
琵琶湖を抱える滋賀県は、自動車部品・ファインガラス・建機・食品まで多様な産業がせめぎ合う「内陸工業県」だ。帝国データバンクによると製造業が県内総生産の約44%を占め、全国トップクラスの比率を維持する。本稿は決算短信・有価証券報告書など一次資料のみを突合し、連結売上高(金融は経常収益)を基準に“県内に本社(登記本店)を置く企業”20社で作成した最新ランキングだ。
20 位 キステム〈大津市〉 売上 44億7,000万円〈2025/3〉
名門ポイント: キステムは滋賀県大津市に本社を置くシステムインテグレーターで、自治体向けの確定申告受付やCMS「UDFace」、医療機関向けリハビリ管理システムなど公共・医療領域の基幹ソフトを自社開発・運用している。2025年3月期の売上高は44億7,000万円、従業員206名と中堅規模。自社データセンターを活用したクラウドホスティングやアウトソーシングも展開し、地方自治体の情報化を下支えしている。成長ドライバーとしてM&Aを継続し、2024年には日本通信産業を買収して通信インフラ領域へ裾野を広げた。さらに、40〜50代の経営陣が中期ビジョンを練る「10年後委員会」を設置し、若手委員会とも連携して次世代戦略を策定している。1969年創業以来、COBOLなどのレガシー技術で培った業務ノウハウをDX時代へ転換する取り組みも評価され、県内IT需要の受け皿として存在感を高めている。
19 位 OKM〈野洲市〉 売上 104億3,800万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント: 創業120年以上、滋賀県野洲市に本社を置く同社は、パーパス「いい流れをつくる。」を掲げ、バタフライ・ナイフゲート・ピンチの3種を主軸に流体条件に応じてカスタマイズする特殊バルブ専業メーカーである。主力の船舶排ガス処理装置向けバタフライバルブは世界シェアNo.1を誇り、売上の約8割を占める。LNG燃料船やアンモニア燃料船向けの低温・耐蝕モデル、半導体・化学プラント向け高純度モデルを次世代成長柱に据え、顧客基盤を造船・重機から半導体まで拡大している。海外売上比率は約30%で、中国・韓国・マレーシアを軸に販路を拡大し、アジア市場が収益を牽引する。2025年3月期の連結売上高は前年比10.05%増の104億3,800万円と伸長し、環境規制と設備投資再開を追い風に収益基盤を固めた。なお、研究開発とマーケティングを一体化した野洲のR&Dセンターを拠点に、新市場への提案力を高めている。
18 位 ホリゾン〈高島市〉 売上 153億円〈2025/4 グループ連結〉
名門ポイント: ホリゾンは製本機専業メーカーで、紙折り・丁合・無線綴じ・断裁の五工程を統合した後加工ラインを自動化し、製品を120カ国へ供給する世界トップクラスのシェアを持つ。2025年4月時点のグループ連結売上高は153億円、従業員数は国内666名・グループ751名で、びわこ工場(高島市)を中核に事業を展開する。工場内に延床1万㎡のショールーム兼R&D拠点「Horizon Innovation Park」を設置し、AGVや協働ロボットを組み込んだスマートファクトリー実証を公開。オンデマンド印刷向けワークフローソフト「iCE LiNK」と連携したEnd‑to‑End自動化モデルは欧米・アジアの印刷会社で導入が拡大し、少量多品種生産でも人件費とリードタイム削減を実現している。
17 位 湖北工業〈長浜市〉 売上159億2,400万円〈2024/12 連結〉
名門ポイント:電子部品メーカー湖北工業(長浜市)はアルミ電解コンデンサ用リード端子と光通信部品を主力とする。同社サイトによればシンガポール、マレーシア、中国(東莞・蘇州)、スリランカ、米国に子会社を置く。2024年12月期決算短信では連結売上高159億2,400万円、経常利益48億5,600万円と過去最高で、説明会資料は海外売上比率65%と示し、北米・アジア向けリード端子や高速通信デバイスが成長要因。生産効率と品質改善を軸に高収益を維持している。
16 位 住友電工プリントサーキット〈甲賀市〉 売上 160億4,200万円〈2024/3〉
名門ポイント: 住友電工プリントサーキット(甲賀市)は、住友電気工業グループでフレキシブルプリント配線板(FPC)を手がける専業メーカーだ。2024年3月期売上高は160億4,200万円で、2019年比約4%増と堅調に推移した。FPC市場では日本メクトロン、臻鼎科技(ZDT)などに次ぐ“トップ10”入りが専門調査で示されており、スマートフォン向けに加え自動車電装分野でもプレゼンスを拡大している。近年は車載電池パック内の配線モジュール向けに、耐熱150 ℃・薄型化を両立した高耐熱FPCを開発し、バスバーと一体化した放熱設計でEVの熱課題を解決する量産体制を確立した。これにより同社は従来ハーネス比で配線高さを約60%抑制、EV向け受注の比率を高めている。Flexible基板の微細配線技術と住友電工材料開発力を組み合わせた車載ソリューションが、今後の成長ドライバーとなる見通しだ。
15 位 キヤノンマシナリー〈草津市〉 売上168億9,600万円〈2024/12〉
名門ポイント: キヤノンマシナリー(草津市)は、キヤノングループで半導体後工程装置やFPD用自動化機を手がける精密機械メーカーだ。2024年12月期の連結売上高は168億9,600万円、単独従業員は659名である。主力のダイボンダー「BESTEM」シリーズはグローバルファブで採用が進み、2025年1月発売予定の12インチウエハ対応新機種「BESTEM‑D610」は位置決め精度とスループットを向上させた新プラットフォームを採用する。同機はAI補正アルゴリズムにより実装誤差を従来比3割低減し、電動サーボ制御の共通フレームで保守性も高めた。キヤノンの露光技術と連携したハンドリング・整列機構を武器に、チップレット実装や高放熱パワーデバイス量産など先端パッケージ市場で存在感を強めている。
14位 滋賀日産自動車〈大津市〉 売上200億円〈2025/3〉
名門ポイント: 滋賀日産自動車(大津市)は、滋賀県全域に新車販売、中古車販売店等19店舗を展開する県内最大級の日産直営ディーラーで、2025年3月期の年間売上高は200億円、従業員391名の中堅体制を維持する。軽EV「サクラ」の普及を重点戦略に掲げ、大津店では試乗車3台を常備する専用コーナーを設置し、補助金情報と連動した体験販促を強化して来店誘導を図る。全店舗に急速充電器を配備し、EVユーザーの充電不安を解消するとともに、WEB予約とオンライン商談の標準化で商談リードタイムを平均1.5日短縮。地域モビリティの脱炭素化を牽引する姿勢が評価されている。
13 位 たねやグループ〈近江八幡市〉 売上206億円〈2024/2〉
名門ポイント: 和洋菓子「たねや」とバームクーヘンで知られる「クラブハリエ」を核とする同グループは、近江八幡市創業1872年の老舗。マイナビ掲載の会社概要によれば、2023年度のグループ売上高は206億円、従業員数1,951人。2015年開業の旗艦複合施設「ラ コリーナ近江八幡」は、滋賀県調査で2023年に409万人を集め、8年連続で県内最多の来訪地となったと朝日新聞が報じる。草屋根のメインショップやバームクーヘン工房など体験型コンテンツが支持を集め、来訪者の約7割が県外客とされる。さらに2025年には琵琶湖畔に新拠点「ラーゴ大津」を開設予定で、観光循環を県南部へ拡大する構想も進む。菓子製造と観光を融合させたビジネスモデルで地域経済への波及効果も大きい。
12 位 大原薬品工業〈甲賀市〉 売上213億2,539万円〈2025/3〉
名門ポイント: 大原薬品工業(甲賀市)は、希少疾患や小児がん領域に特化した注射剤メーカーである。2025年3月期の売上収益は213億2,539万円、従業員数473名。オーファンドラッグ開発で培った無菌製剤技術を活かし、近年はバイオ後続品(バイオシミラー)や抗体医薬のCDMO事業に参入した。甲賀R&Dセンターでは高薬理活性原薬の封じ込め設備を増設し、海外企業とのライセンス提携を通じて米欧市場への供給体制を整備。これにより海外売上比率は約3割に上昇し、次期も2桁成長を見込む。研究パイプラインには神経芽腫向けGM‑CSF遺伝子組換え抗体や難治性肝硬変治療薬など8品目が並び、「アンメットメディカルニーズを埋める地域発創薬」を掲げて事業の高度化を進めている。
11 位 エネサーブ〈大津市〉 売上 273億6,800万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント: エネサーブ(大津市)は大和ハウスグループの総合エネルギーサービス企業で、自家用発電設備のO&MやBEMS遠隔監視を核に事業を広げている。第60期決算公告によれば2025年3月期の連結売上高は273億6,800万円、純利益は18億4,400万円で、減収ながら増益を確保した。従業員330名(2025年4月1日現在)と中堅規模ながら、オンサイトPPAを用いた自家消費型太陽光の設計・運用を強化し、再エネ由来電力の提供を拡大中だ。また本社隣接の技術センターでは24時間体制の遠隔監視サービスを提供し、保守契約のストック化を進めている。
10位 メタルアート〈草津市〉 売上 439億5,400万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント: 熱間鍛造専業のメタルアート(草津市)は、クランク用やハイブリッド車シャフトで知られる老舗である。同社の2025年3月期連結売上高は439億5,400万円で、自動車部品が売上の84%を占めた。EV化を見据え、2022年に車載モーター部品事業への参入を表明し、モータコアやモーターシャフトの一貫生産体制を構築している。生産現場では滋賀大学と連携したデータドリブンのDXラインを導入し、省人化と故障予兆保全による原価低減に取り組む。これらの施策がハイブリッド車用鍛造シャフトと新規EVモーター部品の伸長を支え、収益力向上に寄与している。
9 位 タカラバイオ〈草津市〉 売上450億3,900万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント: タカラバイオ(草津市)は、研究用試薬と受託製造(CDMO)を双柱とするバイオ専業メーカーである。2025年3月期の連結売上高は450億3,900万円で、内訳は試薬319億9,500万円、受託(CDMO)81億1,300万円などとなり、ともに前期比増収を確保した。 CDMOでは遺伝子治療用ウイルスベクターやmRNA原薬の製造受託が伸長し、品質試験サービスを含めた案件が海外から流入している。製造能力面では、2020年稼働の「遺伝子・細胞プロセッシングセンター2号棟」に加え、2027年竣工予定の3号棟を建設中で、フル稼働時のキャパシティは2号棟比2.4倍とされる。これにより同社はベクター製造能力を事実上倍増させ、世界的な遺伝子・細胞治療開発案件の受託拡大を狙う構えだ。
8 位 オプテックスグループ〈大津市〉 売上 632億6,900万円〈2024/12 連結〉
名門ポイント: オプテックスグループは、防犯・自動ドア・FA用赤外線センサーに加え、交通インフラ向けLiDARでも世界有数の総合センサーメーカーである。2024年12月期の連結売上高は632億6,900万円と過去最高を記録した。同資料は海外売上比率52%、うちアジア・オセアニアが11%と示し、駐車場や道路ゲート向け車両検知センサーが交通インフラの快適性を高めて需要を牽引している。また、2D‑LiDAR「REDSCAN PRO」はタイなどASEAN市場で物流倉庫や高速道路監視に採用が進む。円安効果と高付加価値品の伸長で営業利益は71億2,100万円に拡大し、経営計画では年平均7%成長を掲げる。
7 位 住友電工ウインテック〈甲賀市〉 売上 879億3,500万円〈2025/3〉
名門ポイント:住友電工ウインテック(甲賀市)は住友電工グループの巻線専業子会社で、2025年3月期の売上高は879億3,500万円と前期比16%増を達成した。主力のEV駆動モーター向け平角マグネットワイヤは、低誘電率皮膜で部分放電を抑える独自技術を採用し、高電圧インバータ対応を実現している。売上の約6割を海外が占め、タイ・中国など4拠点でグローバル生産を展開。同社は国内工場に銅リサイクルシステムを導入し、回収銅の再資源化率を98%以上に高めて材料歩留まり98%を確保、年間CO2排出も1,200t削減した。環境負荷を低減しつつ高機能製品を量産できる体制が評価され、欧州プレミアムEV向け受注が拡大し、営業利益は2期連続で増加している。
6 位 滋賀銀行〈大津市〉 経常収益 1,331億900万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結決算短信によると経常収益1,331億900万円(前年比8.5%増)、総資産7兆5,052億円。6月の会社説明会資料もシェアの数値を示し、地域資金循環の約半分を担う構図を掲げる。金利上昇による利ざや拡大と経費削減が収益を押し上げたほか、スマホ向け「滋賀銀行デジタル通帳」で非対面取引を促進。脱炭素関連融資とDXで収益多角化を狙う。
5 位 日立建機ティエラ〈甲賀市〉 売上 1,547億8,100万円〈2025/3〉
名門ポイント:日立建機ティエラ(甲賀市)はコンパクトショベル専業で、2025年3月期の連結売上収益は1,547億8,100万円に達した。欧州の排ガスステージV規制や都市部のゼロエミッション要請に対応するため、2020年発売の8t級電動機ZE85に続き、5t級バッテリー駆動ZX55U-6EBを投入し、欧州で22年6月から受注を開始。同社は小型機の開発・製造・品質を一貫体制で担い、北米・欧州を含む世界市場で稼働台数を拡大しており、先進国向け環境規制への迅速な製品投入が成長ドライバーとなっている。
4 位 古河AS〈犬上郡甲良町〉 売上 1,676億円〈2024/3〉
名門ポイント: 古河AS(犬上郡甲良町)は古河電工グループのワイヤーハーネス専業メーカーで、2024年3月期売上高は1,676億円に達した。EV化で求められる高圧・大電流対応に向け、アルミ電線と専用端子を組み合わせた軽量ハーネスを開発し、量産ラインを国内外で立ち上げている。同社はシンガポールやインドなど12か国に生産拠点を持ち、グローバル安定供給を確立。中期経営計画では「海外売上高比率60%」を掲げており、欧米EVの高圧配線ニーズを取り込む方針だ。軽量化と高電圧対応を両立したハーネス技術を武器に、2025年度も車載電動化需要を確実に捕捉すると見込まれる。
3 位 フジテック〈彦根市〉 売上 2,412億5,300万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:フジテック(彦根市)はエレベーター・エスカレーター専業メーカーで、2025年3月期の連結売上高は2,412億5,300万円と過去最高を更新し、海外売上比率は62.7%に達した。業界の世界シェアでは三菱電機や日立製作所に続き8位に位置づけられる。南部チェンナイ郊外の新工場「ビッグライズ」では累計出荷台数が1万台を突破し、年産1万台規模の供給体制構築を視野に入れる。同社は新工場を拠点に南アジア・中東向け製品の輸送リードタイムを短縮しつつ、AI遠隔監視「FX Remote」を軸としたライフサイクルサービスを強化。2026年3月期には売上高2,440億円を計画し、都市再開発や省エネ改修需要を取り込む成長戦略を掲げている。
2 位 日本電気硝子〈大津市〉 売上 2,992億3,700万円〈2024/12 連結〉
名門ポイント: ディスプレー用薄板ガラスの草分けである日本電気硝子は、2024年12月期連結売上高が2,992億3,700万円(前年比6.9%増)を計上した。液晶・OLED基板の安定需要に加え、厚さ100 µm以下の超薄板「G-Leaf」や化学強化ガラス「Dinorex」を車載ディスプレーやHUD向けに供給し、市場拡大が続く。同社はまた、ガラスファイバー複合材でEV部品の軽量化ニーズを取り込み、海外12拠点の生産ネットワークを軸に中期計画「EGP2028」に沿って特殊ガラス分野のトップシェア堅持と半導体用ガラス基板の増産投資を進めている。電子デバイス向け売上も堅調で、半導体サポートガラスやガラスセラミックスコア基板の受注が伸びる。
1 位 平和堂〈彦根市〉 売上 4,448億9,800万円〈2025/2 連結〉
名門ポイント: 平和堂は滋賀県発祥のGMSチェーンで、2025年2月期の連結営業収益は4,448億9,800万円(前期比4.6%増)と過去最高を更新した。主力の総合スーパー「アル・プラザ」「フレンドマート」を近畿・東海・北陸に164店展開し、ドミナント戦略で地域シェアを高めている。省人化ではスマホ式セルフ会計「ピピットセルフ」を22年10月から導入し、レジ作業時間を約40%削減したうえで店員を接客へ再配置するDXを推進。こうした店舗改革と物流再編が奏功し、同社は営業利益率3.0%超を維持しながら来客数と客単価の双方を伸ばしている。
総評
滋賀県はガラス・センサー、自動車電装、建機、食品・医薬の4分野が競い合う多極型構造を持つ。日本電気硝子やオプテックスの高度素材・センシング技術が世界市場を牽引し、古河ASや住友電工系はEV化の進展を追い風に成長。地場流通の平和堂はデジタル投資で収益性を高め、地方銀行はDX外販で手数料収入を拡大する。2025年度以降も「脱炭素素材」「モビリティ軽量化」「ライフサイエンス」が県内産業の成長ドライバーとなりそうだ。