかかります。」と澤邊社長は語る。
ただ、父が亡くなった後、考えを改めたのだという。銀行から融資を受ければ一時的には楽になるかもしれない。
しかし、澤邊社長は、それは将来の自分たちへのツケを先延ばしにしているだけではないかと考えるようになった。
「昔は理解できなかったのですが、いまは先代の教えを大切に、無借金経営にこだわっています。それは、自分たちの力で稼いだお金で、自分たちの責任で事業を行い、成長を希求することを繰り返してきた延長線上に、今日があることを噛みしめることができているからかもしれません。父が頑なに守りたかったものを私としても受け継いでいきたいと思いますし、且つ安定した環境下で事業を営むこともまた、お客様や社員に対する責任であり、会社としての矜持だと信じているからです。」(澤邊社長)
國學院大學野球部キャプテン時代の経験
澤邊社長は、國學院大學時代、野球部のキャプテンとして100人以上の部員を率いていた経験を持つ。しかし、当時の彼にとって、それは決して平坦な道のりではなかったという。
「正直、心が折れそうになることもありました。100人を超える部員をまとめ、引っ張っていく中で、自分の考えが正しいのか、本当にチームを勝利に導けるのか、自問自答を繰り返す日々でした。指導者から厳しい言葉を浴びせられ、プレッシャーに押しつぶされそうになることもありました。しかし、そんな時、いつも心の支えになっていたのは、“仲間の存在”でした。」(澤邊社長)
「苦しい時こそ、チーム一丸となって乗り越えようとする仲間の姿、そして、どんな時でも自分を信じ、支え続けてくれる家族の存在があったからこそ、私はキャプテンとして、そして人間として成長することができたと思っています。そして、その時の経験が、今の私の経営者としての信念の礎になっています。」(澤邊社長)
社員を「家族」と想い、幸せを追求する理由
澤邊社長は、現場主義を重視し、自ら現場に足を運んでは社員とコミュニケーションを取っている。その中で、社員一人ひとりの個性や才能を最大限に引き出すことを心がけているという。
防災設備を通して、社会に貢献していく
無借金経営と社員重視の経営を両立させ、着実に成長を続ける防災通信工業。最後に、今後の展望について澤邊社長は力強く語った。
「私たちは、防災設備を通して人々の安全・安心を守るという重要な役割を担っています。これからも社員一人ひとりの力を結集し、お客様に最高のサービスを提供していくと同時に、社員が誇りを持って働ける会社、そして地域社会に貢献できる企業を目指して、挑戦を続けていきます。」(澤邊社長)