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宮﨑紗矢香さん(国立環境研究所、他) | #ソーシャルグッド雑談

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「ソーシャルグッドな活動をしている誰か」を訪ねて、その人との雑談を通じて活動内容や思いなどをご紹介していく「八木橋パチの #ソーシャルグッド雑談」。
第6回は宮﨑紗矢香さんと雑談をしました。実はおれ、宮﨑さんとは初対面。今回は、いつもは「ぴーすけ」とあだ名で宮﨑さんを呼んでいるという我有さんにリードしてもらいました。

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写真中央| 宮﨑 紗矢香(みやざき さやか)

1997年生まれ。大学時代、環境活動家グレタ・トゥーンベリさんのスピーチに心打たれ、Fridays For Future Tokyoのオーガナイザーとして活動。現在は国立環境研究所対話オフィスにてコミュニケーターを務めるかたわら、個人で気候変動に関する情報発信やプログラムを展開中。

写真左: 八木橋 パチ(やぎはし ぱち)

バンド活動、海外生活、フリーターを経て36歳で初めて就職。2008年日本IBMに入社。現在は社内外で持続可能な未来の実現に取り組む組織や人たちとさまざまなコラボ活動を実践し、取材・発信している。脱炭素DX研究所 客員研究員。WORK MILLにて「八木橋パチの #混ぜなきゃ危険」連載中。

写真右: 我有 才怜(がう さいれい)

2017年メンバーズ新卒入社。社会課題解決型マーケティングを推進するほか、気候変動への危機感や市民運動への興味から国際環境NGOでも活動中。2023年4月1日、メンバーズ社内に開設された「脱炭素DX研究所」の初代所長に就任。IDEAS FOR GOODと共にWebメディア「Climate Creative」運営中。
我有

ぴーすけと私は2年くらい前からの付き合いで、そもそものきっかけは、北海道東川町でフォルケホイスコーレという学びの場を行っているCompathを通じての出会いだったんです。だから今日は全員Compath卒業生ってことになりますね。
今回は自己紹介から始めませんか? ぴーすけは普段、どんなふうに自己紹介しているの? 聞いたことないから聞いてみたい。

宮﨑

自己紹介か〜、わかりました。今は国立環境研究所というところで「コミュニケーター」というポジションで働いています。

大学生のときにスウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんに触発されて、それからずっと「どうしたら環境にもっと真剣に向き合ってもらえるんだろう?」「みんなが社会構造に目を向けられるようになるには何をすればいいんだろう?」って、環境活動を行っています。

大学卒業後は環境活動に熱心な印刷会社に就職し、そこでSDGsや環境啓発系イベントなどの企画や運営などをやっていたんですが、1年半ほどで退社して、その後、さっき我有さんが話していた北海道のフォルケホイスコーレに行きました。そこでCompathの「地方での学びの場」の設立・運営に強く影響を受けて、「わたしも、気候変動という文脈で、地域に根付いた形で学びの場づくりをやりたいな」と思うようになったんです。

八木橋パチ プロフィール

パチの心の声

「おれもぴーすけって呼んでいいかな?」と最初に聞いてみたところ、「はい。…あ、でもやっぱり初対面ですしちょっと……」。宮﨑さんのとても素直な反応に、思わずニヤニヤしてしまいました。
その後、「環境活動に熱心な印刷会社に就職」「SDGsイベントの運営」という言葉を自己紹介で聞き、「あ! この宮﨑さんは、大川印刷でオンライン・イベントをやっていた人だ」とすぐに気がつきました。おれも何度か視聴したことがあります。たしか、『人新世の「資本論」』の著者の斎藤幸平氏がゲストの回もあったはず。
宮﨑

「NO MORE! SDGsウォッシュ」というシリーズイベントですね。はい。やってました。印刷会社を辞める前の最後に開催したイベントには、ゲストに斎藤さんに来ていただきました。あのときはリプレイも合わせると、500人くらいの方にご覧いただきましたね。

我有

気候危機と地域って、ぴーすけの中ではどういう意識のつながりかたなの?

宮﨑

わたしは斎藤さんの「自分たちの力で自分たちの暮らしを取り戻す」というコモンズの思想に強い影響を受けて、そこから地方に目を向けましたね。都会は主に消費する場所。自然が身近な地方の方が、持続可能性についていろんなものが目に見えて実体験としてわかるって。

それにコロナ禍もあって、都市部に暮らす意味を見いだせずにいたっていうのもあったし。

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現在スコットランド滞在中なのですが、居候中の家の飼い猫「Pompom」が「誰と話しているの?」と遊びにきました。
パチ

おれも『人新世の「資本論」』は読んだけど、もうはっきりは思い出せなくて…。「斎藤さんのコモンズ思想」ってどういう特徴があるんだろう?

大きな社会制度としての共産主義や社会主義ではなく、なにを共有財とするべきかを見直して、自分たちで公平に公正に共同管理していこう——そんな意味合いかな?

宮﨑

そうですね。わたしもコモンズにすごく詳しいってわけじゃないですけど、そんな理解で合っていると思います。

教育や医療がお金の領域、つまりビジネスに変えられてしまった社会で、本当にいいのかって。人びとは社会に出たらめちゃめちゃ働くけど、それで満たされことはなく、どんどん消費に走らされる。その背景にあるのは大量生産と大量消費…。気候変動がどんどんひどくなっていきます。でも、そういう社会構造には目が向けられることはない…。

温暖化という現象だけを見ていては視野が足りず理解が進みにくいこの問題に、政治や経済の領域からの視点を与えてくれたのが『人新世の「資本論」』だったんです。斎藤さんは風穴を開けてくれたんですよね、現在の資本主義社会やそれを前提に作られたSDGsでは、この構造は変えられないって。気候危機界隈では「よくぞ言ってくれた」っていう人が多かったですね。

そしてわたしの同世代では「あの本に救われた」っていう人も多いです。

我有

私も「よくぞ言ってくれた」って感じでしたね。私はコモンズという考え方自体にもともとなじみがなかったんですが、「地域で小さくやる」「成長を追いすぎない」「スローダウンする」というのはすごくしっくりきました。社会人になったときからずっと、「どうしてそんなに成長を求めなきゃいけないんだろう?」という疑問をずっと持っていたので。

気候危機を公正さや経済から捉え説明してもらったことで、「これまでのモヤモヤってこういうことだったのか!」って分かった感じでした。

宮﨑

ハッキリ「脱成長」っていってくれているのが目新しかったんですよね。それまでも「ドーナツ経済学」などはあったけど、「何をどこまで気をつけるべきか」という議論で止まっていた。でもそれを「脱成長なしに気候変動を止めるのは無理だよね」って、資本主義批判まで踏み込んで、タブーを打ち破ってくれたのが『人新世の「資本論」』でした。

もちろん価値観は人それぞれだし、難しい問題なので、みんなが同意するわけじゃないし受け入れられない人がいっぱいいるのも分かってはいますけど。

八木橋パチ プロフィール

パチの心の声

わりと最近、1年ほど前に出版された『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』という斎藤さんの別の著書を読んだのですが、正直、この本を読むことで「実社会において斎藤さんが考えるコモンズにアプローチする方法」が理解できた気がしました。『人新世の「資本論」』が「ひたすら理想を唱えた本」だとすれば、こちらの本は現実への架け橋というか、社会への実装方法まで踏まえて書かれているようなイメージが湧きました。とはいえ、『人新世の「資本論」』に強い反感を感じた人は、なかなか斎藤さんの他の著書を手に取らないんだろうなぁ…。

ところで、おれ自身もコモンズ的な思想に惹かれ、ここ数年間いろいろと本を読んだり話を聞いたりしてきた中で、「どうしてもここが解けない」と思っていることが1つあります。それは、地域という狭い関係性の中で強いネットワークを結び、公正に助け合う関係性を育み「社会関係性資本」を育んでいっても、それだけでは心許ない社会的セーフティーネットの領域は残るのではないか? ということです。
たとえば、とても信頼できる人たちに囲まれて暮らしていたら、自分が難病にかかり目玉が飛び出るほどの高額薬品や高額治療が受けられなくても、それを受け入れて残された日々を充実して暮らそうと思えるんじゃないかと思います。
でも、それが自分自身ではなく、自分の子どもだったらどうでしょうか。どれだけの大金であろうと工面して治療を受けさせたい。そうしたことに備える保険商品があるのであれば、社会関係資本ではなくてそちらのセーフティーネットを選ぶという人は少なくないのではないでしょうか。

つまり、「(社会ではなく)親が子どもを守り養育すべき」という家族規範と体系ががっちり組み込まれた社会においては、コモンズに振り切ることは難しく、それを実践できるのは若者だけなのではないか? と思うのです。子育てをしている親にとっては「これまで家族を守るために費やしてきた時間や生き方をリセットしなきゃならないなんて!」「それで安心できる将来を子どもに手渡せるとでもいうつもり!」という、恐怖や怒りの対象にコモンズがなってしまうのももっともな気がするのです…。
どうですかね、宮﨑さん?
宮﨑

たしかに、実際に行動に移すのは相当難しいとわたしも思います。そしてコモンズの活動が、気候変化を緩めるところまでに至るには、かなりの時間がかかってしまうだろうとも思います。

でも、「行動に移すことは難しくても、理解することはできるのではないか」ということを、あるオンラインイベントで斎藤さんが話していました。わたしもそう思うんです。理解できなければ対話することも難しいですよね。だけど相手の考えを理解できれば、その背景にあるものについて一緒に考えることができます。

斎藤さんの主張は激しいので、「それは無理でしょ」って反応してしまう人がいるのはわかります。でも、根本的に何を伝えようとしているのかは「理解できない」話ではないはずです。…パチさんが言うように、受け入れ方に年代による違いはあるのかなとは、わたしも思いますけど。

我有

理解できるかできないかっていう今の話って、気候科学をちゃんと受け止められるか受け止められないかっていう話にも通ずるところがあると、聞きながら考えてたんです。科学的な事実の積み重ねからくる現象だからって、誰もがそれを真っすぐ受け入れられるかというと…そんなことないですよね。

この話って、この間の「Climate Fresk(クライメート・フレスク)」にも通じるところがありますよね? パチさん。

ぴーすけは「Climate Fresk(クライメート・フレスク)」って知ってる? 世界で最も信頼性が高いとされる気候変動レポート「IPCC評価報告書」を基に作られた3時間のワークショップで、先日、パチさんと一緒に私も参加してきたの。

前半はIPCCで示されている科学的な事実に則ってワークを進めていくんだけど、後半はもっと情緒的な部分にフォーカスしていき、「どんな気持ちになったか」をみんなでシェアしていくのね。私はこれがとても重要だなぁって感じたの。
そしてこれって、ぴーすけが主催している「気候文学対話」の話とも関連しているなと思って。パチさんにも気候文学対話の話をシェアしてもらいたくて。

宮﨑

気候文学対話をすごく簡単に説明すると、読書会兼対話会という感じのものです。そしてこの対話が、気候変動を考える上でも個人の心にとっても重要な役割を担えるんじゃないかとわたしは思っているんです。

パチ

もうちょっと具体的に知りたい! どんなふうに進めるの?

宮﨑

月に一冊本を決めて、みんなでその本について話すんですけど、読書と対話という活動を通じて気候変動というテーマを文学的に考える時間がまず持てます。そしてそういう時間を持つことが、自身の内面的な成長や、ひいては社会との関わり方にもつながっていくんじゃないかと思うんです。

わたし、学生時代に出版社のミシマ社でお手伝いをさせてもらっていた時期があって。ミシマ社のウェブマガジンに、森田真生さんという独立研究者の方が『聴し合う神々』という連載をされていたんです。森田さんが書かれていたものの中に、「もちろん科学的なデータに基づいたものをベースに会話するのは大切だ。だけど、現在の気候危機と共存していくには、科学を超えた文学的な意識が必要になっている。そしてこれは人類にとって、気候による危機だけではなく文化や想像力の危機でもある」ということを書かれていて、まさにその通りだなと思ったんです。

森田さんの言葉をわたしなりに勝手に受けとり、Compathが東川町で行っている対話と内省の時間のように、わたしは「気候文学対話」をその実践的なものと位置付けて開催しているんです。

参考 | 聴し合う神々(第2回)

パチ

メッチャいいじゃん! これまでどんな本を取り上げてきているの? 特におすすめの本を教えて。

宮﨑

『僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回』『大いなる錯乱』『複眼人』『グスコーブドリの伝記』『沼地のある森を抜けて』…かなりいろいろな本を取り上げてきてますね。

…特におすすめ…うーん、難しいですね。先ほどもお話した森田真生さんの『僕たちはどう生きるか』は別格です。それ以外だと、台湾民俗的神話×ディストピア×自然科学×ファンタジーの『複眼人』はメチャクチャおもしろかったですね。あとは、ここだけ聞くと何が何だかわからないと思いますけど、ぬか床から人が出てくるっていう梨木香歩さんの『沼地のある森を抜けて』も。

あ、あと村田沙耶香さんの『信仰』という本に収められている短編『生存』もすごくおすすめです。

我有

『マツタケ ~不確定な時代を生きる術~』もすごくいいよね。私も何度か参加していて、すごくおもしろいですよ。パチさんも好きだと思う。

八木橋パチ プロフィール

パチの心の声

この後もハンナ・アーレントの『人間の条件』に書かれている「労働・仕事・活動」の話や、イギリスのトットネスという町の近くにあるシューマッハ・カレッジでの「ディープタイムウォーク」体験(なお、宮﨑さんの背景画像はシューマッハ・カレッジの写真だそうです)など興味深い話がどんどん出てきて、すっかり時間が足りなくなってしまいました。上記についてはぜひ宮﨑さんのウェブページからご覧ください。

最後に、これは絶対聞いておきたいと思っていた、国立環境研究所での「コミュニケーター」の具体的な仕事内容について教えてもらいました。

宮﨑

わたしは「対話オフィス」という部署のコミュニケーターで、研究と社会をつなぐのが仕事です。実際にやっているのは、記事を書いたりイベントやワークショップをオーガナイズしたりという広く社会に向けたものと、もう1つ、研究所内の対話を促進するという大事な仕事もあります。

我有

ミヤザキが行く!」ってオンライン連載があるんですけど、おもしろいですよ。科学的知性と感性をつなげていく、社会にとって本当に重要な仕事をぴーすけはやっているんだなって読んでいると感じます。

この間はIPCCを研究している研究者に突撃して、その中で今日話したようなことも書いていたよね。

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この雑談のあと、上記画像のKari De Pryckさん(科学技術社会論の専門家)インタビュー記事を読んだらすっかりハマってしまい、これまでの『【連載】ミヤザキが行く!研究者に“突撃”インタビュー』を一気読みしました。超オススメです!
宮﨑

わたしもコミュニケーターのような、専門家と市民をつなぐような仕事は今度さらに必要とされると感じています。そして本当に難しい仕事です。

わたし自身、この何年か気候危機に向き合い自分なりに試行錯誤してきましたが、いま改めて、社会が変化するまでには時間がかかることを実感しています。あ、でも諦めたり絶望したりする気はまったくないですよ。ただ、気候不安に苦しんでいる若者の姿には、いつも心引き裂かれる思いを感じています。

これから世界はどうなるんだろう。そこで自分はなにができるんだろう。そういう不安はわたしにもあります。それでも、この社会で生きていくために、手探りで進んでいくつもりです。今日はありがとうございました。

活動に集中しながらも1つの視座に捉われ過ぎない。そして常に状況に向き合い問い続ける——宮﨑さんのその姿勢に、おれももっと実践を意識し、学びと循環させていこうと考えさせられました。
さて、次は誰に雑談をお願いしようかなぁ。

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ライター:

バンド活動、海外生活、フリーターを経て36歳で初めて就職。2008年日本IBMに入社し、社内コミュニティー・マネージャー、およびソーシャル・ビジネス/コラボレーション・ツールの展開・推進を担当。持続可能な未来の実現に取り組む組織や人たちと社内外でさまざまなコラボ活動を実践し、記者として取材、発信している。脱炭素DX研究所 客員研究員。 合い言葉は #混ぜなきゃ危険 #民主主義は雑談から #幸福中心設計

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