
商品を選ぶとき、価格や見た目だけでは分からないことがある。誰が、どんな土地で、どのような思いを込めてつくったものなのか。スコープが新規事業として展開するECサービス「目利き市場」は、全国各地の作り手を訪ね、商品の背景にあるストーリーとともに届けようとしている。事業の原点には、石川県輪島市で目の当たりにした喪失があった。買い物を作り手への応援につなげ、地域の価値を次の世代へ受け継ぐための取り組みを紹介する。
現地で人に会い、自分の目で確かめてから届ける
全国各地には、作り手の思いが込められながら、まだ広く知られていない商品がある。スコープが展開するECサービス「目利き市場」が届けたいのは、そうした“いいもの”と、その背景にあるストーリーだ。商品だけを紹介するのではなく、誰が、どのような土地で、何を大切につくっているのかまで伝えることを重視している。
スコープは、広告宣伝・販売促進の調査や企画、制作・運用、デジタルコミュニケーションなどを手がける企業だ。「目利き市場」は、同社が新規事業として始めた取り組みである。
そのために動くのが、「出会いの目利き人」と呼ぶ担い手である。実際に現地へ足を運び、生産者や事業者と対話する。そこで扱うものを自ら体感し、確かめたうえで、消費者が理解し、共感し、選びたくなる形へと情報を編集する。作り手と顔を合わせること、商品を自分の目で見極めることが、サービスの出発点になっている。
商品を手に取る側には、そのものを選ぶ納得感を。作る側には、自分たちが積み重ねてきた仕事への誇りを。目利き市場は、その両方を大切にしたいと考えている。作り手の存在やものづくりへの思いを知ったうえで、消費者が選べるようにする。そのために、商品をどう伝えるかにも力を注ぐ。
想定するのは、日頃から買い物を通じて地域を応援してきた人や、各地の暮らしやものづくりに興味がある人たちだけではない。いつもの晩酌や食事を、普段とは違うもので楽しみたい人にも届いてほしいという。地域とのつながりを求める人に限らず、日々の食事を楽しむという身近なところからも、サービスを知ってほしいと考えている。
失われていく輪島の風景が、事業を考える原点になった
目利き市場の構想には、石川県輪島市での経験が深く関わっている。目利き市場を立ち上げた関係者にとって、輪島市は妻の実家がある土地だった。コロナ禍に加え、令和6年能登半島地震による被害を受け、そこに当たり前にあった物や風景が失われていく姿を目の当たりにした。何もできていないというもどかしさが、目利き市場を考え、スタートさせる原動力になったという。
地域で受け継がれてきたものが失われる問題は、災害による被害だけではない。目利き市場が課題として捉えているのは、生産者や事業者の認知度と利益、そして後継者がいないことによる廃業だ。魅力があっても商品としての差別化が十分に進まず、価格競争に巻き込まれてしまうことがあるという。商品を卸すことができても、間に入る流通経路が多いことで、生産者の手元に残る取り分が少なくなる場合もある。
そこに後継者不足が重なると、事業そのものを続けることが難しくなる。目利き市場では、そうした廃業によって、地域にしかない技術や文化まで失われつつあると受け止めている。商品が知られ、選ばれることだけでなく、地域で積み重ねられてきた仕事が続いていくことを望んでいる。
認知や利益の拡大、廃業を減らすことは、目利き市場がこれから向き合っていく課題だ。個々の商品の魅力を伝える取り組みを通じて、作り手の仕事が次の世代に残ることを目指している。
「いつ買えるの?」という声が、次へ進む力になる
目利き市場は、多くの人の協力やつながりによってスタートした。商品づくりに関わる人たちに企画やデザインを見てもらうと、驚きや笑顔が返ってくることがあるという。そうした反応は、取り組みを先へ進める力になっている。商品づくりの段階から、作り手や協力者との関係が支えになっている。
消費者から届く言葉も印象深い。ポップアップショップやイベントでは、実際に商品を口にした人から「美味しい」という声が寄せられた。さらに「これ、いつ買えるの」「どこで買えるの?」「買うの楽しみにしています」と、購入を心待ちにする言葉が続くこともある。商品を味わった人が、その後の販売にも関心を寄せてくれる。その反応が、サービスを続けていく励みになっている。
生産者や事業者、協力者からは「池田さんだから、一緒にやっている」という言葉をもらったこともあるという。サービスが多くの人の協力で始まったことを伝える、忘れられない言葉の一つになっている。
商品の向こうにいる「誰か」を知る買い物へ
商品を選ぶとき、「その商品の向こうにいる誰か」のことを少し想像してほしい。目利き市場が買い手に呼びかけるのは、そうした視点だ。どんな土地で、どのような思いを込めてつくられたものなのか。商品だけでなく、その背景にも目を向けてほしいと願っている。
誰がどこでつくったものなのかだけでなく、作り手が何を大切にしているのか。その背景まで知れば、商品を選ぶときの視点が変わると考えている。
ただし、目指しているのは、商品の背景を知ってもらうことだけではない。買って終わりではなく、その後も作り手との関係が続き、応援が生まれ、その一部が地域へ返っていくことを思い描いている。地域を応援したいという気持ちを、特別な行動ではなく、日常の買い物から育てていく。消費者に向けても「そんなあたたかい循環を、私たちと一緒に育てていただけるチームに加わっていただけたら幸いです」と呼びかける。購入者も一緒に地域を応援する関係をつくっていきたいという願いがある。
廃業より継承を増やし、地域から頼られる市場を目指す
目利き市場が長期的に目指すのは、頑張る人や地域の価値が見つけられ、応援され、支え合いながら挑戦を続けられる社会だ。地域には、一度なくしてしまえば元に戻らないものがある。輪島での経験を原点に、商品を販売することと、その地域にある価値を次の世代へ引き継ぐことの両方を見据えている。
そのための構想として掲げているのが、一次産業を起点に、加工、販売、体験、交流までをつなげることだ。商品を生み出す人だけでなく、それを届け、味わい、地域と関わる人まで視野に入れ、新しい経済循環を地域につくりたいと考えている。現時点で取り組んでいるECサービスの枠を超えた、今後の目標である。
5年後、10年後には、さまざまな地域から声を掛けてもらい、頼られる存在になりたいという。さらに可能であれば、自らも一次産業に携わり、売上を地域へ還元する仕組みを当たり前にしていきたいと望んでいる。地域の生産者や事業者から頼りにされ、売上が地域へ戻っていくような関係をつくることを望んでいる。
廃業ではなく継承が増えていくこと。そして、地域の人々から愛される市場をつくり続けること。目利き市場は、そのような未来へ向けて事業を育てようとしている。




