
PayPay、楽天ペイ、d払い。スマホ決済が日常に定着した今、JR東日本が新たな決済サービス「teppay(テッペイ)」を投入した。10月20日に始まったこのサービスは、Suicaの残高上限2万円を超える買い物や、家族間の送金にも対応する。国内のコード決済市場ではPayPayが圧倒的な存在感を誇るなか、後発のteppayはどこまで食い込めるのか。利用者にとってのメリットと、JR東日本が描く戦略を探った。
JR東日本「teppay」開始 Suicaの2万円上限を超える買い物が可能に
JR東日本は2026年10月20日、モバイルSuicaのアプリで利用できる新しいコード決済サービス「teppay」を開始した。従来のSuicaはチャージ残高の上限が2万円で、鉄道やバスの利用、コンビニなどでの少額決済が中心だった。新たに加わったteppayでは、本人確認を済ませれば最大30万円までの決済が可能になる。ビューカードを連携すると、クレジットカードの利用限度額内で事前チャージせずに支払うこともできる。
teppayは、Suicaのチャージ上限を引き上げる仕組みではなく、モバイルSuicaのアプリ内に追加された別の決済サービスだ。新たなアプリをダウンロードする必要はなく、既存のモバイルSuicaから利用できる。teppay残高は家族や友人に送ることもでき、受け取った残高をSuicaにチャージすれば交通費にも使える。2027年春にはモバイルPASMOへの対応も予定されている。
PayPay66%、楽天ペイ35% すでに決済市場は強者が独占
新たな決済サービスにとって最大の壁は、先行するPayPayの存在だ。MMD研究所が2026年7月に実施した調査によると、QR・バーコード決済を利用している人のうち、PayPayを利用している割合は66.0%。楽天ペイが35.3%、d払いが30.8%で続いた。上位3サービスが強い存在感を示しており、後発サービスが入り込む余地は簡単には見つからない。
この数字は複数回答による利用率で、決済金額の市場シェアではない。それでも、PayPayが多くの利用者にとって日常的な支払い手段になっていることが分かる。楽天ペイには楽天ポイント、d払いにはドコモのサービスとの連携があり、それぞれ独自の経済圏を築いてきた。消費者はすでに使い慣れたアプリを持ち、ポイントもためている。teppayが利用者を増やすには、わざわざ新しい支払い方法を選ぶ理由が必要になる。
モバイルSuicaはスマホのタッチ決済で首位 JR東日本の最大の武器
一方、JR東日本にも大きな強みがある。同じMMD研究所の調査では、スマートフォン式の非接触決済利用者のうち、モバイルSuicaの利用率は30.8%で首位だった。JR東日本によると、モバイルSuicaの発行枚数は約4500万枚以上。すでに多数の利用者がいるアプリに決済機能を追加できることは、新規参入企業にはない利点だ。
JR東日本は2031年度にモバイルSuicaの発行枚数7000万枚を目指している。これまで鉄道利用を中心としてきたSuicaを、日常の買い物や送金にも使ってもらう狙いだ。利用者をゼロから集める必要がない点では有利だが、モバイルSuicaを持っていることとteppayを使うことは別である。通勤・通学でSuicaを使う人が、コンビニや飲食店でPayPayからteppayへ切り替えるかどうかが普及の鍵を握る。
最大20%還元でPayPayに対抗 ただし通常還元率は0.5%
利用者を取り込むため、JR東日本が打ち出したのが大規模なポイント還元だ。11月4日から12月25日まで、対象店舗で500円以上をteppayのコード決済で支払うと、利用金額の20%分のポイントを還元するキャンペーンを実施する。事前エントリーが必要で、還元上限は1人5000ポイント。条件を満たして2万5000円利用すれば、上限の5000ポイントを受け取れる計算だ。予算上限に達した場合は早期終了する可能性もある。
ただし、これは期間限定の特典だ。通常、teppay残高で支払った場合のポイント還元率は0.5%で、PayPayの残高払いと同水準となる。teppayのビューカード連携支払いでは原則1%のJRE POINTが付与されるが、ポイントだけで他社を圧倒する仕組みにはなっていない。20%還元によって利用者を増やせても、キャンペーン終了後に使い続けてもらえるかが課題となる。
使える店は全国170万か所以上 PayPayとの差を縮められるか
決済サービスの普及を左右するのが、使える店舗の数だ。teppayは、JR東日本グループの駅ビルや商業施設に加え、JCBが展開する「Smart Code」に対応した店舗など、全国170万か所以上で利用できるとされる。さらに「teppay JCBプリカ」を発行すれば、JCBブランドに対応した国内のオンラインショップでも決済できる。
利用者が注意したいのは、Suica対応店とteppay対応店が異なることだ。Suicaのマークがある店舗でも、teppayのコード決済に対応しているとは限らない。また、teppay残高をそのまま鉄道の改札で使うことはできず、乗車するにはSuica残高へのチャージが必要になる。PayPayなどの既存サービスは利用できる場所が幅広く、消費者も支払い方法に慣れている。teppayが普及するには、駅周辺だけでなく普段の買い物で不便なく使えることが欠かせない。
決済だけでは終わらない JR東日本が狙う「Suica経済圏」
JR東日本がteppayに力を入れる理由は、決済手数料やポイントサービスだけではない。鉄道を利用する人が、駅の外でもSuicaを使って買い物をするようになれば、JR東日本との接点は日常生活全体に広がる。駅ビルや商業施設、ホテル、旅行、地域サービスと決済を結びつけることで、グループ全体の利用を促すことができる。
その一環として、teppayではJR東日本グループの共通ポイント「JRE POINT」との交換や、特定地域・店舗で使えるデジタルチケット「バリチケ」、クーポンなども提供する。地域の店舗や商業施設で独自の特典を展開できれば、全国一律のポイント還元とは異なる魅力を生み出せる。PayPayが全国規模の加盟店網を強みにしてきたのに対し、JR東日本は鉄道利用者と駅周辺の商業施設を結びつける戦略を描いている。
PayPayから乗り換えるべき? teppayが選ばれる条件
現時点で、PayPayや楽天ペイを日常的に使っている人が、すべての支払いをteppayへ切り替えるメリットは大きくない。通常のポイント還元率で圧倒的な差があるわけではなく、使える店舗にも違いがある。一方、モバイルSuicaを日常的に利用する人、ビューカードやJRE POINTを活用している人、家族に交通費を送る機会がある人にとっては、便利な選択肢となる。11月から始まる20%還元キャンペーンも、試してみる理由のひとつだ。
注目すべきは、JR東日本がPayPayと同じ土俵で利用者を奪い合うだけでなく、すでに広く使われているSuicaを入口にしていることだ。移動のために開いたアプリが、そのまま買い物や送金にも使われるようになれば、決済サービスの選び方そのものが変わる可能性がある。
キャッシュレス決済は、ひとつに絞る時代から、用途によって複数を使い分ける時代になっている。teppayも当初はPayPayなどとの併用から広がっていくだろう。そこで利用者が実感する便利さを生み出せるか。後発のJR東日本にとって、サービス開始後の利用定着こそが勝負となる。



