
入院患者を無断撮影し、「まじ暇」「臭すぎ」などの言葉を添えて動画を共有していた看護師2人が懲戒解雇された。問題が起きたのは、千葉県松戸市の千葉西総合病院。動画は仲間内で共有された後、Xで拡散した。さらに北海道や大阪などでも、医療従事者による不適切なSNS投稿が相次いで表面化している。患者のプライバシーを守るべき病院で、何が起きているのか。
千葉西総合病院で患者を無断撮影 夜勤中の動画がXで拡散
問題の動画が撮影されたのは、2026年10月5日の夜勤中だった。千葉西総合病院の女性看護師2人が、ベッドに横たわる患者や院内の様子を私的に撮影。看護師自身の姿も映った動画には、「まじ暇」「つまんねえ」「臭すぎ」などのテロップが付けられていた。
動画は別の看護師1人を含む3人のグループで共有されていたが、その後、Xに流出。10月8日、同じ徳洲会グループの別の病院の職員から連絡を受けた千葉西総合病院は、関係する看護師3人を自宅待機とし、調査を開始した。
病院は患者と家族への説明や謝罪を進めるとともに、SNS運営会社へ動画の削除を依頼。10月10日には懲戒委員会を開き、撮影や動画作成、投稿に関与した女性看護師2人を懲戒解雇、閲覧していた看護師1人を厳重注意とした。
三角和雄院長は公式サイトで謝罪し、職員の管理体制や教育体制に不備があったことを認めた。動画の撮影から処分の決定まで、わずか5日間。私的なSNS投稿が医療機関全体の信頼を揺るがす事態となった。
韓国発「setlog」とは? 3人だけの動画が外部に流出
今回使われたのは、韓国発のVlogアプリ「setlog(セットログ)」だ。Vlogとは、日常生活を短い動画で記録するビデオブログのこと。setlogは動画を編集し、友人など限られた相手と共有できるサービスとして利用されている。
10月19日付の東洋経済オンラインによると、看護師らは不特定多数に公開するつもりではなく、3人のグループ内だけで共有する認識だったという。
限られた相手とのやり取りは、外部に公開するSNSよりも気軽になりやすい。しかし、共有した動画は保存や転載によって、本人の意図しない場所へ広がることがある。今回、誰がどのような経路で動画を持ち出したのか、詳しい経緯は公表されていない。
ただ、動画が外部に流出する以前に、患者を無断撮影した行為そのものが問題だった。患者は治療や介助のため、医療従事者に身体や健康状態を見せることがある。そこには、医療に必要な情報を適切に扱ってもらえるという信頼がある。
今回の看護師らは、その立場を利用して撮影した映像を私的な動画に使用していた。公開範囲が3人だけだったとしても、患者の同意を得ずに撮影・共有していた事実は変わらない。
JR札幌病院、柏厚生総合病院でも発覚 相次ぐ患者のSNS投稿
千葉西総合病院の問題が注目されるなか、各地の医療機関でも患者の画像や動画を私的なSNSへ投稿していた事例が明らかになった。
北海道のJR札幌病院は10月13日、職員が患者の映った動画をSNSに投稿していたことを公表。関与したのは勤務歴1年未満の20代の看護師2人で、1人が私物のスマートフォンで患者を撮影し、もう1人がSNSに投稿したという。病院は患者や家族への謝罪を進め、全職員を対象とした調査にも乗り出した。
10月15日には、千葉県柏市の柏厚生総合病院も、職員が院内で撮影した画像や動画を個人のSNSに投稿していたとして謝罪した。
大阪市の医誠会国際総合病院でも患者の個人情報を含む不適切な投稿が問題となっている。同病院は7月に問題を公表していたが、10月に再び情報が拡散したことを受け、改めて説明した。
各病院で撮影の目的や投稿内容、発覚した経緯は異なる。一方、患者の情報や姿が医療業務とは関係のない私的なSNSに持ち込まれた点は共通している。
複数の病院で同様の問題が明らかになったことで、職員個人のモラルだけでなく、医療機関がスマートフォンや画像データをどのように管理しているのかにも関心が集まっている。
SNSで看護師への批判が拡大 動画の再拡散にも懸念
千葉西総合病院の動画がXで広まると、患者を無断撮影した行為や、映像に付けられた言葉への批判が相次いだ。
「まじ暇」「臭すぎ」といった表現が医療従事者の動画に使われていたことも、反発を招いた理由の一つだ。看護師には患者の身体に触れ、病状や生活状況を知る機会がある。そんな立場にある人が患者の姿を私的な動画に使用したことに、強い不信感が向けられた。
一方、今回の騒動には別の問題もある。看護師を批判するために、患者が映った動画を転載すれば、結果として患者の姿をさらに多くの人へ広めることになる。
撮影された本人にとっては、動画の削除を望んでいても、転載された映像をすべて回収することは難しい。SNSで問題を告発する行為が、被害を受けた人のプライバシーを再び侵害する可能性もある。
病院側には、患者への説明や謝罪に加え、拡散された画像や動画への継続的な対応が求められる。
看護師2人の懲戒解雇で十分か 千葉西総合病院の再発防止策
千葉西総合病院は、全職員を対象に個人情報保護やSNSの取り扱いに関するeラーニングを進め、患者の権利や医療倫理についても改めて教育する方針を示している。
ただ、研修を実施するだけで、同様の行為を防げるとは限らない。医療現場では、傷の状態や治療経過を記録するため、業務上の撮影が必要になる場合もある。その一方、私物のスマートフォンを使用した撮影や、画像の私的な保存・共有には明確なルールが必要だ。
例えば、業務上の撮影に使用する端末を指定し、画像の保存先や閲覧権限を管理する方法が考えられる。私物端末の扱いを明確にするほか、不適切な撮影を見つけた職員が速やかに報告できる仕組みも重要になる。
今回の動画は看護師3人のグループで共有されていた。職員間のやり取りだからこそ、問題を指摘しにくかった可能性もある。こうした場面で声を上げられる職場環境が整っているかどうかも、再発防止を考えるうえで欠かせない。
病院側が今後示すべきなのは、研修の実施回数や受講率だけではなく、現場の行動がどう変わったかという成果だ。患者の撮影ルールが徹底されているか、不適切な行為を把握したときに報告できるか。具体的な運用と点検が必要になる。
患者が病院を信頼できるために 問われる医療現場の意識
千葉西総合病院の問題では、看護師2人の懲戒解雇という厳しい処分が下された。さらに札幌、柏、大阪などの病院でも不適切な投稿が明らかになり、医療現場でのSNS利用が改めて問われている。
患者は治療のために、自分の身体や私生活に関わる情報を医療従事者へ預ける。その情報を守ることは、適切な治療を提供することと同じく、医療機関の重要な役割だ。
今回の騒動で患者が抱いた不安に応えるには、個々の職員への処分に加え、撮影や情報共有のルールが日常業務の中で守られていることが重要になる。
千葉西総合病院が今後、どのような管理体制を整え、患者の信頼を回復していくのか。その取り組みは、同じ課題を抱える全国の医療機関にとっても参考になるはずだ。



