
初音ミクを用いた「メルト」でニコニコ動画から世に出て、「君の知らない物語」をはじめとする数々のアニメ主題歌でゼロ年代後半のカルチャーを象徴したクリエイター集団supercell。長く目立った新曲の発表がなかったこのグループが、今、再び動き出した。
中心人物であるryo氏が30日、自身のXとnoteでsupercellの再始動を発表した。新曲のタイトルは「夜と青」。ボーカルには、かつて幾多の名曲を歌い上げたやなぎなぎ氏を迎える。11月20日公開の劇場アニメーション『魔法使いの夜』の主題歌である。この一報に、長年ファンだった人々からは驚きと歓喜の声が相次いでいる。
「眠ったままだった」supercellをふたたび動かした一曲
「supercell、再始動します」。ryo氏の投稿は、この簡潔な一文から始まった。
supercellは、ryo氏を中心に、漫画家の三輪士郎氏、イラストレーターのredjuice氏、huke氏らが参加するクリエイター集団である。2007年に初音ミクを用いた楽曲「メルト」をニコニコ動画に投稿して注目を集め、2009年に初のアルバム「supercell」でメジャーデビューした。翌年には日本ゴールドディスク大賞のニュー・アーティスト部門を受賞し、アニメ「化物語」のテーマソング「君の知らない物語」、「ギルティクラウン」のオープニングテーマ「My Dearest」などを世に送り出してきた。音楽とビジュアルの双方から一つの世界観を立ち上げるその手法は、当時のインターネット発カルチャーを牽引する存在だった。
そのsupercellの名を、ryo氏は決して安売りしてこなかった。だからこそ、久々の新曲という報せは大きな意味を持つ。ryo氏はnoteで、今回の再始動が計画されたものではなく、一つの依頼から始まったことを率直に明かしている。「こういう機会がなかったら、たぶんsupercellは眠ったままだったと思う」という言葉には、この楽曲がなければ動き出さなかったかもしれないという、飾らない実感がにじむ。
15年ぶりの再会 やなぎなぎ氏が歌うsupercellの新曲
今回、多くのファンの胸を打ったのが、ボーカルにやなぎなぎ氏が起用されたことである。
やなぎなぎ氏は「君の知らない物語」をはじめ、supercellの数々の楽曲でボーカルを務めてきた歌い手だ。ただ、音楽ナタリーによると、やなぎなぎ氏がsupercellの新曲でボーカルを担当するのは、2011年3月発売の2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」以来、約15年ぶりとなる。数字にすればおよそ15年。その間に新たに聴き始めた世代もいれば、当時の曲を胸に刻んだまま大人になった世代もいる。それぞれの時間の上に、また一曲が重ねられることになる。
そしてこの再会には、もう一つの因縁がある。オリコンによると、supercellはPCゲーム版『魔法使いの夜』でも主題歌「星が瞬くこんな夜に」を担当しており、今回やなぎなぎ氏を迎えた「夜と青」で、再び同じ作品の主題歌を手がけることになった。同じ作品、同じ歌い手、そして時を経た同じ作り手。ryo氏がnoteで「懐かしい」と綴ったその言葉の重みが、ここにある。
ryo氏は再始動にあたり、こうコメントしている。「今回のお話がなければ、supercellはまだ眠ったままだったと思います。なぎさんの歌で、またsupercellの続きを届けられることが本当にうれしいです」。一方のやなぎなぎ氏も、MANTANWEBによると、「なんとこの時代に、supercellとして新曲をまた歌うことができるとは、びっくり&うれしいです」と喜びを表し、進化を重ねたryo氏の楽曲の魅力を伝えたいと気持ちを込めたことを明かした。
「今の自分が作った曲」 再始動という言葉の中身
ryo氏がnoteで印象的に語っているのは、再始動という大きな言葉を、決して大げさに扱っていない点である。
ryo氏によれば、この楽曲が完成したのは今年7月の後半で、発表の時点でもまだ作業が残っているという。急に決まった話でもあり、感慨に浸るというより、今も普通に作っている最中だと綴る。歌のひと言、ギターの音量、ハイハットの鳴り方。そうした細部を最後まで触り続けていたといい、再始動という言葉の中身も、自分にとってはそうした作業の積み重ねだと表現している。
そのうえでryo氏は、今回の曲を「昔の自分じゃない、今の自分が作った曲」と位置づけ、それを今のやなぎなぎ氏に歌ってもらったと記す。過去の再現ではなく、現在地からの一曲だという矜持である。かつてsupercellがそうであったように、自分たちで作品を作って世に届けるという姿勢は、15年を経ても変わっていない。
『魔法使いの夜』最終予告で先行公開 ファンからは歓喜の声
新曲「夜と青」は、9月30日に公開された劇場アニメーション『魔法使いの夜』の最終予告映像で、その一部を聴くことができる。
『魔法使いの夜』は、『月姫』や『Fate/stay night』で知られるTYPE-MOONの作品を原作とする劇場アニメーションだ。MANTANWEBによると、蒼崎青子役の戸松遥氏、久遠寺有珠役の花澤香菜氏、静希草十郎役の小林裕介氏が出演し、11月20日に公開される。約90秒の映像では、作品のビジュアルとともに新曲が流れる構成になっている。
発表を受けたXでは、長年のファンからの反応が絶えない。「こんな日がまた来るとは」「ずっと待っていました」といった感慨をつづる声。「やなぎなぎがボーカルなんやね、意外と楽しみかも」と新鮮な期待を寄せる声。「またなぎさんの声で聞けるの神」という再会を喜ぶ声。それぞれの立ち位置から、この一報を待ちわびていた気配が伝わってくる。中には、かつてやなぎなぎ氏がボーカルを務めたユニットEGOISTの復活を願う声も混じり、ryo氏の作品群がいかに多くの人の記憶に根を張っているかを物語っている。
積み重ねの先にある一曲
華やかな「再始動」という語感とは裏腹に、ryo氏がnoteで描いてみせたのは、あくまで一曲を仕上げていく地道な工程だった。派手な号令ではなく、音を作り、歌を聴き、また直すという反復の延長線上に、今回の発表がある。
だからこそ、この一曲は多くの人の記憶と現在を静かに結び直す。当時を知る世代にとっては15年越しの再会であり、後から出会った世代にとっては新しいsupercellとの出会いになる。楽曲のリリース情報など詳細は追って発表される予定だが、まずは『魔法使いの夜』の映像とともに流れる「夜と青」に、それぞれの時間を重ねて耳を傾けたい。



