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特定非営利活動法人たんぽぽの丘

https://tanpoponooka.com/

大阪府 大阪狭山市山本中1358番地

シングルマザーが挑む福祉とアートの融合 逆境を乗り越え、障がい者の未来を拓く

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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障碍者施設たんぽぽの丘の野邑浩子理事長
特定非営利活動法人たんぽぽの丘 野邑浩子理事長(提供:特定非営利活動法人たんぽぽの丘)

シングルマザー、心理師、障がい者施設理事長、そしてアート関連事業の経営者。複数の顔を持つ野邑浩子(のむら・ひろこ)さんは、逆境を乗り越えながら、障がい者の自立支援と社会参加を促進するための挑戦を続けている。

障がい者の賃金底上げを目指す「たんぽぽの丘」

障碍者施設たんぽぽの丘
たんぽぽの丘の外観(提供:たんぽぽの丘)

大阪府大阪狭山市にある障がい者施設「たんぽぽの丘」は、就労継続支援B型と生活介護の2つの事業を展開し、38名の利用者が日中活動を行っている。大阪狭山市には約20の障がい者施設があり、「たんぽぽの丘」はその中でも規模が大きい施設の一つだ。

「利用者の平均年齢は26歳と若く、親御さんもまだ現役世代の方が多い。そのため日中活動のデイサービスを提供しています。」と野邑さんは説明する。

就労継続支援B型事業では、大阪狭山市役所から委託を受け、市内公共花壇の管理業務を担っている。利用者は花壇の植え替えや水やり、土の入れ替えなどを行い、賃金を得ている。

しかし、大阪府における障がい者の平均賃金は約13,681円と全国最低水準(厚生労働省 令和4年度工賃(賃金)の実績についてより)。「関東では高いところは40,000円以上だしている施設もありますが、全国平均も17000円なので、これでは生活が成り立ちません。」と野邑さんは現状を嘆く。「たんぽぽの丘」では、平均賃金を2万円程度にまで引き上げてはいるものの、現状には満足していない。

「彼らが作ったものの価値を適正に評価し、正当な賃金を支払いたい。そのためには、彼らの仕事を生み出す仕組みを作ることが必要です。」

アートの可能性を信じて 誕生した「mothers.village」

そこで野邑さんが着目したのが、利用者が描くアート作品だった。個性豊かで力強い作品の数々を、製品化して販売することで、新たな収入源を確保しようと考えたのだ。2023年、野邑さんはアート関連事業を行う「合同会社mothers.village」を設立。利用者の描いた絵をラベルに使用したクラフトビールを、大阪渋谷麦酒と共同開発し、販売を開始した。

「最初はカレンダーを作って色々な企業に送りましたが、ほとんど反応がありませんでした。そんな中、知り合いのビール会社のオーナーにダメ元で見せたところ、オーナーの娘さんがアートを学んでおり、この絵の可能性に気づいてくれたんです。」と、野邑さんは当時を振り返る。

このコラボは成功を収め、現在では12種類ものラベルでビールが販売されている。ラベル以外にも、絵画を額装して販売したり、不動産会社の事務所に飾ってもらうなど、販路の拡大にも力を入れている。

たんぽぽの丘の障がい者が描いたアートがラベルとなっているクラフトビール
たんぽぽの丘の障がい者が描いたアートがラベルとなっているクラフトビール(提供:たんぽぽの丘)

DV、難病… 幾多の困難を乗り越えて

野邑さんは、これまでの人生で幾多の困難を経験してきた。結婚式の直前に婚約者を亡くし、再婚相手からのDV、シングルマザーとしての子育て、子供の発達障がい、そして自身の難病。想像を絶する苦難を乗り越えてきた経験が、今の野邑さんの原動力となっている。

「あの時、マウスを殺す実験に耐えられなくなって心理学の道に進んだんです。倫理的に、自分が納得できる仕事をしたかった」

大学院で臨床心理学を学び、産業カウンセラーの資格を取得。病院で看護師のカウンセリングなどを担当していたが、自身の難病である線維筋痛症を発症し、退職を余儀なくされた。

「全身にガラス片が走るような激痛が、常に襲ってくるんです。薬も効かず、とても仕事ができる状態ではありませんでした」

自宅でカウンセリングルームを開業した後、縁あって「たんぽぽの丘」で働き始めた。当初は心理師としてスタッフのカウンセリングを担当していたが、持ち前の行動力と経営手腕で、わずか2年で理事長の座に就いた。

しかし、時間に余裕があると思っていたが、就任後の残高は50万円。20名以上のスタッフを抱え、毎月数百万円の支出がある中で、野邑さんは途方に暮れた。

「職員の給料の支払いを遅らせてもらったり、家賃の支払いを待ってもらったり、とにかくできる限りの経費削減を行いました。3ヶ月間は無給で働き、毎日不安で押しつぶされそうでした」

それでも野邑さんは諦めなかった。職員と話し合い、協力を得ながら、施設の経営を立て直していった。

介護福祉士取得への挑戦

経営再建に奔走する中で、野邑さんは新たな目標を掲げた。それは、介護福祉士の資格を取得することだった。

「私は心理師の資格しか持っていなかったので、介護の現場では『野邑さんは分からないから』と煙たがられることもありました。現場の声を理解し、職員と対等に渡り合うためには、介護の資格が必要だと痛感したのです」

介護福祉士の資格取得には、3年以上の実務経験が必要となる。野邑さんは働きながら専門学校に通い、2022年、ついに介護福祉士の資格を取得した。

「専門学校での勉強は、実技が中心でした。高齢者の体位交換の方法や、障がいのある方の着替えの介助など、実践的なスキルを学ぶことができました。」

デジタルアートで未来を拓く

野邑さんの挑戦は、まだ終わらない。現在は、障がい者のアート作品をデジタル化し、より幅広い分野で活用していくための事業展開を計画している。名刺や服のデザインへの活用、NFT化など、可能性は無限に広がっている。

「彼らの才能を最大限に引き出し、社会で活躍できる場を提供したい。そして、障がい者への理解を深め、インクルーシブな社会の実現に貢献したいと考えています」

子供の発達障がい、自身の難病、そして施設の経営危機。数々の困難を乗り越えてきた野邑さんの目は、未来への希望に満ち溢れている。彼女の挑戦は、障がいのある人たちの未来を明るく照らし、社会を変える力となるだろう。

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ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。社会的養護の自立を応援するヒーロー『くつべらマン』の2代目。 連載: 日経MJ『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

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